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たくさん読んでもらえたものと、個人的に読まれてほしいもの
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記事一覧

破片

買ったばかりのスニーカーは紐の締め付けがきついのかなかなか足が入らなくて、歩き出してもす…

kyritani
3年前
152

開いてワームホール この花束を渡して、彼女に

日が沈んでいる。何も考えていない、考えられない、何も喉を通らないうちに、部屋から一歩も出…

kyritani
3年前
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時には声なく雨宿りを

幼稚園の先生は、泣いている子供を見つければ駆け寄って声をかける。 「どうしたの?」 子供た…

kyritani
3年前
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朗らかな街の、川のほとりから

今年の6月で30歳になった。 大学進学を機に神戸にやってきて、就職で大阪に移り住んで、気づけ…

kyritani
3年前
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拝啓 20年前の私へ

「20年前のちーちゃんから30歳の千裕さんに手紙が届きましたよ」 母からの連絡には、フェルト…

kyritani
3年前
157

思春期なんかに出会わなければ

朝4時から支度をして、ろくにものを食べることも叶わず、祖父母や従姉妹の家に挨拶に行き、水…

kyritani
3年前
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父さんはBUMP OF CHICKENが好き

うちの父さんは50代も半ばにして、BUMP OF CHICKENの熱心なファンでいる。 きっかけは自分の子供が聴き始めたからで、わたしと弟がいつもバンプの話で盛り上がったり飽きもせず毎日CDコンポで流しているとそのうち「このバンドはいいな」と自分から言い出して、熱心に聴くようになった。中高生に人気のバンドをいきなり中年の父さんが「良い」と言い出して聴き始めたことに、わたしと弟は顔を見合わせ母さんは「オッサンの若者趣味もいい加減にしろ」と呆れていた。 それでも父さんはせっせと

金原ひとみ、わたしを通過する台風

いつか、私は彼に墜落した。そして今も炎上している。   金原ひとみ「星へ落ちる」 金原ひ…

kyritani
4年前
39

孤独を煮詰めたもつ鍋をばくばく食べた夜

昨日ぼんやりとこんなことを考えていたら、7年前に大学の卒業論文を提出した日に講座の同期と…

kyritani
3年前
47

雪解け

前の部署にいた時、仕事帰りによく同僚や上司と飲みに行っていた中華料理店が静かに閉店してい…

kyritani
3年前
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早稲田ちえが私を作った、あとは一緒に灰になるだけ

早稲田ちえの漫画はもはや私の血を成し肉を成し、あとは死んだら一緒に燃やしてもらって同じ灰…

kyritani
4年前
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I My Me Mine 或いは届かないSehnsucht.

 物語るとは、神に自分の存在を証明すること。  わたしはここにいる、ここで、息をしている…

kyritani
6年前
24

タイタニックの話がしたい

映画『タイタニック』は人の人生をめちゃくちゃにする。 『タイタニック』に人生をめちゃくち…

kyritani
4年前
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イーストウッドのアップデートが追いつかない

クリント・イーストウッド監督最新作『リチャード・ジュエル』を観た。全体的な感想としてはこんな感じでまとめた。 しかしどうしても避けて通りたくないのが作中に登場するキャシー・スクラッグス記者(オリヴィア・ワイルド演じる)の描かれ方である。 「枕営業」の事実関係 彼女は作中で、爆破テロ事件のスクープ欲しさにFBI捜査官に「枕営業」を仕掛け、その成果あって他社を出し抜くスクープをモノにする。 しかしこの『リチャード・ジュエル』という物語がそもそも実話を基にした映画でありキャシ