見出し画像

スマートラウンドは、どうやって米国Founders Fundのスカウト・ファンドから資金調達したのか(その1)

みなさん、こんにちは。いつまでも続編を書こうとしないので、ゴーストライターをつけようかと提案されたスマートラウンドの砂川(@SunagawaSunny)です。ちゃんと自分で書いたよ!!

前回は、弊社スマートラウンドが「なぜ米国Founders Fundのスカウト・ファンドであるFF APAC Scout(以下「FF」)などから資金調達をしたのか」について書かせて頂きました。


今回は、その続編として「どうやってFFから資金調達したのか」の実務の部分についてまとめようと思います。ちなみにこの記事は、前回書いた通り「自社が実験台となってその経験を広く他のスタートアップに還元する」という今回のファイナンスの目的を果たすためのものでもあります。

最近はレイターでアメリカのベンチャーキャピタル(以下VC)から資金調達するスタートアップが増えてきました。SmartHRさんもそうですし、フロムスクラッチさんもそうです。でも、残念ながらシードやアーリーでそれを実施するというのはあまり聞いたことがありません。

これには理由があります。1つは投資家側のリソースの問題です。シードやアーリーの投資は投資額が小さく数をこなしてナンボの世界なので、案件あたりのトランズアクション・コストを抑えることが求められます。したがって海外投資家が慣れない日本でシード投資をすることは、そもそもあまり理にかなっていないのです。

他方、スタートアップ側にも大きな壁が立ち塞がります。外資系投資銀行出身のCFOがいるスタートアップならいざ知らず、英語で資料を作ったりピッチしたり交渉するには、時間も労力もかかります。

こうした障害を乗り越えて、弊社スマートラウンドが苦労をしつつFFなどから資金調達した時のリアル・ストーリーを以下で共有したいと思います。

ちなみに、私が昔アメリカのVCで働いていたという優位性があったことは否めません。ですが、スマートラウンドの経験を踏み台にすることで他のアーリーのスタートアップの皆さんが、少しでも楽に海外のVCから資金調達ができるように、smartroundというサービスを進化させていきたいと考えています。

どうやって出会ったか

これは単純です。紹介です。スタートアップが認識すべきは、日本の投資家であろうが、海外の投資家であろうが関係なく、投資家が優先する案件は、他の投資家からの紹介、過去に付き合いのあった起業家からの紹介、プロフェッショナルファームからの紹介、という事実です。詳しくは以下の資金調達マニュアルをご覧ください。

ちなみに私が勤めていたアメリカの独立系VCのGlobespan Capital Partnersでは、自ら連絡してきたスタートアップに投資したことは1回もありませんでした(それなら窓口つくらなければいいのに、と思ってました)。程度の差こそあれ、おそらくどこも紹介偏重の傾向は同じでしょう。

なので今回のファイナンスでも、私はまず旧知で弊社株主でもあるクラウドワークスの吉田社長にZyngaの共同創業者であるJustin Waldron(以下Justin)を紹介してもらい、JustinにFFのJeffrey Lonsdale(以下Jeff)を紹介してもらいました。

ここで重要なのは、上記の資金調達マニュアルにも書いたとおり、紹介者に「紹介するメリットがある」と思ってもらうことです。私の場合は、Justinに投資してもらうべく全力でピッチをした結果、Justinは自らも投資をする意向であることをJeffに伝えた上で、紹介してくれたのです。

JeffはFFというAPACにフォーカスしたスカウト・ファンドの担当者でした。実はここが超重要なポイントなんです。

あまり知られていませんが、VCはファンドを組成するときにLPAという、リミテッド・パートナー(資金提供者)との間でファンドの運営方法についての契約を締結します。

このLPAには、集めたお金をどんな会社にどれくらい投資をするかなどが規定されており、説明責任を負っているVC(ファンドの運営者)は、LPAの規定どおりに投資を実行することを求められます。

