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late last friday night(20200415)

憂鬱の海に足を取られて息ができなくなって、またベランダから飛び降りる妄想が頭が離れなくなって、逃げるように部屋に帰りついてもお風呂で内腿を伝う赤黒い経血をじっと見つめて死にたいと呟く。シャワーで洗い流すとお風呂場の床が薄く赤に染まり、たった数滴の経血の密度に軽い感動すら覚える。死にたい。また呟く。

月の残業時間が50時間を超えたら産業医と面談しなければならないことになっていて、問診票を持って訪れた私に産業医はあっけらかんと「3時間の残業を1週間続けるより4時間やる日と1時間やる日を交互に作った方が体にも精神的にも負担は少ないんだよ」なんて言う。別に私に共感するつもりはないらしい。

病んでしばらく会社を休んでいたことを今の同僚の人たちに知られたくない、だけどもうダメかもしれない、またダメになるかもしれない、知られたくないけどもうダメかもしれない、また全てが怖い、不安だ、憂鬱だ、人の視線と声に耐えられない。また口の中で呟く。死にたい。


というひどい数日間を過ごしていたところ、昨日いきなりテレワークの試験要員に指名された。今まで頑なに出社して粘り続けていた決算部隊だったが、とうとう会社が本格的にビルから人を締め出す方向に舵を切ったらしく、我ら決算部隊もそれには逆らえないところまで来てしまった。「ということでまずはテレワークを実際にやってみてどんな感じだったかを教えて欲しい」ということで、言われるままに会社のパソコンを持って帰ってきた。帰ってきても、ちゃんと社内ネットワークに繋がるのか、todoリストに漏れはないか、ああ、早速あれを忘れた、あの人にも連絡してない、そんな不安ばかりが頭の中を走り回るままに寝た。

今日は少し遅めに起きた以外は変わらないスケジュールで朝の支度をして、コーヒーを淹れて、恐る恐る会社のパソコンを部屋のwifiに繋げた。すぐに落ちるとか、なかなか繋がらないとか、悪い話ばかり聞いていたけれどあっけなく繋がった。

そこからは、とても楽に一日を過ごせた。電話もかかってこない、メールボックスに洪水のようにメールは届くが、それでも声を出して話すよりずっと楽で、何より人の視線も声もなく、それが本当に私の心を落ち着かせた。どうせ私しかいないので、スピーカーで映画のサントラやフィオナ・アップルをかけながら仕事をした。午後からは延々とフィオナの音楽が流れ続けていた。テレワークは残業禁止なので、17時きっかりに仕事を終えた。上司に仕事を終える旨を電話で伝えて即パソコンを片付けて自分のMacbookを机に置いた。


自分の視線と声、そしてフィオナの音楽しかない空間で一日を過ごして、憂鬱は随分と薄くなった。昨日の、シャワーで流れていった経血のように。明日は一応結果報告ということで会社に行かなくてはならないが、もしかすると来週以降は当面テレワークになったりするのかもしれない。私にはわからないことがまだ多くて人に聞かないと仕事を進められないところもあるし、ひとりになることで質問できる人が近くにいなくなることへの不安はあるけれど、テレワークになってくれたら、いいなと思う。私は憂鬱をうまく手なづける練習をしなくてはならないから。

結局私はどうやって、何に負けて、死ぬことになるんだろうなと考える。病に覆われている世界の中で、私はそこをすり抜けるのか、足を取られるのか、それとも全く関係のないことに引きずられていくのか、こればかりはわからないままだ。

それでも次に会うときは二人でマルジェラを冷やかして、そのあとヨウジヤマモトのモデルをやってる息子を持つイタリア人が働いているお店でご飯食べましょうね、マルジェラを手ぶらで帰りづらくなったら困るからちゃんとお金も稼いでおきましょうねと約束した人がいるので、その約束だけは果たしたいなあと、憂鬱な頭でもぼんやりと考えている。



そして今日私が延々フィオナを聞いていたのには理由があって、この金曜日、4月17日に8年ぶりの新譜『Fetch the Bolt Cutters』がリリースされるからだ。全てのストリーミング配信に対応するらしい。できればCDとしても買いたいが、日本盤が作られるのか、そもそもCDにして売る気があるのかは謎だ。けれど8年ぶりの新譜。フィオナ。大好きなフィオナ。死にたい死にたいと言いながら、結局この週末までは生きる意欲に溢れている自分の二面性にため息をついて、明日を迎える。

新譜が届く前に、予習用・布教用としてApple Musicでフィオナのプレイリストを作ったので、よければ使って、聴いてみてね。フィオナの音楽が、どこまでも遠くに届くことは本人もそこまで望んではいなさそうだけど、それでも私はフィオナの音楽がもっと知られてほしいし、いろんな人と、フィオナの音楽の話がしたいと思う。
"Never Is A Promise"はとてもいい曲だから。


読んでくださってありがとうございます。いただいたお気持ちは生きるための材料に充てて大事に使います。