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♯創作大賞2024 ♯エッセイ部門 応募作品  「ゆっくり行く者が遠くまで行く~スロージョギングで世界6大マラソン 」

【スロージョギングの原点】

「マラソン大会って、速い人が参加するのかと思っていた」と言われたことがある。私もずっとそう思っていた。
早く走らなくても、ゆっくりと少しずつ無理の無いように、走る距離を伸ばしてきた。
そして、ついにフルマラソンを、普通に完走する事が出来た。
「スロージョギング」というのは、笑顔でおしゃべりできるくらいのスピードで楽しく走る事。1キロ7~8分くらいのペース。
スロージョギングでも、いえスロージョギングだからこそ、楽しくマラソンを完走できるという事を体現していきたい。

そのために、スロージョギングをいつも生活の中に、ごく普通に組み込んでいきたいと思う。
速く走って記録を狙うよりも、将来のことも考えて、足腰に負担がないようにゆっくり進む。
走っている時は、自然に耳をすませたり、素敵な景色を写真に収めたり、ラジオや音楽を楽しんだり、ご近所をパトロールしたり、と「走る」+αで楽しめば、長続きしそう。
気分が乗らない日も、ちょっと寝不足な時も、考えるよりも先に、とにかくランニングウエアを着始める。
そして玄関でシューズのひもをキュッと結ぶ頃には、心は外にある。

毎回走り終わった後には、気持ちも身体も軽くなって、何だか良い事をした気分になる。
簡単なことなのに、得をしたような不思議な気持ち。
気持ちが良くなるから走る。走るから気持ちが良くなる。どちらも真実。

こうして、国内のフルマラソンを完走できたからには、海外マラソンにチャレンジしていきたいと思う。


【世界6大マラソンに挑戦してみたい】

世界6大マラソンというものがあるらしい。(東京、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークシティマラソン)
せっかくなので、世界6大マラソンに目を向けよう。
そして、それぞれのマラソンを完走するともらえるメダル、そして最終的に6つ全て完走するとゲットできるメダルを目指したい!
日々淡々と走りつつ、なかなか難しい海外マラソン出走権をゲットして、普段は見られないような景色に会いに行きたい。
人生にちょっとした彩りと達成感を添えるために。


【ニューヨークシティマラソン】

NYCマラソンの申し込みをしてみた。
久しぶりのフルマラソンを完走する自信なんて少しもないけれど、とにかく申し込まなければ当選はしない。
しかも、なかなか当選しないそうなので、まずは申し込んでみなければ、何も始まらない。

しばらく経つと、NYCマラソン当選のメールが舞い込む。
2023年11月5日(日)にニューヨーク5区を走る出走権に当選した。
何てラッキー!と感激しながらも、ちょっぴり不安もあった。

どうもNYCマラソン出走権の当選は、かなりラッキーなことだったよう!
ニューヨーク在住の知り合いも落選していた。
旅行会社主催の出走権付のマラソンツアーに申し込んで参加する方も結構いる。
ツアーに申し込んでいれば、前日までにゼッケンを取りに案内してもらえたり、当日走るコースを下見したり、手厚くお世話をしてもらえそう。

それにしても、マラソン当日に、自力でスタート地点まで時間通りに到着できるのか。
スタート地点は、ニューヨーク5区の1つ、STATEN ISLAND(スタテンアイランド)から。
そもそも自分は一体、何時からのスタートになるのか・・と、疑問だらけ。

少しずつ調べてみると、5:30AMにニューヨーク公共図書館前
(42nd Street 5th Avenue)から、スタート地点まで連れて行ってもらえるバスが運行されるらしい。

私の予想完走時間は6時間と申告している。
スタート時刻はWAVE1~5まで分かれているようだけれど、おそらく自分はWAVE5になるのではないか。そうすると11:30AMにスタートになるはず。
いったいスタート地点で何時間暇をつぶさなければならないのだろう…
しかも11月なんだから寒いだろうな・・・

