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Q アノンの中心人物「Q」の正体に迫る

取材・執筆:Qオリジンズ・プロジェクトチーム
翻訳=谷川真弓

陰謀論「Qアノン」の熱心な信奉者にとって、Qは無限に近い力を持つ神話的な人物だ。アメリカの「ディープ・ステート(闇の国家)」について機密情報を知る特権を認められた政府内部の人間とされる、このQという人物が、未来を予言できると信じている人さえいる。

しかし、このたび再発見されたQアノン発生当初のインターネット掲示板への書き込みを検討すると、Qのまったく異なる人物像が見えてくる。再発見された一連の書き込みはQが書いたものであり、Qが最初によく登場したインターネットの画像掲示板のユーザーにより、まず存在を指摘された。再発見された書き込みと、Qによるものだと一般的に考えられている書き込みは、酷似する箇所が多い。しかし、再発見された書き込みは、Q自身による真正な投稿、「正典」として扱われる書き込みである、通称「Qドロップ」に含められたことがない。

Illustration (c): Natalia Vish

再発見された「失われたQドロップ」が意義深いのは、陰で糸を引いていた人物の真の姿を垣間見させてくれるからだ。Qドロップを書いていた人物の日常的なふるまい方を見せてくれ、Qというペルソナと、その後ろにいる作者(または作者たち)のあいだのミッシング・リンクとなる。そして、失われたドロップはベリングキャットが立てた仮説を裏付ける――Qという人物の出どころは、アメリカ国防総省の内部ではなく、幼稚なユーモアと攻撃的な政見で知られる匿名掲示板だという仮説だ。その意味では、Qは匿名掲示板4chanの暇な「アノン(匿名ユーザー)」が手がけた、単なるクラウドソーシングされた陰謀論のひとつにすぎなかった。ユーザーに人気になったから目立つようになっただけの存在だった。

Qウォッチャーのほとんどは、少なくとも2名の異なる個人、もしくは異なるふたつの作者集団がQドロップを書いたと考えている。この記事では1人目の作者「オリジナルQ」について論じる。なぜかというと、失われたドロップの投稿日時はオリジナルQの活動期間内(2017年10月28日から2018年1月4日までとされる)にきっちり収まるからだ。

失われたドロップとは何か?

「失われたドロップ」は、Qドロップの「正典」――Qドロップの情報蓄積サイトのすべてもしくは大半でQのものとされる投稿――として認識されていないことからそう呼ばれている。

Qの最初の書き込みとして知られているのは、2017年10月28日の投稿だ。翌日、Qは2組のドロップを投稿した。1組は朝(ドロップ3~5。最後のドロップは米国太平洋標準時〔PST〕午前 9:47)。もう1組は夜(ドロップ6~13。最初のドロップはPST午後6:48)。

しかし、Qは他の投稿もしていた。

正典にまだ含まれていないQの書き込みを、現時点で私は13件見つけている。正典ドロップ5と6のあいだに投稿された、2017年10月29日の6件。正典ドロップ13と14のあいだに投稿された、2017年10月30日の5件。そして、正典ドロップ33と34のあいだに投稿された、2017年11月1日の2件。

失われたドロップのうち、Qというペルソナが4chanで活動をはじめて2日目である10月29日にふたつの4chanスレッドを横断して投稿された6件は特に興味深い。本記事では、この6件の投稿(ドロップA~Fと呼ぶことにする)に注目したい。

ドロップA~FをQの最初期のドロップと比較すると、オリジナルQについての重要な手がかりが得られる。失われたドロップの関連性を理解し、真正性を確認する上での鍵となるものだ。

「失われたドロップ」はどう見つかったか

Qの最初期のドロップにアノンたちがどう反応したかを調べている過程で、私は2017年10月30日のスレッド147191682にたどりついた。

このスレッドはQについての議論が行われていた過去のスレッドを引き継ぐもので、こういう書き込みがあった。「アノンたち、前スレッドではおつかれさま。昨日言及されていたスレッドよりも早い時間にあのリーク書き込みを読んだけど、重要なところは全部もう引用され話題になっていると思う。最初に彼が投稿したのはトランプのツイートのスレッドだった」

これには驚いた。正典Qドロップのなかに、トランプのツイートに関するスレッドを出典とする書き込みはなかったからだ。この匿名ユーザーが勘違いをしているか、もしくはQのいまだ知られざる書き込みに言及しているかのどちらかだ。この10月30日の書き込みには、調査に役立つ情報が十分にあった。「昨日言及されていたスレッド」、つまりドロップ6~13が投稿されたスレッドよりも「早い時間」のスレッド。そして「トランプのツイートのスレッド」。

