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特別な一杯というのがある。そして今夜も。

高倉健さん主演の映画「居酒屋兆治」、
そのラストシーンには、ぐっとくる。
健さん演じる、焼き鳥屋の主人兆治が、
その日の営業を終え店を閉めた後、
ひとり厨房で、一升瓶を取り出し、
コップにお酒を注ぐ。

狭い店だが日々賑わうカウンター。
その余韻が残るなかで、
明日の仕込みも終えた、
ひとりだけの時間。

日本酒の入ったコップを握り締め、
茶箪笥のガラスに映る
自分の顔を見つめる。

若い日に恋した女性。
決して結ばれることのなかった彼女は
失意のなかで非業の死を迎える。

兆治はその死を悼み、
来し方行く末を胸に去来させながら
茶箪笥の我が身を見つめる。

そして彼はおもむろにコップ酒を掲げ、
「元気出していこうぜ、押忍(おっす)」
とささやき、男の純情を飲み干す。

人にはそんなときがある。
人にはこんな特別な一杯がある。
人には明日の希望につなぐための酒がある。

健さんは若い頃の苦い経験を反省し
日頃お酒は飲まなかった。
でもこのシーンは名演、
永遠の高倉健の肖像として刻まれる。

おウチ時間が長くなり、
ひとり酒が多くなる。

飲み過ぎに注意。
酒で人に迷惑をかけるべからず。

でも…、今夜も。 

「ありがとう」。

この映画の挿入歌、
健さんが歌う「時代遅れの酒場」より
♫「この街には 不似合いな
時代遅れのこの酒場に
やって来るのは
ちょっと疲れた男たち
風の寒さを忍ばせた
背広姿の男たち」♫


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