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みんなの花

むかしむかし。

ある人が、よく耕された土地に、とても素晴らしい花を咲かせる種を持ってやってきました。その人は世界中を走り回って種を集めたり、集めた種を各地で配って育てられる人に託し、素敵な花が咲くところをたくさん見てきました。

その人の友達は、その土地でその土を耕してきた人たちのこれまでのことはよく知らないけれど、「とてもいい土だよ。ここならきっとあなたの花も咲くだろう。」と話しました。

土を耕してきた人たちは、「そんな素晴らしい花、見てみたいなぁ」と喜んで、そこにその種を植えるように勧めました。

「この花が咲けば、それを見た人も匂いを嗅いだ人も触れてみた人も、みんなやさしい気持ちで暮らせるだろう。もしかしたら、この村の人だけでなく、世界中の人が。」

種を持ってきた人も、その友達も、土を耕してきた人も、「自分たちのしてきたことがこんなに役に立つことはない」と嬉しさに震えながら、どうしたら素敵な花が咲くのか、一生懸命に考え、育てていくために話し合いました。


「これはみんなの花だから、大事に育てよう」と誰もが思っていました。



通りすがりの人や種を持ってきた人の友達は、色々なアイディアを出し合っています。
「音楽を聴かせたらどうかしら」
「毎日おはようって声をかけているよ」
「水をやりすぎると良くないんじゃない?」
「囲いを付けて守っておかなくちゃ!」

土を耕してきた人たちは、これまでにその土地で育ててきた花や野菜や果物のことを思い出しながら、土づくりを続けました。
「ここらは雨が降り出すと長いから、種が流れてしまわないように、根腐れしないように、少し別な土を足してみようか」
「この花はどんな虫と相性がいいかしら?芽が出たら周りに少し別な植物も植えてみる?」
「根が張るのには時間がかかるもんだけど、丈夫そうな良い種だし、焦らずにいこう」
「そんなに素敵な花が咲くなら死んでもいい!と思って今一生懸命いろんな人から肥料を分けてもらったりしてるんだけどね、長いこと生きてきてこんな素晴らしい瞬間に立ち会えると思うと本当に嬉しい!」

みんながその花が咲くのを楽しみに、自分がどんなことができるかを考えてやっていました。

土をほじくり返そうとしたり、立て札に変な落書きをしたり、自分の庭の花よりも素敵な花が咲いてしまわないように邪魔をする人もいましたが、この花はみんなに守られ、みんなに育てられているので、ちっとも平気でした。

種が土に馴染み芽を出すと、最近になってようやく花の存在に気づいたような人までみんながますます嬉しくなって、「これは私たちの花だ」と口々に言い合い喜びました。


ところがある日その場所を通りかかると、大きな声が聞こえました。
「この土地の土のことを何にも知らないで、どうして花が育つと思うのか!」

すぐ後で、また別の大声がしました。
「これは新しい種なんだから、種に合った土をどんどん入れて何が悪い!」

どうやら、もうすぐ王国の測量があり、その日までに芽が基準の高さにまで伸びていないと、その植物はいらないものとして抜かれてしまうことになったのだそう。

土を耕してきた人たちは、これまでこの土地で何度も失敗と成功を繰り返してきた経験から、その日までには基準に達するだろうという予測をしていたので、「いろんなアイデアを活かしながら、このままみんなで大事に育てていれば大丈夫だ」と思っていました。

しかし、種を持ってきた人やその友達は「本当にこの土地の土でこの芽が育っていくのか」「もっとあちこちから良い土を集めてきた方が、早く育つのではないか」と思い、耕され整えられた土の上にさらに土を被せたのです。


「どうしても花を咲かせたい」という気持ちは誰も諦めていないので、「勝手にしろ!」と投げ出す人はいませんでした。

土を耕してきた人は「何十年もこの土地で大事に育ててきた土が、ダメな物のように扱われている」と落ち込んでいました。土を耕すことを大事に思う新しい人が、長年働いてきた人たちと一緒になって、“この土地でよりよく生きていく”ために必要な土づくりを始めていたところだったのに、と。
それでも、「この土はダメなんかじゃないよ。確かに芽が出ているじゃないか」と、彼らは落ち込みながらも耕すことはやめずに続けていました。そうでなければこれまで耕してきたこの土が、本当に台無しになってしまうことを、みんな知っているからです。

一方、種を持ってきた人たちは「この種の素晴らしさがまだ彼らにはわかっていない」「もっといい土があるから持ってきてあげたのに!」と怒っていました。
村の外でせっかく見つけてきた道具や肥料について、使ったことのない道具や見たことのない肥料だからといって「これは本当に効果があるのか」などと聞かれることも嫌でした。試しもする前に決めつけないで欲しかったのです。村の外には専門家がたくさんいて、ちゃんとその人たちに聞いて選んできたんですから。


さぁ、花は無事に育ち、測量の日を乗り越えて咲くことができるのでしょうか?

ちなみにこの花、芽が出て伸びてもうすっかり大きくなったなぁと見上げるほどになった後、そこから1年以上かけて根をがっちり伸ばしてからでないと、咲かないそうです。

まだまだ色々ありそうですね。

では、続きはまた今度。

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