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【道】 第9回 歩いてまたぐ海底の県境(国道2号/山口県・福岡県)

九州と本州を隔てる関門海峡の流れを見ていると、そこは海というよりも激しい瀬音を感じさせる川のような奔流だ。壇ノ浦の戦い、幕末の四国艦隊への砲撃と、歴史上の転換点で重要な舞台となった関門海峡。その海の下に国道2号の関門トンネルは延びている。

開通から半世紀以上を経た今も、車両用のトンネルは有料道路となっている。本州と九州を結ぶ自動車道としては、他に高速道路の関門橋(関門自動車道)しかないため、料金所は車で数珠つなぎ。九州側の入り口には、大きく口を開けた巨大なフグの絵が描かれている。口の中に車列が吸い込まれていく。コミカルな絵柄に思わず頬が緩む。

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この車両用トンネルは文字通り車道のみ。だから、歩行者がフグの壁画を見ることはない。歩行者用の人道トンネルもきちんと設けられているのだが、本州側(山口県下関市)、九州側(北九州市門司区)ともに、車両用トンネルの入り口からは随分と離れた、海峡に接する所に入り口がある。

「関門トンネル人道トンネル入口」という専用の建物からエレベーターを降りて地下に向かう。人道トンネルの全長は780㍍。歩けば15分ほどの距離となる。車用のトンネルは歩行者用の上にあって2階構造になっている。耳を澄ませば、タイヤの音がかすかに響く。

トンネルの中央部で山口県と福岡県の県境をまたぐ。海の下、自らの足で県境を越えることができるのは、人生でもなかなかあるものではない。

関門国道トンネルは1937(昭和12)年に着工され、戦争中に工事は中断したが、58(昭和33)年開通。当時、世界を見渡しても、海の下を通る自動車用トンネルはなかった。加えて、自動車用トンネルの下に歩行者用のトンネルを造るという設計は、当時としては大胆で画期的な構造だった。それは、こうした構造のトンネルは現在もなお、全国の国道の中でもここ関門トンネルしかないことからも示されよう。

世界でも類を見ない「海底国道」。四方を海に囲まれた日本ならではの国道トンネルをゆっくり歩いて楽しみたい。

2010・12・17 記
時事通信社出稿

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