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駅。夜明け前のホットレモン

歌に、心にシミルものと、
心をタタクものがあるように、 
飲料自販機で買うホットレモンにも
シミルとタタクがあリます。

暦の上では春ですが
関東でも未だ雪降る候。
僕は出社の日はいつも
午前6時10分頃、東京駅にいます。
仰げばまだ夜空。
山手線と京浜東北線に挟まれたホームで
神田方面行きの電車を待つのです。
その間、濃紺のロングコートの襟を立て、
自販機で買うのが
280mlのペットボトルのホットレモン。
 
ほんの束の間、カイロ代りに
このボトルを両手で握り締め、
暖をとります。
そしてキャップを開けて、
ぐいぐいと3回程息継ぎをして  
飲み干すのです。280mlボトルだから
飲み残すことはなく、
コートのポケットに収まります。

レモンの柑橘のかおり、程よい甘さ、
何と言っても五臓六腑に届く温かさが
この白い季節の、駅の自販機の、
レギュラーポジションを
固くキープしているのです。

僕が知る限りでは
このホームの自販機では
ホットレモンは2種類。
アサヒの「ほっとレモン」と
山田養蜂場の「はちみつレモン」。

「ほっとレモン」は癒やし系、
仄かな酸味と程良い甘さ、
疲れた心身をそっと包み込む優しさが
あります。だから心にシミル側。

片や「はちみつレモン」は、まず
ガツんと強いレモンの酸味が来ます。
そしてあとからじんわりと
甘さが広がります。
口に広がる酸味で思わず
背筋がぴんとなり、
躍動のスイッチが入ります。
今日も元気印でいったるか!と、
心をタタク側。

出社日なら毎朝、彼らに会えるのです。
この2種を体調や気分に合わせて、
僕は選んでいます。

白い季節ならでは黄色のボトル。
朝が来る前の時間帯、
厳寒のホームに濃紺の男ひとり。
心に火を灯し、命を温める一本。
この季節の風物詩、ささやかな至福です。




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