オンライン座談会「包括的性教育を語ろう!」
札幌市、そして北海道全域で、誰もが等しく性について教育の機会や情報・ケアへのアクセスを得られるようにしていきたい——そうした思いで、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会(札幌市男女共同参画センター指定管理者)では今年度、北海道内外の有識者との意見交換会「ほっかいどう性教育会議」を開催いたしました。
参加していただいた構成員の多くは、北海道内で包括的性教育(※1)を実践されている方々です。会議を実施してみて私たちは初めて、北海道にこんなにも包括的性教育の普及を目指す方がいらっしゃることを知りました。
今回は、会議にご参加くださった松下由惟さん、中田知穂さんをお招きして、会議を振り返りつつ、おふたりのご活動や北海道における包括的性教育の展望について語り合いました。
ほっかいどう性教育会議について
第1回と第2回では、各地の包括的性教育における実践状況や課題を共有し合い、今後の展望を考えました。第3回と第4回では、札幌市や北海道の市民の皆さまが、SRHRの視点を持つ信頼性の高い性知識・性情報・必要な場合の支援先などの情報に、今よりもっとアクセスしやすくなれるよう、性情報サービスの設置について議論しました。
―松下さん、中田さん、この度はほっかいどう性教育会議にご参加いただきありがとうございました。会議にご出席してみての感想をぜひお聞かせください。
松下: 最初この話を聞いたとき、公の組織が「包括的性教育」について関係者を集めて会議をするって、北海道全体の機運を高めることが始まるんじゃないかと思ってすごくワクワクしたんです。道内外の実践者や、医療職、教育関係者、女性支援者…多様なメンバーで語ることができてすごく貴重な機会だったなと感じています。
稲荷: 私たち職員も、包括的性教育や道内の実践事例についてたくさん学ばせていただきました。当財団としても今まで包括的性教育をテーマにここまで大きな事業を行ったのは初めてだったので、今回は皆さんと北海道における包括的性教育の発展に向けた第一歩目を踏ませていただいた!と思いました。
松下: 大きな第一歩。
稲荷: ありがとうございます。本当にそう感じます。今回の会議で皆さんとネットワークを育めた点でも、今後のアクションを出し合ったり性情報サービスの開設を検討したりと今後に繋がる議論ができた点でも、大きな成果を得られたと感じています。
松下: そうですね。課題は多いですが、時間をかけてでも会議で目指すところを形にしていきたいですね。
中田: 私は、何かすごいことになるんじゃないかと思ったのを覚えています。どんな方が参加されるんだろう…とワクワクしました。自分の活動の中では関わることのできない方、知らなかった活動との接点ができて、勉強になりましたし、刺激になりました。
特に第2回の、北海道で包括的性教育を普及していく上での課題について考えた時間。今まで包括的性教育の実践者たち同士でこうした話をしたことがなかったですし、皆さんのアイデアや着眼点には驚くばかりで、とてもありがたい機会でした。会議に刺激を受けてちょっと動いてみたこともありました。これからも、受けた刺激や教えていただいたことを踏まえてできそうなことから少しずつやっていこうと考えています。
稲荷: 知穂さんの挑戦、応援してます!本当に、第2回をはじめかなり視座の高い議論になりましたよね。包括的性教育の機会は学校に限らずさまざまな場に存在しますが、構成員の皆さん全員が多様なアプローチで包括的性教育を行っていらっしゃるんです。子どもへ、大人へ、コミュニティへ、専門職の方々へ…。「教育」という形だけでなく、支援やプロダクトによって包括的性教育だったりSRHRの保障だったりを実践していらっしゃる方もいて。それぞれのご活動の視点から、包括的性教育の発展のためのアイデアが膨らんでいきました。ただ、どの回でも共通して話されていたのは、学校の性教育を充実させるためにはどうしたらいいか、ということだったんですよね。誰もが等しく持続的に学べる場である学校は、包括的性教育の中心的な役割を担っています。第3回と第4回で検討した性情報サービスについても、教育現場にいらっしゃる方々へアプローチするものにしたらどうか、という意見を多くいただきました。学校や保護者の方々と一緒に、包括的性教育を充実させていきたいですね。
―今後挑戦していきたいことはありますか?
