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春の材木座

一年で最も昼間に潮が引く「春の大潮」。連日の大雨明けの週末、麗らかな陽気とともにシーズン到来を思わせる景色が現れました。ちなみに先日は中潮ですが、事前に「海天気.jp」のタイドグラフを確認して引き具合とタイミングを計ってビーチに向かいました。

ふだんは海の中にある遠浅の砂浜がグーンと広く露わに。

砂面を力強く撫でながら沖へと流れていく波の動きが砂紋となって表れています。このビーチならではの月の引力とさざなみが創るアート。材木座海岸でのビーチコーミングは大潮の最干潮時に目指してくる人が多いけれど、実際にはどうなんだろう。大潮は引く力も大きいから、本来露呈するはずの浅い海底に沈滞、あるいは波打ち際の砂中に埋もれる物々が大量に動く砂に覆われたり、沖へ持って行かれたりで、むしろ打ち上げ物拾いには向かないという説も。干潮のパワーが控えめな小潮の方がチャンスは高まるのかも。と思案しつつ、引き幅を優先して出かけてしまうのですが。

この日もちょっとひとまわりしてみたものの、珍しい貝や、鎌倉ならではの歴史的遺物などめぼしい宝物は眼に捉えられず、今日は駄目な日かなぁと諦めかけて、いったん昂る気持ちを鎮めて、何気なく和賀江島跡の石群エリアに戻ったらヒット! 石の間に潜むように転がっていたのは欠けの無いミントコンディションの硝子小瓶。昭和初期あたりのものでしょうか。何の変哲もない地味な瓶ですが、材木座で瓶自体を手にするのは本当に久しぶりだったので、思わず歓喜の声を漏らしてしまいました。

材木座はいつも裏切らない。何かひとつはギフトを授けてくれるから、何度でも足を運びたくなるのです。もう十分に拾い欲が満たされましたが、この石場には大きなサザエと思われる巻貝の貝殻片がたくさん落ちていたので、惹かれる螺旋造形を厳選してピックアップ。堅固な貝殻が割れ、こうして構造が露わになるまで壊れ、波と砂に研磨され風化するまでどれくらいの年月が経過したんだろう。100年いや200年、鎌倉時代まで遡るのかな。果てしない時間の流れに気が遠くなりながら、持ち帰って米酢にひと晩漬けて汚れと白く厚いカルシウム層をラフに落としてから飾ります。ここで丁寧に研磨すれば、虹色に煌めく螺鈿細工の美を鑑賞できるのでしょうが、自分には無理。白混じり、アイボリー色に虹色がほんのり差す風情を愛でるだけにとどめます。それにしても、このかたちはブランクーシの彫刻作品みたい。と、連想していたら京橋で始まったブランクーシ展を観に行きたくなりました。近々にぜひ。

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