スタート地点にはダンキンドーナツのサービスがあって、ホットコーヒーやニットの帽子などももらえるらしい。
でも、それより、もう少しゆっくり出発したい。
朝ごはんをきちんと食べて、トイレも済ませておくことが何よりも大切なのに。
地下鉄でフェリー乗り場の最寄り駅(South Ferry station)まで行って、フェリーで後から自力で行ってはいけないものなのだろうか。
・・・と、悶々としていた。

その後、8月中旬くらいからTCS New York City Marathonより、少しずつメールで連絡が来る。
“Important Information About Bib Pickup, Transportation to the Start, and Bag Pre-Check” (ゼッケンの受け取り、スタート地点までの移動、手荷物の事前検査に関する重要な情報) というメールで、
私にはバスの時間の案内はなく(それは速く走れるWAVEが先の人のみ)、
フェリーの時間を選ぶようになっていた。(8:45を選択)
それから、ゼッケンをもらいに行く日を選んだ。
エキスポの場所は、Jakob K.Javits Convention Center(34 Street 11th Avenue)
11/2(木)~11/4(土)開催のうち、(土)を選択。
少しずつ実感が湧いてきた。


【ニューヨークへ上陸!】
そうこうしているうちに、まだまだ先だと思っていた11/5(日)のニューヨークマラソンの日がぐっとせまってきた。
10月下旬には日本を出発して、数日間、セントラルパークを走りながら、体調を整えていこうと思う。

ニューヨーク到着後は、コースの下見も兼ねて、セントラルパークを偵察。ちょうど木々の紅葉も始まっていて、とても美しい。
外周6マイル(9.6キロ)をゆっくり1時間以上かけて走る。
快晴の中、午前中の空気が清々しくて、走っている人たちもたくさんいる。

私が特に気に入ったランニングコースは
“Jacqueline Kennedy Onassis Reservoir” (ジャクリーン・ケネディ・オナシス貯水池)の周回コース。
1周1.5マイル(2.5キロ)で、貯水池がキラキラと光っていて、真ん中のあたりから水が高く吹き上がっている。
貯水池の周りには、木々が植えられていて、いい感じで紫外線を遮ってくれる。
その時の体調で、2周したり3周したり調節しやすい。
こちらも、走っている人、おしゃべりしながら歩いている人、様々。
途中、メトロポリタン美術館にアクセスできる道路につながっているので、美術館から来る人たちもいる。
美術館と貯水池ウォーキング、なかなか素敵なお散歩コースだと思う。
このランニングコースは、私のイチオシ!


マラソン当日は、公園の東側East sideを走るコースになっている。そこも確かめておこうと、“MARATHON ROUTE“という旗に沿って、走ってみたりもした。実際のルートを下見をして、イメージトレーニンングが出来たと思う。


秋とはいえ、普通に汗をかく。
走り終わるころには、持参した飲み物は空になる。
帰り道、お水でも買おうと、59丁目コロンバスサークルにある“Whole Foods“へ寄り道。最初はお水のボトルだけ持って会計をしていた。
でも、日が経つにつれて、ついでにヨーグルトやらパンやらお菓子やらガチでお買い物をするようになってしまった。
日本でなら、汗だくでスーパーに入るのも躊躇われるけれど、誰もそんな事は気にしないみたいだし、それどころか、同じようにランニングウエア姿でお買い物をしているお仲間もいる。
そういえば、普段は観光用の馬車に乗らないかと、公園の入り口で声をかけてくるのに、ランニングウエアを着ているからか見向きもされない。
なかなか過ごしやすい。

時差ボケ気味で、朝はちょっと早めに目を覚ましてしまう。
とにかくランニングウエアを着てセントラルパークへ行く。
ビックリするくらい多くの人が走っている。
日本だと圧倒的に男性が多いけれど、女性もかなり走っている。
しかもかなりご高齢と思われる女性もいる。まさに老若男女とはこの事!

