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マイベストシェフ デザイナーズノート

今回ゲームマーケット2021秋に初出展したことを機にnoteをやろうと決心していた矢先に、戸塚中央さんのゲームデザイナーへのインタビュー記事のツイートを発見したので、勝手にそれに則った形で初めてのデザイナーズノートを書いてみました。

はじめに

「スマートエイプゲームス」という自社レーベル(サークル)としてアナログゲーム制作を2021年春から始め、初めてのクラウドファンディングやゲームマーケット出展を経験したなかで、多くの情報に触れることができたため、これらを整理する意味で書いています。

また、来年新しくゲームマーケットに出展したいという方にとっても役立つ情報になるよう、noteをそれぞれの切り口に分けて赤裸々に書いていく予定です。今回はあくまで自分のことと処女作である『マイベストシェフ』についてまとめています。

Q1. デザイナー名、サークル名を教えてください

ヤマグチタカナリです。漢字の読みが分かりづらいのと、業界で著名な人が比較的カタカナを使用している気がしたのでマネしました。

好きなゲームは『アグリコラ』『イッツアワンダフルワールド』『麻雀』です。集めたり育てたりするのが好きです。

スマートエイプゲームスという自社レーベル(といっても1人ですが)を2021年の4月に立ち上げて活動し始めました。2021年11月現在も、別々でゲームを作りながら切磋琢磨する相方はいますが、基本的には1人でゲーム制作を行っています。

Q2. ボードゲームにはまったきっかけとなるゲームはなんですか

ライナー・クニツィアの『ロストシティ』『バトルライン』です。3年ほど前に飯田橋のグリュックというボードゲームバーのマスターに勧められて遊んでから、すぐに買いに行ったのを覚えています。

元々チェスや将棋などのアブストラクトが大の苦手だったこともあり、ゲームといったら大学時代にハマった麻雀ぐらいしかやっていませんでしたが、これがきっかけでボードゲームにのめりこむことになります。

Q3. 好きなボードゲームやジャンルを教えてください

Q1で記載したような作品が好きです。「ワーカープレイスメント」「拡大再生産」「セットコレクション」の3つはやはりどうしても心奪われます。あまり同じゲームを繰り返しやる性格ではないですが、これらは1人でオンライン対戦をずっとやっています。

Q4. 所持ボードゲーム数はどれくらいですか

大体200程度です。昔は集めるのが趣味でしたが、今は資料として買っている感覚が強いです。ハマって1年ぐらいからは同人作品を買うことの方が増えていました。

Q5. ボードゲーム制作を始めたきっかけを教えてください

変な話ですが、実を言うと自分はゲームをやるのがあまり得意でもなければ死ぬほど好きというわけでもありません。すぐにルールを理解できるほど賢くなく集中力もないのでインストを聞いているうちに疲れてしまうのと、メカニクスの似ているゲームをやっているとほとんど同じに見えてすぐに飽きてしまうからです。

ただ、とは言ってもボードゲーム自体は嫌いになりたくない。

そう思ったときに、これを解消してくれる選択肢を模索した結果が「ゲーム制作」というゲームをすることでした。元々ゲームを作るつもりはなかったもののアイデアは自然と湧き出てくるし、集中力がなくても四六時中向き合えることだったので、あとは自分のレベルを上げれば絶対に面白いゲームができるに違いないし多分一生飽きないでやり続けられる、という変な自信からゲーム制作に至り、気がついたら会社を設立していました。

Q6. 普段はどのような環境で製作してますか

基本的には自宅のデスクでメモやマインドマップにアイデアを出して、モックを作り一人遊びをするか誰かとテストプレイをするかの繰り返しです。TableTopSimulatorやユドナリウムを使うこともありますが、誰かと共同でアイデア出しをしない限りは面倒なので使用しません。

Q7. 製作に関して、ポリシーやこだわりがあれば教えてください

まだ制作者として1年目なのでポリシーも何もないですが、世界観だけはしっかりと固めておくことお金をかけてでもアートワークに力を入れることが自分の中では最重要だと思っています。世界観とそれに伴うアートワークがこちらの対象としている人(ペルソナ)に気になってもらえれば、まず手に取ってくれるからです。

ゲーム制作においてシステムもテーマも大切ですし、基本的にどんな作品でも「良い」と思ってくれる人は少なからずいると思って活動はしています。ただ、自分自身まだ知名度があるわけでも緻密なゲームシステムを組めるわけでもないので、人気作になるような万人ウケするゲームを目指すよりも伝えたいことを伝えたい相手に伝わる範囲で表現できるようにすることの方が今は重要だと考えています。