トランプのツイートに関するスレッドを見たところ、10月29日のひとつ目のスレッドには収穫はなかった。だがふたつ目のスレッドは大当たりだった――ここでドロップA~Eと呼ぶ、失われたドロップ5件が見つかった。

私はすぐに4plebs(訳注:4chanのアーカイブ・サイト)でドロップAを投稿したユーザーIDを検索した。アノンの誰かがこれに気づいていないだろうかと思ったのだ。数人が気づいていた。

これらのドロップに気づくほどの鋭い眼を持ったアノンなら、他の未発見のドロップにも導いてくれるのではないかと思ったのだ(たしかに新たにドロップ数件を知ることができたが、ここで重要になる内容ではなかった)。この最初のドロップ5件を読むと、以前のドロップの文章と同じ表現が多用されており、さらに内容が後のドロップで再利用されていることに気づいた。そのため、私はQがよく使うフレーズをいくつか選んで検索してみた。「モッキングバード(マネシツグミ)」というフレーズで、ドロップFが見つかった。

この失われたドロップA~Fについて最も印象的なことのひとつは、これがQの知られている活動の2日目に投稿されたということだ。

ドロップを書いた人物は、まだQという役割と口調になじんでいる途中だった。

QらしくないQ

これらの失われたドロップでは、Qは権力と知識を持つインサイダーというよりも、「アノン」らしいふるまいをしている(「アノン」というのは、画像掲示板の匿名ユーザーのことだ)。

正典ドロップでは、Qのペルソナは穏やかで、冷静で、自制心がある。なんといっても、Qが演じている役は、自分自身をある程度の危険にさらしてでも重要な情報を公表する人物だ。よって、Qは権威ある人物らしい口調を用いている――長い会話に割り込むことはあまりせず、反論するアノンと喧嘩することもない。

しかし、10月29日の失われたドロップA~Fは違う。これらのドロップでは、書き込みをした人間のふるまいはQらしくないが、書き込みの内容はQのテーマに合っている。あまりにぴったりなので、後の正典ドロップで再利用されている。

この不一致は、Qが活動を始めてまだ2日目だったと考えると納得できる。書き込んでいた人物は、まだしっくりくるペルソナを見つけきれていなかった。内容はQにふさわしいが、ふるまいは平凡なアノンのものだ。つまり、ドロップの投稿者はいつもと同じようにふるまっている平凡なアノンだったのだと推測できる。

10月29日のQの書き込みを見るとわかりやすい。自分の書き込みの直前にされた書き込みに気づき、すぐに憤懣に満ちた返信を投稿している。

このやり取りがどう始まったのか見てみよう。ここでQは、「(((世論調査)))によると白人女性の半数近く」がトランプに投票した、ということについて長文の投稿をしたアノンに返信をした(訳注:三重の丸カッコは反ユダヤ主義を示すヘイトシンボル)。このアノンの投稿は、白人女性は「ダイバーシティが大嫌い」で、さらに4chanの標準からしてもひどい差別的名称を列挙し、白人女性は「ほかのみんなと同じように」それらも嫌いなのだ、と主張して終わる。

これは普通ならQが返信する類の書き込みではない。画像掲示板の文化の典型といえる露骨な人種差別的書き込みや反ユダヤ主義的書き込みに、いつものQはほとんど反応しない。オリジナルQの書き込みには4chanの露骨な人種差別主義の色が薄く、この一回を除き、あからさまな人種差別的書き込みを引用することすらしなかった。

しかし10月29日、Qのペルソナはまだ発展途上だった。キーボードに向かっていた人物は勢いよく返信を打った。人種差別的な意見ではなく、世論調査に真実があると信じる世間知らずな人々に対するQの軽蔑を表明する内容だ。「世論調査が正確なものさしになりうると本当に信じているのか? 世論調査はコントロールされ歪められている(FOXニュースでさえ)」

さらに、こう返信した後、Qは自身の書き込みの直前に投稿された書き込みをすぐに見たようだ。当時の司法長官ジェフ・セッションズをバカ(訳注:原文retard, 知的障害者を指す侮辱語としても使われる)と呼ぶ書き込みだった。Qはすぐにセッションズの名誉を守ろうとしはじめた。「バカ?」と、Qはあざ笑うような口調で書いている。「セッションズ司法長官がHRC[ヒラリー・クリントン]とオバマや他のやつらを起訴しても、まだ公正な司法権力として見なされつづけるだろうと思っているのか? そうなっても大統領を任期中ずっと支えて、他の大きな目的を達成することができるとでも? これについては、議会の承認が必要ではないところで別の権力が動いている(後略)」

