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川柳や俳句や短歌で暇つぶしした六月のあるバイトの日

はじめに

 ガソリンスタンドでバイトをしている。
 暑さ対策ととりあえずの手慰みとして、ホースで水を撒き散らした。濡れたアスファルトがじわじわと乾いていくのを眺めていたら、これからの六時間がズシンときたので、言葉遊びで時間を潰すことにした。
 ポケットにメモを忍ばせ、川柳や俳句や短歌を思いつき次第書き留めていく。やってみると、これがなかなか面白い。とにかく目に付くものを十七音や三十一音で言い表しまくろうと試みる。見回して五音や七音のものを探してみたり、作業をしていて自然に頭に浮かんだ言葉を五七五の形に直してみたり。それだけでこんなに楽しいとは、やはり日本人の体に遺伝子レベルで組み込まれているんだな、七五調ってのは。

 十五時にバイトが終わり帰宅してメモを見ると、二十五の川柳や俳句や短歌が集まっていた。せっかくなので公開しようと、以下にメモの通りに書き起こした。
 そもそも公開するつもりで詠んでいないということもあるが、改めて活字で見てみると、しょうもないものばかりで恥ずかしい。恥ずかしいという気持ちを学習意欲に結びつけ、勢いのままに書店で俳句の入門本を購入し、ついさっき読み終えたところだ。
 入門書を読み、YouTubeでいくつか俳句関連の動画を見て少し勉強してみた今、自分の不学や自惚れをより強く自覚してさらに恥ずかしくなってしまった。しかし尻込みだけしていてもしょうがないので、ここは勇気を持って公開する。6月19日バイト中当時の私の記録である。


【9時台】

9:09
歴戦のバンは砂塵の厚化粧

9:20
この人はいつもレギュラー10L(リッター)

9:22
車線変更思わせぶりなウインカー

【10時台】

10:10
前の窓お拭きしますかと聞いたのに後ろのフンを拭けと言われる

10:20
目が合って笑ってくれたバスガイド多分母親よりも歳上

10:46
そういえば休憩してない藤本くん

10:50
今の人古田新太に似てたかも

【11時台】

11:10
助手席の離婚届や梅雨晴間

11:26
小数点以下を揃えて満タンにここでしか役に立たない技術

11:34
俺よりも小さいくせに高級車

11:50
失恋も芸の肥やしとないた犬

【12時台】

12:23
ワイパーを売ってもあがらない時給

12:29
サッカーの話では盛り上がるけれどこの店長には道徳がない

12:48
ささくれを慰む夏の君いづこ

【13時台】

13:27
長袖と二段構えの日焼け止め

13:29
今中にデッケェ虫がいなかった?

13:30
お車のキズにも夏のキャンペーン

13:50
外回り夏もサインの字綺麗

13:50
役者ならオーライオーライ腹式で

13:56
ゴーヤーも絡めぬ本気室外機

【14時台】

14:02
ベランダに生活感が揺れている

14:33
一つだけ違うタイヤのファミリーカーくつしたニャンコの遠い血縁

14:34
レギュラーレギュラー軽油ハイオクレギュラーレギュラー

14:58
ガソリンと風に詠えば六時間

【15時台】

15:02
あまりにも抱えきれない哀しみを叫ぶかわりに溌剌とした


おわりに

 今回の二十五句(首)は、川柳や俳句や短歌やそのどれとも言えないものがもうぐちゃぐちゃになっている。その時はとりあえず五と七で遊べれば楽しかったのだが、このnoteを書くにあたって、またこれからも少しずつ詩歌を嗜んでみたいなと思い、まずは俳句について少し勉強した。
 少し勉強してみてわかったのだが、この日の私はどうやら足首の浸かる程度のプールでチャプチャプ遊んでいただけのようである。いや、最初からその自覚はあったのだが、ちょっとだけ練習をして次はもう少し大きいプールで泳げればいいなくらいに思っていたのだ。入門書を読み、いくつかの動画やサイトに触れ、他の本や句集にもざっと目を通してみる。
 ふと目線を上げてみると、そこに広がっていたのは海だった。先が見えないほどに大きく、底が見えないほどに深い。厳しくもあり、どこか優しくもある。私が浅いプールだと思っていたところは緩く波が打ち寄せる浅瀬だったのだ。
 俳句に触れ、海を連想する。なぜか懐かしい気がする。こんなことが昔あったような気がする。
 そういえば、小学生の時に旅行先でたまたま発見した俳句ポストなるものに、なぜだか一句投稿したことがある。半年くらい経ってすっかりそんなことを忘れた頃に連絡があった。その句が何かしらの賞をとったのだ。同級生には自慢はできなかったが、祖母がとても喜んでいたことだけは覚えている。
 旅先は高知県桂浜。たしか、それまで海に行ったことのなかった私が、初めてみた大きな海に感動して一句詠んだのだった。どんな句だったか思い出したい。

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