なので「良いアートワークは正しく自分の世界を伝えてくれる」という考えで、デザイン費用はあくまで予算の範囲内ですが最高のパフォーマンスを出して頂ける方にしっかりめにお支払いしてでも描いてもらうことに重きを置いています。(それでもこの業界は制作費の状況を理解して歩み寄ってくださるデザイナーさんばかりですが)

とはいえ今はまだ大したことができる状況ではないので、今後できる限りデザイナーさんにきちんと対価を渡せるように、自分のレベルを着実に上げながらゲームを作り続けていくことがひとつの目標だったりします。

⇩ここからは『マイベストシェフ』の話になります

『マイベストシェフ』について

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Q8. マイベストシェフのルールやテーマを簡単に教えてください

レストランの支配人になり優秀なスタッフを雇って働かせるエンジンビルドゲームです。初心者でもやりやすいように軽いプレイ感にしていながらも、どんどんアクションが繋がって増えていくことを楽しめるので『ギズモ』が好きな方には持ってこいのゲームです。

ルールや雰囲気はこちらの動画見て頂くと概ね分かると思います。

⇩もう少し詳しく知りたい方はこちら

Q9. どのようなプレイヤー(年齢、趣味、好きなゲームジャンル等)に遊んでもらいたいですか

少しボードゲームに慣れてきて『宝石の煌めき』を遊んで楽しかったという初心者の方にはおすすめしています。対象年齢は14歳と少し高めの設定ですが、一度慣れてしまえば誰でもできるような造りになっていて、難易度もそこまで高くありません。

何年か前に『オーバークック』というNintendo Switchから出た「みんなで協力しながら料理を作る」ゲームが少し流行りましたが、あのアワアワしながらプレイする感じも少し踏襲しています。

Q10. 今回のゲームを製作するきっかけは何でしたか

このゲームは元々とあるコンペに出すために作ろうとしたことがきっかけでした。そこでは社会問題を絡めたゲームにすることが唯一の条件だったので、その範疇でテーマを考えることにしました。

当時すでになんとなくゲームっぽいものを作ってみたことはありましたが、出てきた数十の案全てをボツにしていたので逃げずに向き合えるテーマが欲しかったのです。

また、そのなかでもどうしても作りたいテーマのひとつに「飲食店の拡大再生産」がありました。これは自分がかつて飲食の業界にいたこともあり、「経験していること」×「好きなシステム」なら色々とアイデアが出しやすいと考えていたからです。

なので、このタイミングで作りたいゲームをまずひとつ完成させることを第一の目的に動き出しました。

Q11. システム・ルール制作において、苦労した点や工夫した点はありますか

Q12でも記載しますが「飲食店」→「飲食店のスタッフ」にフォーカスするところを変更して、様々な要素を引き算していく点が最も苦労しました。

このゲームのポイントは大きく2つあります。
①気軽にアクションを重ねて「エンジンビルド」を楽しめる点
②スタッフを働かせれば働かせるほど「廃棄」というマイナス点が溜まる点
です。これについて少し解説します。

①気軽にアクションを重ねて「エンジンビルド」を楽しめる点

前々から『ギズモ』の資源であるビー玉を装置から取り出すギミックは好きでしたが、意外とうまくカードを取らないとエンジンビルドすら出来ないという点で好みが分かれるなと感じていました。

なので、もう少し誰でもエンジンビルドしやすくなるようにできないかな?⇒これを作り直せたらより多くの人が楽しめるのでは?と考えたのがこのメカニクスを採用したきっかけです。

自分のような拡大再生産好きのほとんどはエンジンビルドが好きですし、自分の中でこれがある程度受け入れられる理由が他にも明確にあったからです。(この話はまた別noteで)

とにかくこのエンジン形成のしやすさを重視した効果の内容を考えることに時間を費やしたことで、比較的遊びやすいゲームができたと思っています。

②スタッフを働かせれば働かせるほど「廃棄」というマイナス点が溜まる点

そして、これがマイベストシェフの一番のポイント。先述した社会問題を絡めたゲームという条件を基に、飲食店で起こりうる問題は何か考えたときに「食品ロス」というテーマが思い浮かびました。実際に働いていると、調理ミスや食べ残しなど、たくさん食べ物が捨てられるので。とはいえ、これをそのままテーマにしたところで誰にも刺さらないので「廃棄」というマイナス点に変換して表しました。

