夏からの時間旅行

読書は、旅をすることに似ている。作者の目や手を通して紡がれる、よく考えられた世界を、思考を頼りに巡り歩く。最初のページをめくってから、奥書をあとに本を閉じるまでの、ひとときの非日常体験ー

少し前に、ロバート・A・ハインラインの『夏への扉』が、邦画で実写映画化されるというニュースを目にした。公開は来年らしいが、それに触発され、原作小説を再読。

友人と恋人の裏切りに遭い、コールドスリープで三十年後の未来に目覚めた主人公が、戸惑いと驚きの時代でひょんなことからタイムマシンの存在を知り、過去に戻ってやり直しの奮闘を試みるー
『夏への扉』に出逢ったのは、高校時代のこと。猫への敬愛に溢れたこのSF小説をいたく気に入り、それ以来、折々で何度も読み返している。

今回 再読したのは、2009年に早川書房から刊行された小尾芙佐による新訳版。個人的には福島正実訳よりも読みやすくなっていると感じた。そんな新訳版は、装丁にも注目。

従来のハヤカワ文庫版のカバーは、開きかけた扉の向こうから覗く男と対峙する猫の後ろ頭が写実的タッチで描かれている。ダンがピートを夏へと迎えに来ているイメージ?

それに対して新訳版は―
晴れた海岸線の路上で、消火栓の上にちょこんと乗った猫がこちらを見ているカバー。色使いや絵のタッチから、従来版よりソフトな印象を受けるけれど…そのカバーを外して表紙を見ると、雲一つ無い夏の空を思わせるような鮮やかで明るいブルー。

 扉(カバー)の向こうには、晴れ渡った夏が待っていました 」

そんなコピーを付けたくなる作りになっている。
ピートが、読者を夏へいざなうイメージ?―そんなことを想ったら、デザインした人のセンスに感じ入ってしまった。

というわけで、久しぶりの再読も楽しめた『夏への扉』なのであった。
そして、このタイムトラベルに刺激されて、ここからしばらく時間旅行小説を連読することにした。

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