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ユーザーフィードバックで磨き続けるWebサービスのつくりかた(1)

今回は次世代通信推進課も関わりがある、新型コロナウイルス対策「東京テックチーム」の取組の一つを紹介します。

こんにちは、東京テックチームの内田です(戦略政策情報推進本部 デジタルシフト推進担当課長)。
「東京テックチーム」は、都庁の各部署と連携しながらプロジェクトを組み、複数部局で利用できるICTサービスの開発や、特に緊急性の高いWebサービスの開発支援などを手掛ける複数部局横断型の組織です。

今回は、そこで感染症対策の協力金や家賃支援のサイトを通じて実践してきたWebサービスのグロースハックの方法を紹介します。

この取り組みでやってきたことを要約すると、「ユーザー(都民)の声とログを頼りに、その期待値を超えるべくWebサービスを改善し続けること」。都庁内では、通称「対話型開発」とも呼ばれています。

デジタルデータによって、従来不可能だったユーザー(都民)のオンライン上の声の一つ一つやサイト上の行動を知ることができるようになりました。そうしたデータを活用することで、ユーザー視点の行政サービスにシフトできるのです。

特に、行政手続きはデジタル化が目的として語られがちですが、ページの読みやすさや機能の使いやすさといった肝心なインターフェイス部分が使いにくければ紙や郵便の方がマシ、ということにもなりかねません。

様々な声を拾い集めることは行政だからこそできることであり、公共の「サービス」を届ける自治体だからこそユーザーの声を聞きながら小改善を繰り返す開発手法は必然ともいえます。

その意味で、他の自治体で日々奮闘する方々に向けたロールモデルとしてもこのnoteを届けられたらと思います。

<対話型開発>とは?

まず、従来の開発手法との違いは、「デジタル行政サービスをリリースしたあと放置せず、品質を磨き続ける」ということに尽きます。

Webサービスは、プログラムコードで書かれたソフトウェアであり、街角の看板のように、存在した時点で事後になかなか修正が利かない完成品であるわけではありません。あくまで「利用者が目的に合わせて使えること」に価値があり、サービスの公開後もユーザーの期待値を超える品質になるまで磨き続けるプロトタイプであり続けるという見方ができます。

こうした、徹底的にユーザーの意見を取り込み、おもてなしの対応で作り込む開発スタイルがこの手法の特徴です。

実際の<対話型開発>の手法を活用した改善の例

このように、開発チームがユーザーの声をサイトの構築や改善に利用するためのポイントは、これまでの実績を踏まえると以下の3つに集約できると思います。

1.ユーザーをサービス開発の中心に据えようということ。ユーザーの抱える問題は自身の問題である。サイト上にユーザーのご意見を集めるための投稿フォームも設ける。
2.サービス体験の品質向上に繋がる数値化を積極的に行い、そのデータを開発チームで共有・活用すること。測定なくして改善なし。
3.オンラインダッシュボードなどのデジタルツールを業務に取り入れ、仕事の生産性を高めること。ルーティンワークを中心に情報技術を使って省力化し労働集約の負担を軽減することで、改善にリソースを使うことができる。

こうした点を踏まえて、ユーザーの声や変化に即応しながら取り組むサービスの開発・改善手法の一連のプロセスが、私たちが通称<対話型開発>と呼び、日々取り組んでいるものになります。
(「アジャイル開発」や「サービスデザイン」といったものに近いかもしれませんね)

それでは、実際にどんな取り組みを行っていくのか、リリース前の状態から見ていきましょう。

リリース前に行うこと

Webサービスの本番化前の行程では、サービスの対象者となりうるユーザー(都民)にベータ版のテスターとなっていただき、開発中のサービス画面を使って「ユーザーテスト」を行います。

「ユーザーテスト」とは、実際にサイトやWebサービスのターゲットユーザーのテスト利用を通して、誤字などの不具合の発見や利用体験の評価に協力頂き、画面のデザインや操作感に関する課題を発見していく手法です。

一般に開発チームの当事者は、それなりにITリテラシーが高く、多少使い勝手が悪くても自ら設計したサービスの利用目的を達成できてしまいますが、行政サービスの場合は広く一般の方に使っていただくことが多く、普段スマートフォンなどを使う時間が少ない方までを想定した対応が求められます。

その意味で、中立的な立場の方に使っていただき、事前に声を集めて一定の品質に達してからリリースすることは重要な取り組みとなります。経験上の目安としては、10人前後のサービスの利用ユーザーとなりうる一般対象者に対して、個別にベータテストを行っていくと、具体的な改善につながる様々な声が集まってきます。

ご協力頂くテストの実施内容は、テストサイトを利用した「サービスの利用体験と観察調査」、利用体験に基づく「インタビュー」、「ユーザーレビュー」の3点になります。

「サービスの利用体験と観察調査」では、開発段階のサービスサイトを試用して、こちらで用意したシナリオに基づくタスク(申請受付サイトを表示した状態からスタートして、申請完了までを自らの操作で行うなど)を参加者に行ってもらいます。この時、使っている様子の一挙一動を観察していると、どこの地点でつまづきやすいかという学びが得られ、のちの改善ヒントに繋がることがあります。

「インタビュー」では、利用後にユーザー目線で使いやすかったかという感想や、改善すべきと感じた点についてフィードバックを受けます。ここで挙げられたデザインや機能面での問題点については、公開前に解決すべき修正事項として改善対象の候補となります。

「ユーザーレビュー」では、サイトの見やすさや分かりやすさ、利用満足度などを5段階評価などのスコアで表し、利用した感想を点数化してフィードバックをもらいます。そこで「普通」のスコア以上の「そこそこ使えるレベルになっている」評価が高い割合を占めているかなど、リリースに足る品質になっているかどうかをこの点数換算された結果から客観的に確認します。

開発チームはこうした調査結果を通して、本番化前に修正すべき問題と改善点を共有し、本番前の磨きこみを可能な限り行なっていきます。

なお、スマートフォン向けとパソコン向けではUIや操作感が異なる場合があるため、それぞれに対してテストを行うことが推奨されます。


次回のエントリーでは、「リリース後に行うこと」と「改善後の効果測定」について解説します。