夕方、元気が余っている時には、ハドソン川沿いを走ってみた。
こちらもかなり賑わっている。
夕方の景色がすごくきれい!
対岸にはニュージャージーの景色が浮かんで見える。
ジャグリングしながら走るおじさんにウインクされた。
驚きのあまり!見過ぎていたのだろうか。
色々な光景を目にして、いつになく楽しめる。
キョロキョロしながら、写真を撮ったり、ベンチでストレッチをしたり、飲み物を飲んだり、気ままに走る。
つくづく、スロージョギングを習慣にしていて、良かったと感じる。


【ニューヨークシティマラソン前日】

NYCマラソンの前日、エキスポに行き、ゼッケンやTシャツをピックアップする。
エキスポの場所は、Jakob K. Javits Convention Center(34 Street 11th Avenue)
土曜日だし、最終日だからか、多くの人達でかなり賑わっている。

まずは、bib(ゼッケン)を受取りにカウンターに行く。
そこでは、身分証明書として持参したパスポートを提示して、引き換えのメールを印刷しておいたものを渡す。

次にTシャツをピックアップ。事前にSサイズを登録しておいたけれど、XSとSサイズはもう無いと言われる。仕方なくMサイズを選ぶ。
が、これが自分にピッタリ!
レディース用は、ウエストの辺りが少し絞られている形。
なぜ申告しておいたサイズが無いのか、しかも小さい方から無くなるなんて。
私はアメリカのMサイズなのか?!と、ちょっと複雑な気分。

気を取り直し、早速そのTシャツを着て、撮影を開始。
26.2マイルの壁、完走メダルの壁など、それぞれ立ち寄る。

NAME WALLには、参加者全員の名前がある。
50,000人以上の参加者がいて、探すのに手間取った。
何度か挫折しかけたけれど、何とか自分の名前を確認。
苗字がアルファベット順に並んでいた。



スポーツウエアなどもたくさん販売されていた。
私は、走るコース地点が全て書いてあるTシャツを購入。
良い記念になりそう。



レジのお兄さんがとても愛想良く(こういう店員さんもいるのね?)
「名前は?」「ニューヨークマラソンは初めて?」などと聞いてくれる。
「フルマラソンは走った事あるけれど、ニューヨークマラソンは初めて!」と答える。
レジもかなり沢山あって、それぞれのレジで雄叫びや歓声をあげたり、拍手をしたりしているところもある。
何故あんなに盛り上がっているのか?聞いてみると、
「それは‥(と、突然!)  ◯◯(←私の名前)が、初めてニューヨークマラソンを走るんだ!みんな拍手〜!!」と、私のレジ担当のお兄さんが叫び、周りのみんなが拍手喝采してくれた。ノリの良い人達。
こんな感じで、レジの人とお客さんが話して、それを大声で叫びながら、鼓舞してくれていた模様。
明日に向けて、気分が高揚してくるね!

最後に質問コーナーに行き、1番心配な制限時間を聞くと、8時間だそう。
それなら大丈夫そうかな。

エキスポを後にして、明日に備えてお買い物。
定番のバナナ、あんぱん(韓国のパン屋さん“Paris Baguette“というお店で)。
日本から持ってきたサトウのごはんで、梅干し入りのおにぎりを作っておく。カステラも欠かせない。
ゼッケンを安全ピンで留める。
イヤホンやランニングウォッチや携帯を充電して、モバイル充電器もランニングポーチに入れておく。
マラソン大会の前日に習慣にしている事を、一通りこなす。
そして、とにかく一刻も早くお布団に入る。

明日は、どんな世界が目の前に繰り広げられるのだろう。
ゆっくりでも確実に前進していきたい。


【ニューヨークシティマラソン当日】

当日の朝、身支度をすませて、地下鉄1番線に乗り込む。
ちらほらとランナーの人たちが見受けられる。
South Ferry駅に着くと、皆が一斉にフェリー乗り場に向かい、人波でごった返している。
Whitehall Terminalのフェリー乗り場に到着すると、人々でギューギューになっている。想像以上の混雑!
なるべく先頭を目指して、失礼を承知で人込みをかき分けて進む。
フェリー乗り場入口までなんとか行き着き、そこで待機。

