見出し画像

日本将棋連盟に学ぶ時代の読み方【「常識」をいかに見極め、次の手を打つかを学ぶ】

第82期将棋名人戦七番勝負は、藤井聡太名人(八冠)が初防衛に成功しました。

藤井名人がタイトル戦に勝つことで、世間は驚くことはなくなり、むしろ並行して行われている叡王(えいおう)戦(5番勝負)で2勝2敗のタイとなりタイトルを失う可能性が出ていることがニュースバリューになるほどになっていると思います(2024年6月16日現在)

今でも世間的な耳目を集めているプロ棋士の世界ですが、これをあたりまえとしてはいけないと常々思っていました。

というのも、プロ棋士を統括する日本将棋連盟は、いろんな点において「改革」を進めており、その成果ともいえるのが今の繁栄だとみているからです。

そして、その「改革」は、とても先進的であり、日本の多くの組織は学ぶべき点があると思っています。

私が重視している点を3つ書いてみます。

(1)組織トップの若返り
どの組織もそうですが、トップは上がりのポジションであることが多く、日本将棋連盟の会長職もそのようなものであったと思います。

流れが変わったは、谷川浩司十七世名人が会長に就任したことでしょう。

就任時、プロ棋士の最高峰であるA級順位戦に在位しておられたこともあり、衝撃的でもありました。
その後、同じくA級順位戦に在籍していた佐藤康光九段が引き継ぎ、現在は誰もが知る羽生善治九段が会長を引き継いでいます。

日本の組織で、このような現役トップランクの人材を組織の長に据えることができているところは皆無でしょう。

創業者がトップを務めるユニコーン企業ぐらいがせいぜいかなと思いますが、これが組織に活力を与えていることは間違いないのかなと思います。

トヨタ自動車の佐藤社長は50歳半ば(1969年生まれ)で、若さが注目されましたが、日本将棋連盟と比べたら決して若すぎるということはないのだろうと思っています。

(2)伝統を守りつつ新しさを取り入れる柔軟さ
日本の将棋の棋戦は、ほとんどがメディアの主催です。その多くが新聞社の主催であり、紙面の文化的充実という点でも時代に合ったものでした。
しかし、新聞社の経営はどこも苦しく、棋戦の充実にお金をこれ以上割く余裕はないのが現実でしょう。

そんな中、これまでの常識を覆しているのが、叡王(えいおう)戦で、これは洋菓子などを手掛ける不二家主催の棋戦です。

最も新しい棋戦もある叡王戦は、元々はドワンゴが創設した棋戦でした。これも含めると、棋戦は新聞社が主催するという常識を覆している。

ドワンゴが持つ動画配信サービスで棋戦が配信されていましたので、今では当たり前になった棋戦のインターネット配信の先鞭をつけたともいえる。

伝統を重視することと、時代に合わせるということを融合するとはどういうことかを示してくれているとも言えます。

(3)権威を捨てる勇気
私が一番重視しているのは、この視点です。その象徴は、コンピューターソフトとの対局から逃げずに時代と向き合ったことです。進化の凄まじいコンピューターソフトと人間の対決は、結論から言えば、コンピューターが上回ることは自明でもあった。

プロ棋士の権威を守るために、コンピューターと勝負を避け続けるという選択もあったのかもしれませんが、日本将棋連盟はこれから逃げなかった。

当時の佐藤天彦名人との対局を実現させた決断は大きかった。この判断は大きなリスクもあったと思います。

ただ、これを経たことで、ファンの間に人間が対局するプロ棋士同士の棋戦とコンピューター将棋は別のものだという認識が広がり、さらに対局の優越を可視化する道具としてコンピューターを活用して棋戦観戦の幅を広げることになった。

時代は明らかに権威に重きを置かない方向に流れていると思っています。「名人がコンピューターに負けることを受け入れることも必要で、その姿勢はファンの信頼に応えるもの」と考え、先を読み切った決断は本当にすごいなと感じます。

権威を失うことを恐れない勇気は、高い称賛に値すると思っています。

日本将棋連盟は、東京と大阪にある将棋会館を移転させて、新しい拠点で活動をしていくとのこと。
すでに設けられている名古屋に加え、福岡、札幌にも対局の場ができるかもしれません。

今後も日本将棋連盟はいろんな試みをやってくるのでしょう。それは楽しみでもあり、学びの題材でもあると思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?