これが普通の4chanユーザーのふるまいだ。不快で騒々しい。この書き込みに見られるのは実に平凡なアノンらしさ――のちにQが必死に払拭しようとしたイメージだ。

ドロップごとの比較

最初の失われたドロップA~Fには、偶然とは思えない頻度で、複数の正典ドロップとの相似箇所がある。

たとえば、例外的に長い書き込みであるドロップAのテキストには、それ以前に書き込まれた「真正」とされるQドロップ(正典ドロップ4、5)と、それ以降に書き込まれたドロップ(正典ドロップ6)と完全に一致する部分がある。

失われたドロップA(リンクはこちら

上の画像にあるテキストと、正典ドロップ4および5を比べてみよう。

正典ドロップ4(リンクはこちら
正典ドロップ5(リンクはこちら

正典ドロップ6は、それ自体がドロップ4と5の文章を混ぜ合わせたものであり、新しく追加された内容は多くない。つまり、ドロップAの作者は、Qの以前の書き込みふたつ(現在、正典ドロップ4、5と呼ばれている)を合体させてドロップAを作った。そして数時間後、Qは同じ修辞学的戦略を用いて、ドロップ4と5を合体させた正典ドロップ6を作り出した。

正典ドロップ6(リンクはこちら)

失われたドロップB、C、Eも、その後に書き込まれた正典ドロップと文章を共有する。決定的なのは、この3件の投稿(そして失われたドロップAとDも)が同じユーザーID「2ep3vYPd」を持つことだ。つまり、同一人物によって書き込まれたのだ。

失われたドロップB(リンクはこちら

ドロップBのほとんどがドロップ9に組み込まれている。「モッキングバード作戦」というフレーズはドロップ9にはないが、「モッキングバード」はドロップ2に2回登場し、「モッキングバード作戦」はドロップ3、4、6に登場する。

正典ドロップ9(リンクはこちら

失われたドロップCは正典ドロップ6、8、11と共通する箇所が多い。ドロップD、Eと同じく、ドロップCは、司法省の調査がリークされることはほとんどない、特に調査対象にはリークされない、といったことを述べたアノンへの返信として書き込まれた。Qはこのテーマについて続けて書いている。

失われたドロップC(リンクはこちら

ドロップCの最初の一文を、ふたつの正典ドロップにおける「軍事情報部/国家の秘密」というフレーズの使い方と比較してみよう。先に触れたドロップ6は「それがなぜどの頭文字三つの機関にも対抗するものとして使われうるか」と問うが、ドロップCも同じ点に触れている。

同様に、ドロップ8は「軍事情報部/国家の秘密」の後に「FBIはだめだ」と続けるが、これはドロップCの「これが特定の機関を避ける」という箇所と共鳴している。

正典ドロップ8(リンクはこちら

ドロップCの反響はドロップ11にも見て取れる。「カギ:軍事情報部vs FBI CIA NSA」というフレーズで始まる書き込みだ(ちなみに、「軍事情報部」と呼ばれる単一の連邦機関はない。あるのは様々な機関の寄せ集めだ)。ドロップ11は、軍が「唯一腐敗していない政府の領域」と考え込んだような調子で終わるが、これはドロップCの「邪悪が絶対に支配できない領域は我々の軍隊だ」という主張と重なる。

正典ドロップ11(リンクはこちら

失われたドロップDには正典ドロップと共通する文章はないが、同じスレッドにおけるQの他の投稿と同じユーザーIDで書き込まれている。

失われたドロップD(リンクはこちら

ドロップDは別のアノンの中傷に満ちた投稿に対する返信だ。注目すべきことに、Qはこの中傷は反論や言及の価値があると考えていないようだ――かわりに、この投稿を読んだ後、Qは取り上げるべき最も重要な点は世論調査の正確さだと感じたらしい。

次の失われたドロップEは、先に触れた、トランプ大統領は「あのバカをクビにすべき」だと書き込んだ別のアノンへの反応だ。「あのバカ」とは、当時の司法長官ジェフ・セッションズのことだ。ドロップEには正典ドロップ4、5、6との共通点がいくつかある。ドロップEをQは「信じろ」という言葉で締めくくっているが、この言葉は、ドロップEの前後に投稿されたこの3件の正典ドロップにも登場する。また、Qの下線の珍しい使い方にも注目してほしい。この下線はドロップ5にもある。