ついにフェリーに乗る瞬間、イエ~イ!!!という雄たけびが、あちらこちらから上がり、のっけからお祭り気分!
私はフェリーの乗船時間を8:45と申告しておいたけれど、8:15に乗り込む。
大体の時間でしかないみたい。
フェリーに乗り込んでからは、一番奥の席に座ると、出る時に一番早くに出られる。皆それを知っているらしく、奥までずんずん進む。
奥の座席を確保すると、ほどなく出発。
しばらくすると、右手に自由の女神像が見えてくる。
写真を撮りに、右側に人々が集まってくる。

30分後、スタテンアイランドのSt. George Ferry Terminalに到着すると、皆が一斉にバス乗り場へ向かう。
数年前に出来たNYC唯一のアウトレットストア “Empire Outlet“の横を通り抜けて、迷うことなくみんなの後についていく。


次から次へとバスがやってくる。
大半は黄色いスクールバス、時々通常のシャトルバス。

バスに乗り込むと、隣はBrooklyn在住だという若い女の子。
今朝はBrooklynとスタテンアイランドを結ぶ橋や高速道路は使えないだろうから、どうやってBrooklynから来たのか聞いてみると、フェリー乗り場に近いLower Manhattanのホテルに泊まっていたとの事。
ニューヨークに住んでいても、工夫して準備している。

数十分バスに揺られ、スタート地点の“Fort Wadsworth“へ到着。
バスを降りて、すぐにセキュリティチェックを受ける。

道すがら簡易トイレがずらっと並んでいる。
中に入ると、トイレットペーパー、手指消毒の液、全て無くなっている。
昨日、たまたまNYCマラソンに関するYouTubeを見た。
何度も何度も「とにかくトイレットペーパーを持っていこう!」と繰り返していた。
その通り持参して来たけれど、本当だった(汗)

ゼッケン番号によって、スタートエリアがBlue、Orange、Pinkに分かれている。
私があてがわれているスタートエリアはBlueなので、Blue Villageの“Corral F“というものから入って、スタート地点に並ぶことになっている。
一度入ると、戻れないらしい。
WAVE5は、“Corral“のopenが11:00AM。
遅くとも11:15AMまでには入らないとcloseになる。
入口のところで、伸び上がりつつ中を覗き込んでいると、
「中にトイレもあるし、寄付する上着を入れるボックスもある」とのこと。11:00AMになってもいないのに、普通に入れてくれた。
時間は、目安でしかないのかもしれない。
こちらのトイレは、とてもきれいだった。
トイレットペーパーも普通にある。使う人が少ないみたい。


スタートでは、ここまで無事に到着したことにホッとしつつ、この地点に立てる喜びをかみしめていた。
家族をはじめ、気にかけてくれた人たちのお陰、職場の方々の思いやり、ご協力で、ここまで来られた。

音楽が鳴り続ける。私の好きな“Empire State of Mind by Alicia Keys“
やっぱりニューヨークはこの曲!
音楽のボリュームが大きくなってきて、否が応でも気持ちが高まってくる。前の女の子が曲に合わせて踊りだして、“そうだよね、踊っちゃうよね!わかる!”と思った途端、スタート!
イエ~イ!!!という雄たけびが、あちらこちらから上がって、その叫び声と共に、みんな一気に走り始めた!
ついに始まった!今まで走ってきた通りに走ればいい!!
いつも周りにつられて、速めに走ってしまいがち。
でも、ここは敢えて、遅すぎると感じるくらいノンビリペースで行こう!と自分に言い聞かせる。
後半に苦しくならないよう、1キロを7分くらいで、ずっと走り続けられたら本望!

