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『沈む』


タバコの匂いが残るあなたの腕の中
濡れた右肩にあなたの優しさを感じた

深海にいるような窓ガラスを見つめながら
あなたに会いにゆく
呼吸の仕方さえ忘れる程に
真っ白な頭の中であなたを繰り返した

あなたの海に溺れていたい
助けなんていらないから
あなたの中で沈んでゆきたい

靄のかかる霧の箱
開く扉からあなたの匂いは消えていた
濡れた頬にあなたを愛していたわたしを感じた

真っ白なあなたの優しい寝顔に
叫びにもにた荒い嗚咽が止まらない
呼吸の仕方さえわからずに
真っ白なあなたを頭の中で呼び続けた

助けなんていらない
ただただ静かな海の深くまで
沈んでゆきたい
月の明りも届かない
音も光も失った世界で
あなたと二人抱き合っていたい

悲しみなんて言葉じゃ足りなくて
痛みなんて言葉も足りなくて
喪うというものの存在を突きつけられるだけ
足りない感覚を拾い集めて繋げて
出来上がった花をあなたにそっと添える

もう想いを残す事はできない
遺る想い出を一つ一つゆっくりと拾い集める
タバコの匂いが残るあなたの胸に腕に
濡れたあなたの右肩のあたたかさに
遺された人間の想いだけを照らし合わせる

あなたの海で溺れていたい
助けなんていらない
ただただあなたの中で沈んでゆきたい

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