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ハザードランプを探して

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「生活保護の申請は国民の権利。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあり、ためらわずご相談ください」そんな呼びかけに応じない人もいる。どうしてなのだろうか。支援の現場から見たルポ… もっと読む
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記事一覧

「ハザードランプを探して」第1回

取材・執筆:藤田和恵、フロントラインプレス 「生活保護だけは嫌」コロナ禍におけるSOSは、元日の夜も待ったなしだ。 2021年1月1日、東京・千代田区の聖イグナチオ教会で開かれた「年越し大人食堂」で出来立ての弁当を配り、生活相談を受ける。会場の撤収後、「反貧困ネットワーク・新型コロナ災害緊急アクション」事務局長の瀬戸大作さんは、ひと息つく間もなく車を駆った。夜7時すぎ。都心の正月はビルの明かりも行きかう車も少ない。いつもと同じ元日の光景だが、新型コロナウイルス感染症が猛威

「ハザードランプを探して」第2回

取材・執筆:藤田和恵、フロントラインプレス 「無低」 「たった今、豚小屋のようなところから逃げてきました」 2020年10月下旬、40代の男性からSOSが入った。東京・池袋の公園にいるという。「反貧困ネットワーク・新型コロナ災害緊急アクション」事務局長の瀬戸大作さんが車で駆け付けたのは午後7時ごろである。助手席に乗り込んできたのは、橋詰宗吾さん(仮名)。不安そうな表情で、「全財産だ」という黒いかばんを抱き締めていた。「豚小屋」とは、いったいなんだろう。 首都圏きっての繁

「ハザードランプを探して」第3回

取材・執筆:藤田和恵、フロントラインプレス 雇用崩壊の末 新宿駅西口の喫煙所、池袋駅周辺のネットカフェ、上野駅近くの百貨店・上野マルイの前付近——。「新型コロナ災害緊急アクション」へのSOSはなぜか夕方以降、そうした東京都内の主要駅周辺から発せられることが多い。 事務局長の瀬戸大作さんはSOSを受けると、車で現地に向かう。約束した場所に到着すると、車を止めてハザードランプをつける。先方には車の色とナンバーを伝えてある。相手の携帯が料金未納で止められている場合、通話ができな

「ハザードランプを探して」第4回

取材・執筆:藤田和恵、フロントラインプレス SNSとヤミ金 その日、「反貧困ネットワーク・新型コロナ災害緊急アクション」事務局長の瀬戸大作さんの1日は、生活保護の申請同行から始まった。申請者はSOSを通して出会った細谷文彦さん(仮名、40代)。行き先は、東京23区のある福祉事務所である。 年配の相談員が細谷さんに向かって、生活保護の仕組みや注意すべき点を丁寧に説明してくれる。そのさなかのことだ。相談室の中で何度も振動音が響く。そのたびに細谷さんがジャンパーのポケットを押さ

「ハザードランプを探して」第5回

取材・執筆:藤田和恵、フロントラインプレス 「これで死ねると思ったのに」 「これで死ねると思ったのに……。ほんとに来ちゃったんだ」 「反貧困ネットワーク・新型コロナ災害緊急アクション」事務局長の瀬戸大作さんを初めて見たとき、20代の井上未可子さん(仮名)はそう思ったという。 2020年の11月中旬。 飲まず食わずの路上生活が3日続いていた。井上さんには夏服しかなかったので、夜の寒さがこたえる。この日、料金未払いで携帯が止まった。所持金は現金1円とPayPay505円し

だから私は「貧困」を追いかける 「ハザードランプを探して」藤田和恵さんに聞く

聞き手:高田昌幸(フロントラインプレス代表) 2021年、元日の夜ちょうど1年ほど前から、フロントラインプレスの藤田和恵さんは時間を見つけては、瀬戸大作さんと行動を共にしている。瀬戸さんは「反貧困ネットワーク・新型コロナ災害緊急アクション」事務局長。仕事も住まいも失い、所持金もほとんどなくなってしまったという人から「SOS」が届くと、車を走らせ、駆けつける。 2021年1月1日、東京・千代田区の聖イグナチオ教会で「年越し大人食堂」が開かれた。出来立ての弁当を配り、生活相談