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さつまいもの味 / 20201018

先日から舌の奥、左側が痛い。さてはまた口内炎をやらかしたようだ。2年ほど前に、何を食べるにも痛すぎて涙が出てくるほどにひどい口内炎を舌に起こしてから、どうも癖になっているような気がする。しかも舌、それも奥なので、塗り薬はすぐに飲み込まれていくだろうしトラフル錠も残念なことにストックがない。これも季節の移ろいが私に置いていく体の変化のひとつになっている。季節が移ろうたびに私は咳を出し、鼻炎を起こし、口内炎を起こす。先週台風が通り過ぎてから、秋は早足になるばかり。生き急ぐように、その目はもう冬を見据えているように。


先週の土日は働いていたので、目覚ましの必要がない休日のありがたさをひときわ感じた。微睡む午前。重いまぶたで飲む白湯。白湯を飲んでもまだ眠く、再び布団に潜り込む昼のまぎわ。

実家の母から物資が届いた。20年前の自分からの手紙を郵送してくれるだけでよかったのに、部屋にやってきたのはやっぱり大きな箱で、開けてみれば地元のお米と、四半期決算で最近は忙しいと話の流れで何気なく伝えていたのが気がかりだったのか、カップスープやレトルトのお粥が詰め込まれていた。

「帰りがおそい時は、胃に負担がかからないおかゆやにゅうめんで体をあっためて休んで下さい」

帰りが遅い日、私が何も食べることなく寝ていることが知られたら、きっと私は叱られてしまうのだろうな。



先週買ったさつまいも、炊飯器で焼き芋にした余りをどうしようかと思って、一本をざくざく賽の目に切って米と一緒に炊いてみた。初めてやってみたことにしてはうまくいったけれど、もっと水が多くてもよかったかもしれない。いずれにしても、米だけで食べるのと、米とさつまいもを一緒に食べるのとではどちらがカロリーが高いのだろう。けれどさつまいも、調べてみるととても栄養価が高く素晴らしい野菜であるそうなので、こちらの方が体に良いのは間違いないみたいだ。そしてさつまいもはまだもう一本余っている。


20年前の自分から手紙が届いてしまったせいで、この土日の私の部屋はアンジェラ・アキの「手紙〜拝啓  十五の君へ〜」がヘビロテ再生されている。届いた手紙は、アンジェラが歌うような思春期に悩む少女のそれではなくて、底抜けに明るく世間のなんたるかも全然理解していない無敵の少女からのものだったけれど。まあいい、この手紙を受け取れたこと自体が奇跡みたいなものだ。実家の住所が変わっていなくてよかった。30歳までとりあえず生きていてよかった。この手紙が宛先不明にならなくてよかった。それだけだ。手紙をありがとう、4年2組の千裕さん。



ようやく心身の底から這い上がれるだけの力が戻ってきたので、久しぶりに映画館に通った週末だった。金曜日に観た『ある画家の数奇な運命』はひたすら長くて色々気の毒な映画だった。リヒターは存在だけで圧倒的なのだから仕方がないよと肩を叩いてあげたくなる。土曜日に観た『異端の鳥』はまだ私の中でこれという言葉を掴めないでいる。私が何を感じて、何を受け取ったのかをまだ私自身がわからないままでいる。それでもこれが深く記憶に残る傑作であることは間違いない。結構人が入っていて、少し驚いた。日曜日は『TENET』をようやく観た。観たけど、これについてはもう何も考えたくない。考え出すと死んでしまう。人が考察した500ページくらいの同人誌を買いたい。それにしても、ハンス・ジマーが音楽から外れていたのには少し驚いた。これからノーラン映画の音楽はどんな方向へ向かうのだろう。

金曜日に公開された劇場版鬼滅の刃のおかげで映画館はおよそ見たことのない景色になっていた。私の腰ほどしかない背丈の女の子が走り回り、ベビーカーを押したお母さんが順番待ちをしていて、グッズ販売の列にもすごい人だかりができていた。帰りのエレベーターに乗り合わせた女の子がたどたどしい口調で「やっぱりれんごくさんはかっこよかったよ」とお母さんにしきりに話しかけていた。煉獄さんって誰なんだ。

インスタグラムを開いてみても、地元で美容師をしている従妹がわざわざ公開日に休みを取って後輩の男の子と鬼滅を観に行って爆泣きしてジャンプショップで爆買いして推し活を満喫していた。凄まじき鬼滅の刃。1ページも読んだことのない鬼滅の刃。1秒も観たことのない鬼滅の刃。しかし今、日本経済の中心にいるのは間違いなく鬼滅の刃なのだろう。いやはや。


『ザリガニの鳴くところ』を読み終えて、今はハン・ガンの『そっと、静かに』を読んでいる。金原ひとみとゴーストハントの新刊もようやく買ったので、また少しずつでも読書ができるようになれたらと願う。

二次創作の小説も亀の足のごとき遅さではあるが進んでいる。これだけを根詰めて書いていたいと毎日思っているけれど、結局エッセイを書いて日記を書いて毎日は終わってしまう。平日になればまた私は不安と憂鬱の海に沈んだゾンビになる。日々は、難しい。

明日の朝ごはんも、多分さつまいもご飯になると思う。



今 負けないで 泣かないで 消えてしまいそうな時は
自分の声を信じ歩けばいいの
大人の僕も傷ついて眠れない夜はあるけど
苦くて甘い今を生きている
_アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓  十五の君へ〜」


大人だって毎日傷ついて、生きているものだよ。大人は決して、無敵な生き物ではなかったよ。大人になってからの方が、私はたくさん泣いているよ。大人なんて、そんなものだよ。「そんなものだよ」と繰り返して、足を引きずって会社に行く、そんなものだよ。勝ちも負けもない、大人はただ、そんなものだよ。なんて。





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