松下: 私は今年度から大学の教員になったんですが、4月からは大学院にも通いながら、今までの実践をどう研究に結び付けられるかという視点を学んでいく予定です。保健師の経歴が長く、その視点を大切にしていきたいと思っていて、市町村の保健センターや保健師がSRHRを守るというところにどのように貢献していけるか考えていきたいと思っています。ユースフレンドリーな保健センターとか。
中田: 私もユースカフェ的な場所をつくりたいなって思ってるんです!苫小牧市周辺の性教育を広めたいと思っている助産師のコミュニティを運営しているんですが、そこの皆さんと苫小牧市初となるユースカフェを開催したいです!
稲荷: すごく素敵ですね。開催したらぜひ遊びに行かせてください!
中田: お待ちしてます。あと、今出産を取り扱わない助産院の開業準備をしているんです。からだのことで、どこに相談したらいいんだろう?という悩みはすごく多いと思います。なおかつそのままにされがちだなと思っていて。ここに来たら相談できるよというような場所にしたいと思っています。あとは助産師の本業として地域のお母さんたちのケアもしたいです。産後ケアをしながらお母さんたちに包括的性教育をしていきたいなと思っています。
稲荷: お話を聞いていて思ったんですが、包括的性教育やSRHRを学ぶこと、ヘルスケアを受けることって生涯続くんじゃないかと。それなのに今は、何かあった時に初めて情報やケアを得られることを知るという状態にあると思うんです。早い段階から正しい知識を知ることはもちろん、適切な情報やケアにアクセスしていく力を養う機会も整えていかなければいけないと感じます。
松下: 今の学校の性教育は単発で行われているのが現状で、きちんとカリキュラムを作って、連続的に学んでいく包括的性教育とは言い難い状況もあると思うんです。日本のあるところでは、小中一貫のカリキュラムを作っているところがあって、すごくいいなあと思っています。
中田: 北海道の中でも、包括的性教育の必要性をもっと知ってもらわないといけないなと感じています。理解者が増えて初めて、カリキュラムに包括的性教育は必要、と思ってもらえるのかなと思います。
―今後色々な場面で性教育が必要になってくるんじゃないかなと思いますが、参考になる書籍などありますか?
中田: 『おうち性教育絵本』:アクロストン監修
https://books.shufunotomo.co.jp/book/b585747.html
アクロストンさんに講座での使用許可をいただいていて、お母さんたちにもよく紹介しています。セックス・挿入に関してもいやらしくなく表現されていて、イラストもすごくわかりやすい。シールを貼ったり、遊びながら仕組みを学べるっていうのが新しい教え方だなと衝撃を受けました。しかも、YouTubeから無料で内容も公開されているのもポイントで、買わなくても全部読み聞かせられるので、アクセスしやすいのもとてもいいです。
稲荷: 初めて知りました!あとでYouTubeみます!
松下: 『おうち性教育はじめます~一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方~』:フクチマミ 村瀬幸浩 https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000487/
「おうち性教育」なので、中身も家庭の中で保護者の方から子供に、という風に描かれているんですけど、保護者に限らず、あらゆる大人に読んでもらいたいです。自分にはこういう権利があったんだ、みたいなことに気付ける本だなと思います。性行為をはじめとした身体的接触について、お互いに積極的に望んでいるか確認し合う「性的同意」のこととか、もちろん避妊や性感染症に関するところも触れているしわかりやすいかなと思うので、お子さんがいない人でも、「包括的性教育って何?」という人はこれを読んだらわかるかなと思います!漫画だし読みやすいです!
稲荷: この本、本当にわかりやすいですよね。漫画家の方と編集者の方の疑問に村瀬先生が答える座談会みたいな感じで。お三方が、当時の性教育や、自分たちが浴びてきたアンコンシャスバイアス、過去に直面した間違っていた知識を惜しげもなく話してくれていて。読んでいて共感できるところが多いし、寄り添ってくれている感じがする。これは間違っている!だめ!という感じではなく、科学的にはこう言われてる、ということを優しく教えてくれていて、まさに入門編。
『おうちせいきょういくえほん』が子供向けだとしたら、『おうち性教育はじめます』は大人のための絵本っていう感じがします。
札幌市男女共同参画センターは札幌エルプラザ内の施設です。札幌エルプラザの中には情報センターという資料室があり、そこにも性教育に関する書籍や絵本を取り扱っています。ぜひ足をお運びください。
HP:https://www.danjyo.sl-plaza.jp/jh/
住所:札幌市北区北8条西3丁目
インタビュアー 高橋(札幌市男女共同参画センター事業係)
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