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灯台のぼる記 #14 雑賀埼灯台(和歌山市)

さて、最近は参観灯台(=のぼれる灯台)以外の灯台ばっかめぐっているため、「灯台のぼる記」なるタイトルが有名無実化しております。

が、今回はまごう事なき「のぼれる灯台」です!(厳密には参観灯台ではないけれど)

そんな、雑賀埼さいかさき灯台のお話。


風光明媚の地に立つ雑賀埼灯台

和歌山市の中心部から車で10分ほど南へ走ると、切り立った崖にバブルを思わせる観光ホテル群、そしてうららかな漁村の風景がひろがる雑賀崎にたどり着きます。

最近大きな事件があったせいで、ニュースでもその名前をよく聞くようになってしまったのは悲しいことですが、そうでなくても雑賀崎は「日本のアマルフィ」などと呼ばれる風光明媚な土地なのです。

漁港へ至る手前の道を右へ折れ、細く曲がりくねった道を進むと雑賀埼灯台へ到着。
写真の通り、見るからにヘンテコな形をしております。

なんじゃこりゃ。

四つ足で踏ん張るその姿は、なんだか動物のようにも見えませんか?


灯台が先か、展望台が先か

このヘンテコな形になったのには理由があります。

実はこの灯台、展望台をつくる「ついで」に建てられたものだというのです。

前日の通り、日本のアマルフィとも呼ばれる雑賀崎一帯。
海沿いの小高い丘からは、紀伊水道に沈む夕日や、要塞跡で知られる友ヶ島を臨むことができます。

そんな雑賀崎にある小高い丘、かつてお城が建っていた場所に、和歌山市が展望台を設けようとしたのが1960年ごろのこと。

その計画に海上保安庁が相乗りし・・・たのか詳しいところはわかりませんけれども、ともかく展望台に併設する形で灯台も設置されることになったそうです。


ところで、雑賀埼灯台と同じように、灯台に展望施設が併設されている灯台というのは他にもあります。

たとえば、同じく和歌山県にある樫野埼かしのさき灯台や、

樫野埼灯台(和歌山県串本町)

「のぼれる灯台」のひとつで、関東の大学生が連休で遊びにいきがちな観光地上位に君臨する初島にある灯台など。

初島灯台(静岡県熱海市)

ただ、これら2基の灯台に共通しているのは、
灯台が先にあって、展望施設はあとから付け加えられたもの」だということ。

あくまで実用に資する標識である灯台が先で、観光用途の展望施設(この場合、らせん階段)はそれに付随するものなんです。

それに対して、雑賀埼灯台はおそらく灯台が後だということで、ちょっと出自を異にしているということがおわかりかと思います。


あの踊り場に行きたい、ぐぬぬ

そういう経緯で、おそらく雑賀埼灯台の灯台部分と展望台部分は同時に建設が進んだものと推測されます。
そのため、灯台の灯塔と展望設備は見事に調和し一体化。
これが独特の魅力を放っています。

塔にそってぴっちり巻き付くらせん階段、かわいい。

展望台の最上階に出ると、三方に海が開ける絶好のロケーションです。
写真に見えるようにフロアは四角形になっています。

ただ、灯台が目当ての物好きとしては、

この丸い踊り場に出たい・・・。

そんでもって、展望台からの眺めは文句なしです。
そりゃ、展望台として作られたものですからね、元々。


そっと仕事の始まりを見届けて

灯台の下のベンチに腰掛けてぼーっとしていると、徐々に日が傾いてきました。

日没に合わせるように、誰もいなかった灯台には代わる代わる観光客が訪れて、そして去って行きます。

しかし、灯台好きが興奮するのはここから。

この、玻璃板(ガラス窓)に反射する光がたまらん好き

午後6時42分、ポっと灯器に光がつき、ぐるぐると回り始めます。
そう、灯台が目を覚まして仕事を始めたのです。

展望台を訪れた人たちは、そのあたたかな光に気付くこともなく、ここをあとにします。なんともったいない。

でも、灯台とは本来そういうものなのかもしれません。
海の安全を守るため、人知れず働く縁の下の力持ちなのですから。


帰り際、少し遠くからもう一度灯台を眺めます。

丘の上へ続く道。

灯台は、ここへ帰る人たちにとっての道しるべでもあるのだなぁと、ちょっぴりあたたかい気持ちになりました。

2023.5.7

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