【脱炭素経営の前線から 2】 関西電力 執行役員 桒野 理氏に聞く 「電気事業者と脱炭素経営」
急速化する日本企業の脱炭素経営に役立つ情報をお届けする「脱炭素経営の前線から」。第2回は、「関西電力」執行役員である桒野 理(くわの さとし)氏が登場。「ゼロカーボンエネルギーのリーディングカンパニー」として知られる関西電力で、新設された水素事業戦略室長などとして新領域事業を推進されている桒野氏より、インフラ事業者による脱炭素経営へのビジョンをお話いただきました。桒野氏には2021年9月開催「脱炭素経営EXPO」でも、セミナー講師としてご登壇いただく予定です。
●プロフィール 1991年3月、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。関西電力(株)入社。火力開発部長を経て、2018年6月より火力事業本部副事業本部長、2021年1月より地域エネルギー本部副本部長兼務。
デマンド側のゼロカーボンに向けたソリューション活動を強化、2021年5月水素事業戦略室長兼務となり、水素社会の実現に向けた取組みを加速。
■加速する脱炭素化への取組み
―「脱炭素経営EXPO」では、桒野さんご登壇の特別セミナー開催を予定しております。本日は関西電力出展とご講演に先駆けて、脱炭素化時代の事業活動についての知見や、今後のサービスについてお聞かせください。
桒野:脱炭素化の潮流は、言うまでもなく2020年秋の菅総理の宣言以降加速し、ここから一気に社会全体が脱炭素の潮流に巻き込まれていきました。これは、我々関西電力の人間だけでなく、すべての日本国民が激しく実感しているところだと思います。日本国全体がゼロカーボンに向けて動き出したのです。インフラ事業をになう電気事業者のミッションとして、我々は国に対してしっかりと貢献しないといけないだけでなく、脱炭素に向けた社会全体への貢献活動を欠かすことはできません。
このことを痛感した当時の経営陣により、関西電力では組織の改正まで含めた対応を実施しました。具体的には、まず2021年1月にすべてのお客さまに脱炭素経営に関するさまざまなサービスを提供し取組みをご支援する「脱炭素ソリューショングループ」を設立。さらにゼロカーボンに向け「ゼロカーボンビジョン2050」を発表、ビジョンの実現に向け社長を委員長とする「ゼロカーボン委員会」を設置しました。ついで、社会の脱炭素化実現においては水素利用が重要なカードとなるとの考えから、5月には「水素事業戦略室」を立ち上げ、私はその室長として任にあたっております。
■お客さまとともに、一歩進んだ脱炭素化を
―「脱炭素経営EXPO」出展を決めた狙いは、インフラ事業者として脱炭素経営の姿勢を示すことと、自社の脱炭素化に悩まれている方々にソリューション提案ができる場にしたいという両方があったということでしょうか。
桒野:おっしゃる通りです。脱炭素に関するお客さまの課題に対して、電気事業者としておつきあいの中で応えていく必要があるという思いが、まずは出展への動機です。法人様向けにゼロカーボンコンサルティングサービスとして、CO2排出量削減の目標設定から情報開示までトータルサポートするとともに、具体策実行に向けた多様なソリューションをご提供します。 具体的には、国際的な基準に合わせたゼロカーボン化目標の設定支援や、ESG投資などを意識するお客さまへの情報開示、CDP回答にかかるアドバイスなどお客さまの「目標設定」や「ロードマップ策定」を支援することに加え、具体策の実行に向けたソリューションをご提案します。
今回は展示会をビジネスの機会とすること以上に、お客さまの悩みや声をお聞きできる場としての期待があります。
国全体が脱炭素の方向に向かっていく中、我々事業者がどのような形で国とコミュニケーションをとっていけばいいのかのヒントやお声をお客さまからちょうだいし、事業者に皆様が何を求めておられるのかをリアルに捉えたい。さらにお客さまの脱炭素経営に関しても、我々の知見をご提供し、お手伝いできる機会になればと考えております。
―脱炭素経営に悩む方には、まずはブースに足を運んでいただき、知りたいことや疑問を率直にお話いただけるとよいですね。
桒野:はい。私ども関西電力は、国内の電気事業者の中でゼロカーボン発電電力量No.1であると自負しております。さらに、これまでから、お客さまのニーズに沿った最適なエネルギーシステムとその運用方法のご提案を通じて、省エネ・脱炭素など多様なニーズにお応えしてきた事業者でもあります。エネルギー消費について考える幅広いお客さまに対して、私どもがつちかってきた知見を十分にご提供できる自信がございます。
