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へそ石の蒐集

熱しやすく冷めやすい。集中的に夢中になったかと思いきや、ある程度、奥深い深淵を覗けたと感じたとたん飽きてしまって新たな好奇の対象を見つけ、そちらに向かってしまう。そんな嗜好・志向・思考だから特定の関心が長続きすることなく、収集を極めることも興味がない。そんな半生を過ごしてきた自分が珍しくコレクションを粛々と継続できている物がある。

それは「へそ石」なる海から打ち上がる石である。5,000万年ほど前に深海の海底で形成された地層。その表層の砂地に深海生物が設けた巣穴のまわりがコンクリートみたいに凝固し、約50万年前に地上近くへと隆起した地層から波に洗い出されて波打ち際に転がり上がってくる。存在自体は20数年前から知っていたし、打ち上がりやすい場所もわかっていた。当時、ビーチコーミング仲間は嬉々として拾い集めていたけれど、ぼく自身はわざわざ目指そうという気にはなぜかなれなかった。かなり地味な物だから食指が動かなかったのかもしれない。

ところが、へそ石を産出するメッカ、三浦半島先端、金田湾に面した野比海岸近くで、60歳を目前に控えたタイミングで縁あって働くことになり、かつての記憶とかすかな関心が呼び覚まされた。ワケあって、ゆったりした心地で働ける水曜日の朝は仕事に向かう前、通勤の足であるクロスカブて野比海岸に寄って「朝活」と称してビーチコーミングを再開した際も真っ先に頭に浮かんだのは「へそ石」の佇まいだった。

野比海岸のエリアは長大で、いったいどのあたりで「へそ石」に出会えやすいのか探ってみた。海岸の端から端までリサーチして、三浦半島最古の地層「葉山層」が露呈したスポットに気配を直観してマーク。

さらに幅にして数メートルのスイートスポットを見極めて、そこばかりを徹底的に眼を凝らすようにした。やみくもに探し歩いても疲れてしまうし、集中力だってもたない。場所を絞りこむことで特定の物を見つける確率を高めていく。これはぼくなりのやり方で、今まで上手くいってきた。毎度、捜索時間は30分ほどとマイルールを定めてフォーカスを貫いた。

手のひらに収まるほどのサイズ感、灰色や茶褐色、墨色の色合い、「へそ」に似た上下に貫通する丸い巣穴痕跡。それらの特徴を頭に浮かべ、実際に眼で捉えるのを待つだけだったが、最初の発見まで一カ月も要してしまった。しかし、いったん手にできて、質感、重量を体感してからは、おもしろいように見つかるようになるのだから、人間の感覚は面白いものだ。ほぼ毎週一度の訪問のたびに出会えるわけではないが、かなりのヒット率が嬉しく、何度遭遇しても高揚感が萎える気配はないのは、自身かなりレアなケースで、いったいどうしたことなのだろう。このスポットには目下のところ他のビーチコーマーの気配は皆無だし、世界的に超希少なプラチナ原石までもすでに数個見つけた。まさに宝の鉱脈を独り占めできている陶酔感があり、その悦びがせっせと飽きることなき朝活ルーティンを推進してくれているんだろう。たぶん、仕事の状況が変わらない限り、このスポットでの「へそ石」蒐集は終わらない気がする。そんなにまで、ひとつの関心に執心できるなんて、意外な自分の有り様に驚きつつ、この歳での無我夢中を喜ばしく思っています。

#ビーチコーミング
#へそ石
#野比海岸
#葉山層

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