5時間30分で完走できるぺーサーが前方にいる。
それくらいのペースでいけば、6時間を超えることは無いだろうと思う。
なるべく見失わないように、指標にしていこう。
まずは、Verrazano-Narrows Bridge(ヴェラザノ=ナロ-ズ・ブリッジ)を渡る。


2マイルを過ぎたあたりで、ようやくBroooklynに入る。
“Yo! Welcome to Brooklyn!“のサインで迎えられる。

そして、3マイル(約4.8キロ)のところで、やっと初めての給水所。
Gatoradeのスポーツドリンクとお水の用意がある。



1マイルずつ給水所がある。
喉がそれほど乾いていなくても、必ず立ち止まる。
お水かGatoradeを交互に飲む。
そのあと、足が痛くなくても、念のためストレッチとマッサージをする。
痛くなってからでは取り返しがつかなくなるので、その前に。



沿道の人たちが、ランナー以上に元気にノリノリで声援を送ってくれる。
音楽を生演奏したり、大音量でならしたり、まるでライブのよう!
特に道幅が狭いところは、両サイドから声援の嵐を浴びて、音が天まで反響している!こちらのテンションもどんどん上がってくる!
ランナーのことを、皆が自分のこと以上に、夢中になって応援してくれる。
それはちょっぴり不思議で、元気がモリモリ湧いてくる世界。

12マイル(約19キロ)で、“SIS”のエナジージェルが用意されていた。
意外とあっという間に13マイル(約20キロ) !
ようやく半分まで来た。
ここから2つ目の橋Pulaski Bridge(プラスキ・ブリッジ)を渡る。
その先には、Queens(クイーンズ)地区が広がる。


ほどなく3つ目の橋、Queens borough Bridge(クイーンズ・ボロー・ブリッジ)に入る。
JFK空港からイエローキャブで、マンハッタンに入る時に渡る橋。


橋を渡りきったところはマンハッタン。
道幅が広い!応援してくれる人たちが沿道を埋め尽くしている!!
途中、「頑張って~!!!」という日本語も聞こえてきて、大きく手を振る。赤ちゃんを抱っこしている日本人の女性だった。

「ATSUKO」さんという方が、腰のところに日の丸と富士山を描いたゼッケンをつけていたので、話しかけると「声をかけてくれて嬉しい~!」と言ってくれた。お互いに励みになる。

「今日がお誕生日」というサインを背中に張っている方には
“Happy birthday!“と声をかけつつ走る。

この辺りから、スピードダウンしているランナーもかなりいた。
自分はゆっくりペースでも、少しずつ前にいるランナーを追い越すことが増えてきた。



お菓子を大きなお皿に入れて、自由に取れるように沿道で差し出してくれている人たち。
クリネックスのティッシュペーパーを持って、取り出しやすいように持ってくれている人たち。
手作りのボードには、笑っちゃうようなサインが描いてあって、それを持ちつつ応援の声をかけてくれる人たち。
「元カレが後ろから追いかけてくるよ!」
「MTA(ニューヨークの地下鉄や鉄道)より速い!」
「これをタッチすると、パワーアップする!」
読むのに夢中になって、演奏してくれている音楽に耳を傾けているうちに、自分の用意しているspotifyの音楽を聴くタイミングが全然ない。


18マイルで2回目の“SIS”のエナジージェルが給水所に用意されているので、もちろん飲む。
いい気分転換になって、そのまま走り続けると、ほどなく目の前に19マイル(約30キロ)のサイン。
練習では30キロまでしか走っていない。
ここからは久しぶりの未知の世界。
ランナー仲間からのアドバイス通り、持参してきたカフェイン入りのスポーツジェルを飲む。
カフェインにうまく働いてもらって、「自分はまだまだ元気!」と思い込ませる作戦。


そろそろマンハッタンに別れを告げるべく、4番目の橋になる
“Willis Avenue Bridge“を渡る。
目の前に広がるのは、ブロンクス地区。


段々と日が傾いてきた。
夕方といえば、一日のうちで一番エネルギーが枯渇している時間。
そんな時間帯に、きれいな夕陽を眺めながら、ブロンクスの街並みをスロージョギングしている。
なんという巡り合わせだろう。
この時間にこの場所を走っていることが、今まで想像できただろうか。
これは現実なのか、まぼろしなのか。
これからも生きていく中で、思いもしなかったような場所に身を置く事があるだろうし、普段は見られないような出来事に遭遇する事もきっとあると思う。
それと同時に、毎日の何という事もない日常が、実はとても有難いものだと身に染みる。
何はともあれ、フルマラソンに挑戦したいと思えるくらいは身体が丈夫で、海外マラソンに参加するために、様々な準備を後押ししてもらえる環境に自分がいる事に、感謝の気持ちが溢れてくる。