したがって、例えば日本のスタートアップが、いきなりアメリカのVCに出資をしてくれとお願いしても、日本のスタートアップがそのVCの運営するファンドの投資対象に入ってなければ、そもそも投資できないのです。もちろん例外を作ることはできますが、ハードルは高いと考えた方がいいでしょう。

この点、FFはAPACのスカウト・ファンド、つまりアジアのシードやアーリーステージのスタートアップをその投資対象にしたファンドであり、スマートラウンドにはうってつけの投資家だったのです。Justin神だわ。

ミーティングを重ねる

最初にJeffに会ったのは、彼が日本を訪れていた2019年11月15日でした。Justinの推薦はやはり強力で、Jeffは当初から投資を前向きに検討してくれていました。

何度かメールのやりとりやテレカンなどを経て、弊社側でファイナンスの準備が整った2020年の1月13日に、FFの本部のパートナーを紹介してもらいテレカンしました。FFはスカウトファンドなのですが、投資を実行するためにはJeff以外に少なくとも本部のパートナー1人の合意が必要だったからです。

テレカンの前にJustinにもJeffにもアドバイスをもらいました。VCの経験もあり自らもエンジェル投資をしている私ですが、プライドもヘッタクレもありません。フィードバックは宝です。このワンチャンスをものにするため、アドバイスをもとに、いろいろ修正してプレゼンに臨みました。

ちなみに、その時にいくつか参考例として他社のピッチデッキを共有、解説してもらえたことが一番参考になりました。自分が作ったスライドには、どうしても認知バイアスがかかるので、他社事例を使ってバイアスを修正するというプロセスは意外に有効なのかもしれません。以下のようなサイトで予め他社のピッチデッキを研究することをオススメします。


投資手法の選択

その後、他の超有名投資家(こちらは投資額が小さすぎるという上記した問題で次回ラウンドまでパントされることになりましたが)やFFと協議を進め、最終的にFFから投資したい旨の連絡をもらったのは2月12日でした。

最終的な意向をもらう少し前に、ある程度いい感触を得た段階で、今回のラウンドで使うJ-KISSの英文テンプレートを先方に送っておきました。J-KISSを使うことにしたのは、以下の三つの理由からです。

まず一つ目は、J-KISSのコンセプトが交渉や編集を要しない「そのまま使え」系のテンプレートだったからです。YCのSAFEや500のKISSの日本版といえば、先方も想像がつき交渉負荷が最小化されるだろうと予想しました。特に旧500 Startups Japan(現Coral Capital)さんが最初から英語版を用意してくれていたのにも大いに助けられました。


二つ目は外為法です。2019年の外為法改正により、海外VCが日本のスタートアップに投資する場合、政府に対して事前届出をしなくてはならなくなってしまいました。ところが、普通株や優先株と違いJ-KISSは新株予約権なので、転換されて株式になるまでこの届出をしなくてもよく、時間が稼げると考えました(届出をするのはVCですが、実務をやるのは弊社なので)。

三つ目。最大の理由は登記です。アメリカでは投資契約書はDocuSignで締結するのが当たり前になっています。ましてや今回のサイナーはベイエリアにいるFF本部の人なので、物理的サインをお願いすれば先方も嫌がるだろうし、なにより時間がかかります。その間に何かが起こりファイナンスが不調に終わったら大問題です。

一方で日本で「募集株式の発行」をした時には必ず変更登記をしなければなりません。そしてその変更登記申請には物理的な印影やサインのある引受申込書や投資契約書の提出が義務付けられています。

そこでJ-KISSです。新株予約権であるJ-KISSの場合は「申込割当方式」にすれば、例外的に電子署名による引受申込書でも変更登記の申請ができることをCoral Capitalの澤山さんと司法書士の真下さんに教えてもらい、これしかないと考えたのです。

次回につづく… 前後半のはずだったのに長すぎて三部作になりました。ごめんなさい。

あ、ちなみに海外投資家から資金調達をするために、今すぐできることを1つだけ。LinkedInを英語で全力で整理しましょう。というか、海外ではそれがないとお話になりません。ですよね、村上さん!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?