ネットゼロの社会を実現するためには、お客さまとともに一歩進んだ脱炭素に向けての取り組みをスタートしないと到達はできないでしょう。ブースを訪れたり、セミナーに参加していただいた方々に対して、まずは関西電力の知見をお示しするつもりです。さらにはお客さまがお持ちの個々の課題や知見と、我々の課題や知見、アドバイスを融合させて、将来の脱炭素化社会の実現に向けた一歩を踏み出す「出会いの場」となることを期待しています。
■一事業者、一産業界だけでは難しい
―以前は「脱炭素化社会推進は、電力会社をはじめエネルギー業界がまず頑張ること」というイメージがありましたが、菅総理の発表以降は「企業が脱炭素化に向け一致団結して向かっていく」ものに、社会が変わったと感じます。
桒野:その通りだと思います。私は、これは経済学で言うところの外部経済性の問題であったととらえています。資本主義社会ですから、ある一定のルールや経済合理性に基づいて国民や企業が活動するわけですが、このルールを延長していたのでは、国が求めるネットゼロ社会の実現は無理なこと。今からは社会全体が制度も含めて変容していく必要があるわけです。
社会全体のゼロカーボンに関するルールを根底から見直すということになると、一事業者、一産業界だけでは最も合理的なロードマップを示すことはできません。多くの業界において、需要家つまりお客さま方はもちろんのこと、燃料を供給する立場の方、機器を納める立場の方、それぞれ皆さんがおかれた状態を理解しつつ、二酸化炭素排出に関する経済を社会コストが最も低くなる政策とともに2050年にむけて進めていく必要があると考えます。我々関西電力は、そのためのエコシステム構築の仲介役となり、電気事業者としての責務をしっかり果たしていきたいと思っています。
■セミナーでお話したいことは
―ありがとうございます。桒野さんにご登壇いただく「脱炭素経営EXPOセミナー」※の内容についてと、来場者へのメッセージをお聞かせください。
桒野:セミナーで伝えたいことはいくつかあるのですが、このインタビューでも出てきた脱炭素に関する質問を私の回答としてまとめたものが中心になるのかなと思っています。関西電力では脱炭素に向けた取り組みが今年に入って加速しておりまして、その状況をその背景も含めてしっかりとご説明申し上げたい。脱炭素問題へのソリューションやヒントとなる情報もご提供するつもりです。2050年にむけた脱炭素社会を皆様と一緒に手を取り合って作りたいという、力強いメッセージになればと思っています。(※「脱炭素経営EXPO」2021年10月1日(金)特別講演 「脱炭素の潮流を捉える!関西電力のゼロカーボンの取組み」)
―業界トップの方から直接話を聞き、リアルな情報のアップデートができることが、展示会の大きなメリットのひとつであるとのお声をいただいています。「脱炭素経営EXPO」では、全3日間110講演を揃えました。
桒野:情報収集は大切ですね。情報が集約されている今回のようなコンベンションは、きわめて貴重な機会だと言えるでしょう。私は日本社会の強みは、すり合わせ技術だと考えています。世界的な競争力のあるコンテンツを持つ個人や企業、スペシャリストの集団が、個々の技術をすり合わせ、国全体で一つの価値あるものへと作り上げるのが得意なのです。多種多様な情報を得たのちに、国の向かう方向を掛け算して、一番仕立てのよい結果を器用にはじき出すことができます。私自身もこの点を強く意識して、これまで仕事をしてまいりました。
2030年に向けた脱炭素の目標が46%と先般提示されるなど、脱炭素の動きは一刻の猶予もなく加速をする必要があるでしょう。情報と多様な人間の価値観がリアルに交差する場として、「脱炭素経営EXPO」は日本企業だけでなく海外からも注目されていると思います。私自身も多くの情報を収集したいと、楽しみにしています。
■関西電力様、取材にご協力いただき、ありがとうございました。
<お知らせ>
第1回 脱炭素経営EXPO 秋 2021年9月29日(水)~10月1日(金)
会場:東京ビックサイト 日本初開催となります。ぜひご注目を!
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