通い猫は見た

読書は、旅をすることに似ている。作者の目や手を通して紡がれる、よく考えられた世界を、思考を頼りに巡り歩く。最初のページをめくってから、奥書をあとに本を閉じるまでの、ひとときの非日常体験─

ハーパーBOOKS刊 レイチェル・ウェルズ著/中西和美 訳『通い猫アルフィーの奇跡』を読んだ。
飼い主との死別で自ら野良猫となり、安住の地を求めて彷徨った猫アルフィーは、とある街区に辿り着く。そこで出会った4つの家に通いつめ、快適な環境を構築するために立ち回る中で生まれた交流が織りなした、ハートウォームな物語。

訳者もあとがきで記していたが、作中の猫の姿は、猫好きにとっては非常にあるあるなものであった。読めば容易に絵が浮かぶくらい、よく描かれている。

猫の勘に従い、猫の理で、世界は展開する。相手を見定め、状況を見極め、じっくりと関係を築く姿は、現実の世界でも見習いたくなるほど見事だった。

昭和の日本の家政婦は、配属先で家庭を覗き見、引っ掻き回して風通しを良くしていたけれど、平成の英国猫は、赴く先の人々を観察し、癒やしを与え、理想の環境を築くのであった。

このお話、続編があるので、機会を得てそちらにも手を伸ばしてみたいと思った。

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