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珈琲ミュージック、Mr.メトロポリス

寒くて目覚めた朝、
毛布にくるまったまま、
聴いていたあのメロディ。

どんより雲の土曜の午後、
薄灯りの部屋でひとり、
珈琲を飲みながら
無心で耳を傾けた曲。

休日の夕刻、紅葉の路を
愛車でゆくとき
小さな空間を響かせた歌声。

今でも寒さを感じると
心が呼ぶ楽曲がある。

静かに刻まれる、
ピアノのイントロが蘇る。

♫「都会は一日に一度だけ
素顔を見せてくれる。
私は好きなのよ
夜明け前のブルーグレーの横顔」♪
八神純子「Mr.メトロポリス」

先日、職場の仲間に、
八神さんを知ってるか訊いたところ、
40代半ばの彼女は「誰ですか、それっ?」
41歳の彼は「知ってます。オンタイムではなく」。
彼は、懐かし歌番組での過去映像で
見たこと、聴いたことがあると。
そのはずだ。
八神さんのこの曲を収めたアルバムは
1980年の作品。彼が生まれた年だ。
彼らはその場でスマホで八神さんを
調べ始めた。

僕は自慢げに言ってしまった。
今はMISIAや宇多田さんら、
歌の上手い歌手は結構いるが、
八神純子さんは群を抜く孤高の存在だと。
それ以上は言わなかった。

♫「あなたの冷たさに泣く人も
生きてることがわかる。
私も昨日を振り向かず
今日を歌って生きるわ。
あなたは気ままでひたむきな
私の街Mr.メトロポリス
けれど新しい陽が上れば
悲しみさえ思い出」♪
八神純子「Mr.メトロポリス」

歌ウマにはいろんなタイプがある。
ジャズ、ポップス、演歌、民謡、
クラッシックなどで、
こぶしまわしやビブラートなどの
技も声量、間の取り方も
違ってくるだろう。

ギターのスリーフィンガーが
出来る程度の浅学非才な僕ではあるが
八神さんは類稀なる美声の持ち主、
日本一の歌ウマであると思っている。
その魅力はハイトーンと声量、
と言われるがそれだけではない。

哀愁だ。

僕は歌ウマに哀愁を求めてしまう。
それが如実に堪能出来る彼女の楽曲は
冒頭の「Mr.メトロポリス」のみならず
「ポーラースター」
「甘い生活」
「グッドバイ美しき日々」
「シルエット」
「DAWN」
「みずいろの雨」
「二人だけ」
等のバラード。

その声とメロディの、
沁み入るような切なさは
一音ごと丁寧に糸を編むように放たれる。
ヤマハのポプコン出身であり、
その実力は折り紙つき。

八神さんのアルバムをコンポでかけると
スピーカーが喜ぶのがわかる。
こういう声を、
ドキドキするような息遣いを
通してほしかったんだよと
彼は反応する。

これらの楽曲ごとに、僕は
「プロフェッショナルはかくあるべき」
と常にひしひしと刺激を受け、
しみじみと学んだりもする。

とはいえ、僕は職場の仲間たちに
是非聴いてほしい!
なんて強要したりしない。
それは野暮で無粋というもの。
八神純子という歌ウマの存在さえ
伝えれば、それでいい。

わけて寒い時期に聴きたくなる、
熱々の飲み物と共に欲しくなる
いわば、珈琲ミュージック。
今年の秋冬も、
冷めた心を温めてくれる。

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