#結晶
ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 10 ルクス Lux
俺と真砂さんは榊の邸宅の中庭に倒れ込んでいた。
気を失っていたわけではないが、二人とも急激な疲労に襲われ、身体に力が入らなかった。
見上げるとアリがこちらを見つめていて、お疲れ様です、と気遣った。
「榊の結界は解けました」
そう言って、アリは希うように両手を掲げ瞼を閉じた。
そのまま一つの音程、少女の声とは思えないほど低い音程を、延々と持続させながら歌い始めた。かすかな狂いさえ
ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 8 Heavy Soul
磔の庭の地下、それは地下室のことだと思っていた。
鬱蒼とした樹木と苔が偏在する地下世界。
空は抜けるような青一色。鳥の鳴き声。
めくるめく無機物に近づきつつある地上世界とは対照的に、ここは生命の香りが立ち込めていた。
「真砂さん、聞こえましたか? 三十分は努力目標じゃないらしいです」
「うん」
「真砂さん、大丈夫ですか?」
「何が?」
「いろいろです」
「大丈夫なのかな、う
ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 6 Vein Ⅲ
ホテルを出て、駅の改札を横切ると、閉園した遊園地のように無人だった。思わず立ち止まる。いや、違う。目を凝らすと窓口に駅員はいるし、表通りから見上げる高架ホームにも数人の乗客を確認できた。
「それにしても」
いつもの癖で口元に手をやり、閑散としたバス停を見渡しながら、囁いた。
日中に市街の中心部にある駅周辺に人の気配が乏しいのは不気味だ。
しばらく敵の気配もない。
空に浮かぶ銀河だけが荘
ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 4 Vein
教会は住宅街に紛れて、アンリに言われなければうっかり通り過ぎてしまいそうな、小さく簡素な建物だった。開放されている礼拝堂に足を踏み入れると、木製の長椅子に腰かけた母子連れがいた。最後列の長椅子に腰かけ、どこにクダはあるの、母子連れに気づかれないように囁き声でアンリに尋ねた。
「クダはそれが設置された空間内部を満たしています」
そうアンリは答えたが、いまいち意味がわからない。
「カードを十秒
ル・プティ・シュヴァリエ Le Petit Chevalier 2 フィギュール Figures
八時ちょうどに目覚めた。
窓から覗くのは旅立ちにふさわしい晴れ渡る空だ。
世界が終わるというのに、長らく味わえなかった安眠を享受できた。
確固たる使命を与えられないことが、いかに人を慢性的な不安に陥らせるのか、生まれて初めて理解できた気がした。
アンリ、起きて。教えてほしいんだ、どこへ向かえばいいのか。
「あなたが起きているとき、私も起きています」
濡れたような結晶をゆらめかせて