ホームレス考

僕は自分の人生の幾つかの出来事に起因して、昨年末から少し余裕が出たので炊き出しを手伝っています。

その中で感じたことなどを書いていきます。


コロナの影響なのか、炊き出しに並ぶ人達の中に、パット見普通の人がジワリジワリと増えています。

身なりも普通、意思疎通も普通、そんな初心者ホームレスが確実に増えています。

20代、30代くらいの女性や、ビシッと決めたサラリーマンなども、全体の割合は少ないものの、並んでいます。

ただ、そういうまだベテランホームレスに成り切ってない人は、支援の手も直ぐに入って、数回で来なくなる事が多いです。

やはり、ベテランおじちゃん達をどこまで支援し、脱却の手助けができるかが、この問題の根っこだと思います。

ベテランおじちゃん達は、初心者おじちゃん達の支援で後回しにされがちで、それは、あんまりだと思うのです。


炊き出しもコロナ仕様になり、数ヶ月前から僕は決まったポジション固定状態で、そこは、おじちゃん達の中に僕が一人ポツンといて、おじちゃん達と話しながらポジションをこなしています。

だから、5人に1人くらいは話しかけられる感じです。

そして、話しかけてくるおじちゃん達は、本当は誰かと話したいのだと感じます。

自分の想いを聞いて欲しかったり、日々の不満とかをぶつけたいのだと感じます。


最近の僕は、おじちゃん達がどんな訴えや主張をしてきても、基本否定はしないでいます。

肯定できないようなことは、「へー、そうなんですねー。」って聞き流しています。

だって、ただでさえ辛い毎日を過ごしていて、なんとなく言えそうな僕に訴えてきた時に、僕が一般的な思考じゃないにせよ、おじちゃん達の主張をジャッジして、「それはおかしいよおじちゃん。」とか正論みたいなのを述べたって、それで、おじちゃん達の人生が劇的に変わるわけでもないし、「ああ、こいつにも理解や共感してもらえなかった。」と落胆して、辛い時間になるだけだと思ったんです。

だったら、できるだけおじちゃん達の気持ちに寄り沿って、できるだけ共感できるところは共感して、少しでもその場だけでも楽になってもらいたいなと、ある時思いました。


ホームレスと支援者っていう、外から見ればそう見えるけども、こちら側がギブギブギブの連続だと感じてしまったら、その支援者は続かなくなって来なくなるように感じます。

だから、少なくとも僕はおじちゃん達から、いろいろ感じたり学んだりと目に見えないなにかを貰ってるんだと思います。

誤解を恐れずに言えば、僕は炊き出しの時間を楽しいと感じていて、だから、続いているんだと思います。


話しかけられる中で、結構いろんな要望を受けています。

とりあえず、「僕はペーペーなんで上に直訴するけど、要望が通らなかったらごめんね。」ってスタンスです。笑


先日の炊き出しで受けた要望を幾つか挙げます。

・X(食材提供団体)の食パンにつける、バターやジャムが欲しい。

・ホームレス生活が長い人は、歯を欠損してる人が多いので、ちゃんと噛まないとならないものや、硬いものは減らして欲しい。

・おでんは夏場は常温だと直ぐに痛むから、別のものに変えて欲しい。(おでん要らない派)

・おでんは食べごたえがあるから、このまま継続して欲しい。(おでん欲しい派)

・アルファ米は美味しくないから、別のものに変えて欲しい。


大体、毎回聞かれる質問も結構あり、それはテンプレみたいに返答しています。

・衣料配布は何時から? → いつもXX:XXからと言ってるでしょ!笑

・お弁当配布は何時から? → いつもXX:XXからと言ってるでしょ!笑

・今日のお弁当の内容は何かな? → 僕はペーペーだから把握してないのです…。涙

・今日のフルーツは何かな? → 8月もX(食材提供団体)からの協力を取り付けたので、バナナ、トマト、パンが配られると思います!

・ちょっと荷物置いて列から離れてもいい? → 荷物の紛失や、列が動き始めたら順番が後ろになるので、自己責任でね。

・2個目(3個目)のお弁当、今日は貰えそうかな? → いつも用意してる総数はそんなに変わらないので、並んでる人数によるかな~。


要望の大半は食べ物のこと、質問の大半も食べ物のこと、それくらい食べ物を楽しみにしていて、その内容などに、それぞれが一喜一憂しています。

この炊き出しが生命線だと、これがなくなると、もはやどうにもならないと言ってるおじちゃんもいます。


いつも最前列に並ぶおじちゃん達は多少固定化しており、僕のポジション的にそのおじちゃん達と一番話す時間が長いのですが、先日の炊き出しで、あるおじちゃんに「この生活が死ぬまで続くのかな?」って聞かれて言葉に詰まってしまいました。

今考えると、答えは本人が一番わかってたのかもしれないと思うのです。

だから、おじちゃんは僕になんて言って欲しかったんだろうと、ずっと考えています…。

その前の炊き出しでも、同じおじちゃんに、「Y(ある高い建物の名前)から飛び降りてもいいのだけど、片付けする人が大変じゃん?」って言われて、まともな返答ができませんでした。


ただ、そのおじちゃんは仏様の様な一面のある人で、最前列にいつも並んで、毎回3個分くらい持てるだけ貰っていく人なのですが、そのおじちゃんが食べるだけではないらしいのです。

炊き出しの公園に辿り着ける人は、完全な健康な人は少ないけども、まだまだ健康なおじちゃん達で、足などが悪く来れないおじちゃん達がいるのです。

そういう、近くにいる来れないおじちゃん達に、少し分けてるらしいのです。

常に極限に近い状態だから、削ぎ落とされたその人そのものの人間性が、表出してることが多いのですが、ちょっと毛色の違う、おじちゃんだなと感じています。


僕もベテランおじちゃん達の顔は段々覚えてきましたが、逆におじちゃん達も僕の顔を覚えたってことです。

炊き出しでは僕は支援してる側ですが、僕自身は支援されてることが多い人生なので、いろいろ想うことあります。

こちらがおじちゃん達を見てるのではなく、おじちゃん達に僕らは見られてる(ジャッジされている)のです。

そして、おじちゃん達のニーズに合わないことを、幾らしても殆ど効果はありません。

おじちゃん達は、おじちゃん達の優しさや感謝、言っても無駄だという想いなどから言わないだけで、何も声が上がらないイコール、支援に満足してるではないと思います。

声なき声に、耳を傾けないとならないと感じています。

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