スタッフの効果は条件に合致した場合強制的に発動するので、雇えば雇うほどアクションが増えるようになる。けれど、それに伴って廃棄もたくさん出るようになる、というジレンマを基軸にしたことで食べ物のゴミの扱い方をすごいライトな形で表現しました。そのため実際にはいない職業も存在しています。(実は中国に食品ロス対策するために実在する役職もいるので、スタッフカードとして入れてたりしていますが)

最終的にコンペに出すようなアカデミックな作品にはできなかったのですが、レストランで働く人たちとそこで出る廃棄をどう処理していくかを考える、という点だけに絞って設計に落としたのが今回のゲームとなります。

Q12. 今回のテーマを選んだ理由はなんですか。苦労した点はありますか

テーマ選定の理由はQ10で記載した通りですが、苦労した点としてはメカニクスのミスマッチを連発させていたことです。

当初このゲームは飲食店をテーマにしたワーカープレイスメントで作り上げようとしていました。毎ラウンド来店客が訪れるので、それに合わせて食料を仕入れたり「廃棄」を出さないような仕組みづくりを店舗に施し、評価の高いレストランを作ることを目的とするゲームでした。

ゲームとしては成り立っているように見えましたが、ひとつひとつの要素やシステムに繋がりが全くなく、まるでフランケンシュタインのような、どこかバラバラで気持ちの悪い造りになっていました。今思えばワーカープレイスメントにすべき理由も特になかったかもしれません。

途中で色んなものを詰め込み過ぎているということが分かり、分解してどの部分に重きを置きたいのかを改めて考え直した結果、やはり「廃棄」をテーマの基軸にすべきだと思い、レストランで働くスタッフだけに絞るという判断をしました。

この方針にするまでにおよそ3~4か月はかかりました。厳密にはこの後も2か月ほど試行錯誤しているので、都合半年間ジタバタした結果、後に行うクラウドファンディングや製作依頼が随分ギリギリな状態で進めることになってしまったことが一番キツかったです。

Q13.イラスト・アートワークにおいて苦労した点やこだわりはありますか

基本的には外注しているため自身の苦労はないですが、ディレクションやモック作りはそれこそ一からだったので色々と大変でした。この点に関してはまた別のnoteでまとめます。

Q14. マイベストシェフはどのようにすれば手に入れることが出来ますか

現在再販に向けて動いている最中ですが、2月に行われるアナログゲームフェスタのために一部在庫を残している状況です。

予定としては
2021/12〜2022/01
ボドゲーマ・ジェリージェリーストアにて一部在庫を販売予定

2021/02
アナログゲームフェスタにて一部在庫を販売予定

2021/4
再販分をゲームマーケット2022春にて販売予定

となっております。

Q15. 最後に改めてマイベストシェフの魅力・強みを教えてください

まず間違いなく言えるのはデザインです。箱絵はタンサン様に入稿ギリギリまで描いてもらいましたが、レストランとそこで働くスタッフの雰囲気を完璧に表現して頂きました。

当初の箱絵のベンチマークは『ナショナルエコノミー』でした。ワーカープレイスメントを目指していた名残とメインターゲットである20代後半~30代前半の男性層でお金を稼ぐ系のゲームを好む初心者の方は結構いたので、そういう方に取ってもらいたいという意図で依頼をしていました。

が、進めていくなかでカードのイラストやテーマから、オシャレで少し柔和なかわいらしい雰囲気になったので、サブターゲットである20代女性の目も引けるようにできたらと考え、お伝えするイメージを変更していきました。

最終的な箱絵のクオリティはひとえにタンサン様のおかげです。色々とお送りした参考画像を基に意図を汲み取って頂き、大変素敵なイラストを当ててもらうことができ感謝しております。

もうひとつはエンジンビルドの馴染みやすさです。このゲームは上述しているように、エンジンビルドを組みやすくできるように設計しています。効果の発動条件や効果自体を緩く設定している代わりに、ただ単純に効果を繋げて気持ち良くなればいいということにならないようマイナス要素を入れています。

おそらくボドゲ玄人の方にはこの設計がいまいちハマらない(ジレンマが少ない、システムを作って気持ちよくなった頃に終わる、逆転要素が少ないなど)かなと思っています。あまり再プレイすることもないかもしれません。

ただ、テストプレイ時の所感としては、エンジンビルドにそこまで触れていない方にとっては、少しずつコツを掴んで進めていく楽しさを理解しながら遊べるゲームになってるかなと感じています。

なので、そこまでガチガチな感覚で考えずに、軽い気持ちで何度かプレイしてみて頂けると非常に嬉しいです。