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4月_オオクママダラカゲロウ [フライフィッシング歳時記]

かなり昔の事だけど、会社勤めしていた時
職場の同僚達としたお花見で、エライ騒ぎに巻き込まれた事がある。
いや、正しくは、巻き込まれたのでは無く、巻き込んだ?のだ。
事の張本人は僕。どうもアルコールが入ると気が大きくなってしまうフシがある。

大いに盛り上がってほろ酔い気分。夜間照明が落ちて、どこの宴会もお開き。僕たちも帰り支度を始めた頃、茂みの向こうで数人のグループのケンカが始まった。
初めは皆んな無視していたが、多勢に無勢の余りに一方的な状態がかなり深刻な事態に思えて、
「お前ら、えー加減にせんと警察呼ぶぞー」と、ややそっち系のイントネーションで声を上げてしまった。

するとその内の数人が、今度は僕たちに向かって牙を向いた。
僕たちのグループには女子もいたので男子は立ち向かった。
もっとも張本人の僕は、両手に荷物を抱えたままの、されるがままの状態だったらしい。

同期の友人は小指を脱臼。一個下の後輩は眼鏡を買い替える羽目になってしまった。
等の僕はと言えば、無抵抗だったが故に、しつこく狙われる事も無く、終わってみれば一番の軽被害だった。
ただ、その後「ガンジー」と言う余り嬉しくないあだ名が付いてしまった。


長良川の桜並木を見ながら、そんなあれやこれやを思い出して、車を走らせていた。

カゲロウなどの水生昆虫を模した毛針を使うフライフィッシングには『マッチ、ザ、ハッチ』と言う言葉がある。
これは、その時羽化<ハッチ>している虫に合わせた<マッチ>毛針を使いなさいと言う意味だ。もともと用心深い渓流魚は少しでも不自然に流れて来る毛針を簡単には口にしてくれない。しかし、まとまった量の羽化が始まるとがぜん魚の活性は上がる。

3月下旬以後、水温が10度以上その日の最高気温が15度以上になる日があると、いよいよ蜻蛉の第一弾、コカゲロウの仲間が羽化しだす。
晴天の日よりはむしろ花曇りの日が良く、長い瀬(水深が浅く水面が波立つ部分)の後のプールでライズ(魚が水面を割って捕食する行動)があれば釣れる確率は高い。
とは言ってもコカゲロウのサイズは小さく(フックサイズにして6ミリ程度)、これをナチュラルドリフト(自然に流す)させるのが難しい。サイズが小さい分、風や水流の影響を受けやすいので、少しでもフライに不自然な動きが生じると魚は浮いて来ても、直前でUターンしてしまう。


渓に着いたのが10時、天気は晴れ、朝の冷え込みが気に掛かる。ライズを探すが川は沈黙している。
とりあえず去年実績のあった辺りからから釣り始めるもののやはり反応がない。
そこで昼前にI川に見切りをつけて、10キロ程下流で合流する支流のK川に向かった。

河原に降り立つと、こっちはうって変わって水面が騒がしい。プールの流れ込みでライズがあった。
第一投に魚が出た。寄せてくると、残念、カワムツ(外道)だった。
時間は12時、午後には仕事が待っているので残された時間はあと1時間。今さら上流に引き返す事も出来ないのでそのまま釣り上がった。
2、3尾のカワムツを掛けた後、フライが魚のヌルで浮きにくくなったので、交換の為にしゃがみ込む。
するとその時、自分より上手流芯でパッシャっと鋭い音がした。
明らかにそれまでのライズとは違う明快なな音だ。
頭を上げ、音がした方向を見つめる。
すると、なんとコカゲロウよりは二回り大きい何かが、今まさに脱皮を終え水面から飛び立とうとしている。
そして水面が割れた。
カゲロウの姿が消えている。マダラだ!マダラがハッチしている。

それから数分後、僕は体長25cm、鰓の上部がコバルトブルーに光る良型のアマゴを手にしていた。

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後日調べたところ、あの時羽化していたのはカゲロウの一種オオクママダラカゲロウだったと思われる。羽化形態は、もっとも魚に狙われやすい水面羽化。しかもオオクマの場合、時期的に他に羽化する水性昆虫が微少な物だけに、なおさら目立った存在となる。

目立つものは狙われる。

そんな、理由もあってか、オオクマは短時間に集中羽化する事で知られている。まるで何かの合図があるかの様に、申し合わせたように、ほんの数分間の間に一斉に羽化するのだ。

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