さあ、そろそろ最後の5番目の橋Madison Avenue Bridge(マディソン・アヴェニュー・ブリッジ)を渡り、マンハッタンに戻る時間。
真っ暗にならないうちにゴールを目指したい。



応援してくれるのは、当日だけではない。
出発前までにも、気にかけて声をかけてくれる人たちがたくさんいて、心の底から嬉しかった。
走り終わった後に使うように、効き目のある湿布をくれた方。
今まで知らなかった、文明堂のVカステラをくれた方。(とても美味しくて、走る前から食べてしまった!)
そして、「6大マラソンを制覇したい!」という私の戯言にお付き合いくださり、完走するたびにstar☆のシールを貼っていけるように、手作りの台紙をくださった方。
感動で涙が滲んだ。そして、何だか背筋がシャーンと伸びて、制覇するために困難なことがあっても、言い訳はしないぞ~!と気合を入れなおす。



バナナが置いてある給水所にたどり着き、ようやく固形物を口にする。
そして、ひたすら走る。
走っている間、こうしていられるのは、みんなの協力、そして自分の今までの積み重ねだと感じて、こみあげてくるものがある。
そして自然に足が前へと前へと動く。
少しずつでも前に進む。自分のペースをくずさない。
そんな姿を見てくれている周りの人と自分とが、一体感を醸し出している!



ついに40キロまで来た!
今まで必ず立ち寄っていた給水所は、もうここからはスルー。
あとはラストスパート!
足がどうなっても良い!(良くはないけれど、そういう気持ち)
最後は、“Don't stop me now” by Queen を聴いて、駆け抜けるつもり。
スマホを取り出すと、何と!そこにいたバンドが、この曲を演奏し始めた。
良く分かってるなぁ~!もう!!
エネルギーが、かき集められた状態。
ぐんぐん進み、5:30のぺーサーを追い越す。
前にいるランナーたちを、ことごとく追い越す。



最後の直線距離を、ただただ、ひたすらダッシュ!
そしてFinish lineが目に飛び込んできて、ゴール!!!
やった~!!!


ネットタイムは、5時間27分15秒。
6時間を切れて、本当に本当に良かった!

今後の最難関、ボストンマラソンのことを考えると、6時間以内で走る事が出来れば、出走権付きのツアーに申し込める。
このNYCマラソンが、世界6大マラソン制覇の最初の1歩になった事に、
心の底から安堵!!!

ふらふらと歩きながら、メダルを首からかけてもらう。
金色でピカピカしていて、結構重い!
そして、身体が冷えてしまわないようにポンチョをもらえる。
手渡してくださる女性が、「着せてあげるわね」と、よろよろの私に着せてくれて、マジックテープなども留めてくれた。
優しい~(涙)


ランチも食べないで、口にしたのは、水とスポーツドリンク、スポーツジェル、バナナ、持参したカステラのみ。
フルマラソンは、プチ断食に他ならない♪
リカバリーバックをもらえるので、全て食べ尽くす。


温かいお風呂に入り、いただいた湿布を、足の全て覆いつくすように張りまくる。
翌日、意外なほど、筋肉痛が感じられなかった。
まだ、脳が興奮気味なのか?!

そして、ほどなく “Abbott World Marathon Majors” からメールが来た。
“Congratulations ,You've earned a new star!”
(おめでとうございます。新しい☆を獲得しました)
“1 down, 5 to go”
(1つ完了、あと5つです)

きちんと反映されていたようで、またまた安堵の気持ち。




今後も、ワールドマラソンメジャーズ(世界6大マラソン)全制覇!を目標に、スロージョギング続行中!!!


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