失われたドロップE(リンクはこちら

最も説得力のある一致は、正典ドロップ16とのものだ。ドロップ16にはこの見慣れた文章がある。「覚えておけ、セッションズ司法長官はオバマの元チームメンバー全員を捕まえようとしている公正なプレーヤーに見えてはいけない、我々は他の大仕事のために彼が必要だ」。書き込みのままだと理解が難しい。「公正な」という単語の使い方が変だ。

正典ドロップ16(リンクはこちら

では、どうして「公正な」がここにあるのか? このスレッドの他のQドロップが後の正典ドロップに再利用されていることを考えると、最も理解しやすいのは、Qはワープロで(もしくは他の方法で下書きを作って)過去の投稿をつなぎ合わせて新しいドロップを作り出していたのだ、という説明だ。

これによって、Qが初期のドロップをどう書いたかについての作業仮説が得られる――下書きをする段階はあった、だが、編集作業(というものがあったなら)のレベルは低かった。

別のスレッドに書き込まれたドロップFは、他のドロップと同じユーザーIDではないが、前後に書き込まれた正典ドロップと共通する文章やテーマがあるため真正と判断した。正典ドロップ1023と類似点がある。

失われたドロップF(リンクはこちら

ドロップFには「何人かは罠にかけられて協力するよう強制され、彼らは逃げ道を用意された」という部分がある。同じ内容が言い換えられてドロップ10にある。「善人たちは個人的脅迫や家族に関する脅迫を受けて、この邪悪と共寝するよう強制された。もし安全な逃げ道が与えられたなら、こんな邪悪で唾棄すべき行為を隠蔽する助けをしても平気でいられるだろうか?」

正典ドロップ10(リンクはこちら

ドロップFは、ふたたび「モッキングバード作戦」という言葉で終わる。Qはドロップ2で2回、ドロップ3、4、6、19で1回ずつ、「モッキングバード」という言葉に触れている。初期のドロップにおいて、Qのお気に入りの話題だったといえる。

正典ドロップ2(リンクはこちら

最後に、ドロップFの最初の一文は、2017年10月30日にリベラル派が何らかの破滅的打撃を受けると示唆している。これはドロップ1と一致している(ドロップ1は、同じ30日の朝にヒラリー・クリントンが逮捕されるだろうという別のアノンの推測に反応して書き込まれた)。

ドロップ1が反応した書き込み(リンクはこちら

これらのドロップの真正性を判断していくうちに、こういう仮説もついに登場した――これは偽者の仕業だ、という仮説だ。

失われたドロップA~Eが、正典ドロップ5と6のあいだに投稿されたことを思い出してほしい。この時点で、Qはまだ本当に影の薄い存在だった。フォロワーがつきはじめたのはドロップ6~13が投稿されたスレッドになってからだ。Qの過去のドロップ1~5は長い議論を呼ぶことができず、返信は多くて7件だった(対照的に、ドロップA~Eはもっと強く反応されている)。

Qは完全に無名だったのに、誰がわざわざQのふりをするだろうか?

偽者だという可能性は、QがドロップA~Fの文章を使って後に投稿したドロップ6~13の中身を組み立てたことからも否定される。

上にあげた例(これでも一部だ)が単なる偶然であるとは信じがたい。

よって、これらの失われたドロップの作者はQだ、という結論に至る。

Qの正体へのヒント

2017年に最初のドロップが書き込まれて以来、世界中のQウォッチャーがQアノンの裏にいる個人またはグループを特定する決定的証拠を探してきた。

残念だが、失われたドロップだけでは決定的証拠にはならない。しかし、Qの素性はまだわからないとはいえ、失われたドロップはQがどういう人物であるかについて、手がかりを与えてくれる――すなわち、普通のアノン、4chan住民で、それらしい口調と性格と世界観を持っている人間だ。

はっきり言うと、Qが突出しているのは、観客を翻弄する能力の高さだけである。聴衆を増やし、さらなる「啓示」をやきもきしながら待たせるようにする能力だけなのだ。


取材・執筆 Qオリジンズ・プロジェクトチーム

Qオリジンズ・プロジェクト (Twitterアカウント @QOrigins ) は、初期のQアノンの実態を原典にあたって検討し、4chan文化とQアノンの発生や関係性に光を当てる。

Bellingcat 2021年4月22日
How Q’s 'Lost Drops' Undermine the QAnon Myth

翻訳=谷川真弓