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灯台のぼる記 #4 御前埼灯台(静岡県御前崎市)

のぼれる灯台、今回訪ねるのは静岡県の御前埼おまえさき灯台。
静岡には以前住んでいたこともあり、灯台自体何度ものぼったことがあります。

ただ、スタンプラリー開始以降は初の来訪。あらためて灯台の美しい姿をじっくりと目に焼き付けようと思いながら、車を東へと走らせます。


まずは夜の御姿を

現地に到着したのは夜8時ごろ。
別の用事があり近くで1泊する予定だったので、夜の姿=灯台が仕事をしている姿、を見ようと思ったのです。

駐車場に車をとめると、さっそく灯台がお出迎え。

青空に映える白亜の塔も良いですが、闇夜にぼうっと光を放つ灯台もまた良きですね。
光の筋がくるくるとまわっていて幻想的ですが、写真に写し込むのが難しい…。

ちなみに、夜なので当然「のぼる」ことはできません(参観は平日午後4時、土日午後4時30分まで)
それでも、闇夜に立つ塔を見ようと訪れている人がちらほらいらっしゃいました。


それにしても、「灯台下暗し」とはよく言ったもので、御前埼灯台へ至る石の階段、これが冗談抜きに暗いです。懐中電灯が必須です。あと、闇夜にカサコソと走り回るあの虫がめちゃくちゃ多いです。湿気があって暖かいのですから、当然のこととして受け流しましょう。気にしなければ気にならない。


端正なハリハンに見惚れる

翌朝。

あらためてその姿を見てみます。
御前埼灯台、のぼれる灯台16基の中でも、上半身の美しさはトップクラスじゃないかと個人的に思っています。

塔の高さこそ22メートルと凡庸で、どことなくずんぐりむっくりしています。
が、注目すべきは塔上部のハリハン(玻璃板=レンズを覆うガラス窓)です。

三角形が並ぶハリハン

三角形の造形が3段にも重なり、堂々たる存在感を示しています。

黄色矢印がレンズ

それと比較してアンバランスに写るのが、ハリハンの中に鎮座するレンズ。
高さ約1.5mの第3等大型フレネルレンズが使われています。
レンズを格納するだけなら、これだけ豪奢なハリハンをこしらえる必要はないのでは?と思ったのですが…。

調べてみると、実はかつてもっと大型のレンズがハリハンの中に収まっていたのです。


レンズに見る灯台の歴史

御前埼灯台の完成・初点灯は1874年のこと。
今から150年近くも前です。

灯台正面につけられた初点プレート

当時この灯台のために用意されたレンズは、
日本で初めての「回転式の第1等フレネルレンズ」でした。

高さ約1.5mの第3等大型フレネルレンズに対して、
第1等フレネルレンズの高さは約2.6m。
約1mも大きいレンズを覆うために、この立派なハリハンが作られたという訳なのです。

その日から海の安全を守り続けた御前埼灯台。
ですが悲しいかな、第二次世界大戦中にアメリカの軍艦から砲撃を受け、レンズを破壊されてしまいます。
こちらの記事中写真に、被害を受けた灯台の写真が載っています)

塔自体も被害を受けますが、戦後の1949年に工事を経て奇跡の復活。
その際に、破壊されたレンズに代わり現在の第3等大型フレネルレンズに交換されたそうです。

現在の第3等大型フレネルレンズ

オリジナルの美しさを保つことができた灯台本体と、破壊され小型化されたレンズ。
時代の名残である立派なハリハンと、大きさの合わないレンズは、灯台がたどった受難の歴史を今に伝えているかのようです。


踊り場から「晴れの地」を堪能する

外から眺めるだけでも、歴史に思いを馳せさわやかのハンバーグ3人前くらいいけそうな御前埼灯台ですが、ようやっとのぼっていきましょう。

螺旋階段は、左回りでのぼっていきます。

中は人がすれ違うにはちょっと狭いくらい。
内壁にはヒノキが使われています。
こちらは2016年の改修時に貼られたもので、今もほのかにいい香りを漂わせています。

階段とはしごをのぼり、踊り場に出ると…。

ご覧の絶景。
太平洋は遮るものなく、どこまでも海!海!!海!!!
気持ちがいいですね。

ところで、この灯台がある静岡県御前崎市には、こんな「日本一」があります。

全国の主要観測地点(154カ所)における日照時間の中で、御前崎市は2230.6時間/年※で日本一の長さです。
※昭和56年~平成22年のデータの平均値

静岡県公式HPより
※一部略。太字は筆者による

これは私の憶測に過ぎませんが、日照時間が長いというのは2つの要件を満たしていることなのだと思います。
それは、
①単純に晴れの時間が長いこと
②日差しを遮る高い山や建物がないこと
の2つ。

灯台から景色を見てみると、あながち間違いではないんじゃないかな、という気持ちになってきます。

西方向の眺め。
自衛隊のレーダードーム(円形の構造物)や、浜岡原子力発電所(風力発電機の奥)まで見渡せる

資料館は日曜のみ開館

昼夜の姿も見られ大満足の御前埼灯台ですが、ひとつだけ心残りが。
それは、灯台の隣にあるこの旧官舎です。

灯台と旧官舎(手前)

灯台守の住居などとして使われていたこの建物は、日曜日のみ扉が開き、資料館として中に入ることができるようです。
何度も御前埼灯台に通っている私ですが、今のところ日曜日に訪れたことがありません。
いつかはタイミングを計って来訪したいものです。


実は結構推し灯台である御前埼灯台。
なんやかんや書きたいことが募って長くなってしまいました。
もとはといえばその姿に惚れ、じろじろ見ていたらレンズの違和感に気付く、という流れ。
やっぱり世の中、見た目は大事、ということなのでしょうかね。知らんけど。

なお、灯台のふもとにある石畳には、ハート形のものが紛れ込んでいて密かなデートスポットになっているそうです。密かすぎて誰も見向きもしないのが玉に瑕ですが。

次回は潮岬灯台(和歌山県串本町)について書きます。では!

おわり。


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