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[物語のある英語]~第10回~Put my best foot forward~英語圏の縁起を知ったら英語がもっと分かるようになる

言葉は人によって作られた。だからその過程には物語があって味がある。
単語帳では語られない物語を味わって味わい尽くそうというのが本シリーズの目当てです。

第10回目は「Put my best foot forward」についてです。直訳するとPut(置く)+my best foot(最も良い足)+forward(前に)により、「一番優れた足を前に出せ」という意味になってしまいます。

◆目次◆

・Put my best foot forward の意味
・右と左の話1~日本は左派~
・右と左の話1~英語圏は右派~
・この表現の使い方
・余談~右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ の本当の意味~
・関連表現~左という言葉の語源~
・第10回を記念して

人間、足は右足と左足しかないので、最良の足といえばどちらかの足になるはずです。筋肉がよりついている足ですか?さぁ、、何が最良を決めるのか、解き明かしていきましょう。

◆Put my best foot forwardの意味◆

この表現の意味は「全力を尽くす」「可能な限り良い印象を与えようとする」という意味です。

Bestな足、つまり左右の足のうちどちらかなのでBetterな足、を前に出すということは逆を言えば、悪い方の足は前に出さないことになります。

では、何が悪いかというと、縁起が悪いのです。

つまり、縁起の良い方の足を前に出せば、良い印象を与えることになりますし、良い印象を与えようと努めることは、人間関係を構築する上で全力をつくすべきマナーなのでそのような意味にもなったのでしょう。

ただ、問題は右と左、どちらの方が良いのか、これは国によって分かれるのでその辺りを見ていきましょう。

◆右と左の話1~日本は左派~◆

縁起の良し悪しの話になってくると、宗教の話は外せません。日本の主な宗教は神道なのですが、神道の場合「左」の方が右より神聖とされています。

その証拠に、神社の鳥居のくぐり方の作法として、
中央より左を通るべきで左足から踏み出すべき
というものがあります。(ぜひ皆さんも次回参拝する時に!)

左が神聖なのは日本神話から由来しており、イザナギノミコトという人が
左目を洗った時に、日本で最高神とされている天照大神が生まれたとされているからです。そうです、伊勢神宮の神様です。

神話は抜きにしても、左が神聖だというのは生命を司る心臓の位置を見れば分かります。

そう、左側ですよね。ですから左側のほうが神聖とされるのは生物学的にも納得が行くことです。

実際に、古代エジプトでも、同じ考えから左側のほうが神聖とされており、それは壁画にも見られます。生きている人の絵は左足を出しており、死んだ人の絵はそうではないようです。

◆右と左の話2~英語圏は右派~◆

ここでもまた宗教の話は外せません。

英語圏で圧倒的な宗教は、キリスト教です。聖書には、キリストは処刑されてから3日後に復活し、
「父の右側に座った」とされています。このことから右側=神聖というイメージが定着しました。

これにより、お祈りの時十字を宙に画く時必ず右手で十字を切ります。

もう謎が解けましたよね、Put my best foot forwardのbest footとはつまり
右足のことだったのです。

◆Put my best foot forward の使い方◆

とても単純です。「ベストを尽くせ!」という時に使ったら良いのです。

・You need to put your best foot forward in the interview.
 (面接でベストを尽くさなければならない!)

・ It’s important to put your best foot forward and never give up.
 (常にベストを尽くし諦めないことが重要です)

もしあなたがスポーツ選手や何かの大会に出た後なら、こんなコメントはかっこいい!
・Now my aim is to put my best foot forward for the next Olympics.
 (今、私の目標は次のオリンピックに向けてベストを尽くすことです)

◆余談~右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ 
    の本当の意味~◆

歴史の授業で勉強したことがあるかもしれません。
古代バビロニアの法律なら「目には目を、歯には歯を」。
キリスト教の教えなら「右の頬を殴られたら左の頬を差し出せ」。

この左の頬を差し出すことの本当の意味は、右=神聖・左=不浄に加え、
内側=神聖・外側=不浄 の意味を知っていると、とっても深いのです。

大体の人は右利きだと思うのですが、普通に殴ると相手の左頬に命中します。ところが、憎き相手の左頬(ケガレ)を自分の手のひら(神聖)で殴ることなどしたくありません。相手のケガレが自分の右手の平に感染してしまいます。

そこで、右手の甲の部分(ケガレ)で相手の右頬(あまりケガレてない)を殴る習慣がありました。俗に言う裏拳ですね。

もしここで相手が左の頬(ケガレ)を殴るように差し出してきたら?

憎き相手の左頬(ケガレ)を自分の手のひら(神聖)で殴って欲しいという申し出なのです。

これにより、殴る側は相手のケガレを自分の右手の手のひら(神聖)に受け止めなくてはなりません。

この段階で、「仲直り」が発生するのです。つまり、相手の悪いところを認めて受け入れるという意味になるのです。

全然英語と関係ないと思われるかもしれませんが、実はこのような米英人の意識の根底に流れる価値観を理解することは、異文化理解の礎ですので当然彼らの話す言語=英語の理解も早くなるのです。いくつか関連表現を見ていきましょう。

◆関連表現◆

・Right =右側
 (神聖なのは右側だから。)

・Right = 正しい
 (右利きが大多数、大多数が正しいという民主主義)

・Right = 権利
 (正しく善良なものには権利がある。囚人に自由の権利がないですね。)

・left = leaveの過去形、去った の意味
 (最後に残るのは悪質なもの)

◆日本語では?左という言葉の語源◆

冒頭でも書いたとおり、日本では左のほうが神聖な国です。

左の語源にはいくつか説が有るようですが、その中に面白いものが有るので1つ紹介します。

左と日照りは、なんとなく発音が似ている気がしませんか?

太陽が昇って午後の太陽になると日照りして、午前中の太陽よりも日差しが強くなります。

太陽=神、神の方角=左という意識が強い古代日本では、昼になると日照りの方角の力が増すと信じられていたので、左という言葉が生まれたのです。

◆10回を記念して◆

本連載も10回目ですが、読者の皆様は「英語ができる」とは単に「ペラペラ話せる」という意味ではないことを感じ始めている頃かもしれません。英語を話す人の意識の根底に流れるモノを理解してこそ「英語が話せる」のです。したがって、「とりあえず伝わりゃ何でもいい」という態度では英語ができるとはいえませんし、英語という形を取った無礼でしかありません。

真の外国語でのコミュニケーションとは、相手の文化の根底に流れるものと、自国の文化の根底に流れるもの、この2つをよく理解してからようやく達成されるものです。

それゆえ、英語に関心を持つ皆様は、是非英語そのものだけでなく、英語を話す人達の文化、そして我々のルーツである日本の文化にも同等の関心を持って頂けたらと思います。

これからも「物語のある英語」をよろしくおねがいします。

いつも記事を読んでいただきありがとうございます。英語学習に苦しんでいる方、つまらなそうに嫌々語学を学んでいる方が周りに居ましたら、シェアしていただければと思います。楽しく、深く、語学に取り組める人が1人でも増えたら幸いです。