【坂道SCP】第2話-何かいる-

同日、██県の旧██村。
ハイキングに来るにはあまりにも人気のない荒野に3人の少女の姿があった。
いずれも華奢な体に、これまたハイキングには似つかわしくない重装備を携えている。

「ねぇ彩~まだつかないのかな?」

最後方を歩く少女が不満げに口を開く。彼女の名前は岡本姫奈。
勉強の類はあまり得意ではないが、子供のころからバレエに打ち込んでおり、その実力は世界クラスだという。
バレエの道に進むという選択もあっただろうが、今は財団のフィールドエージェント見習いとして活動をしている。

「姫奈、文句いわない。あやだって疲れてるんだから。」

返事をするのはひときわ幼さの残る童顔の少女。名前を小川彩という。
同じく、財団のフィールドエージェント見習いとしてこの春から働き始めたばかりで、今日がはじめての実地活動になる。

「桜~あやが反抗期だ~」

姫奈はそういってけらけらと笑う。

「二人とも喧嘩しない、もう少しだよ」

そういって二人を窘めているのが、川崎桜。西洋人形のように可愛らしい顔をした少女だ。
年のころはほかの二人と大差ないが、フィギュアスケート仕込みの抜群の身体能力で、今回の調査のリーダーに抜擢された。
半ば遠足のようなテンションで3人の少女は目的地に向かう。

出発してから1時間以上は経ったころ、少し開けた空き地に目的の建物が見えてきた。

「あ、あれだ。」

先頭を歩く桜が小屋に気づく。

「やっとついた~。さっさと調べてこんなところから早く帰ろ!」

すでに姫奈は調査に飽き始めているようだ。

「駄目だよ姫奈、ちゃんと調べなきゃ。どんな危険があるかもわからないんだし。」

「あーやはえらいねぇ~。・・・ごめんごめんちゃんと調べるって。」

彩に冷たい目線を受けて、姫奈が言う。3人は少し離れた地点に荷物を降ろして、観測用の機器やカメラなどを準備していく。

彼女たちフィールドエージェントはこうして報告のあった地点に赴いて、何か異常がないかを調査・報告を行う。
もし、調査の結果、何か異変があれば速やかに本部に報告し、周囲の安全の確保や応援が車での現地の保全を行うのが仕事である。

「さて、準備もできたしさっそく行きますか。」

研修で学んだ通り、調査用の装備を身に着けると3人は小屋に近づいていく。

--対象は██県の旧██村に放置されていた、井戸小屋です。
小屋は木造で・・・大体幅が約5m、奥行き4mほどで平屋建てに見えます。

カメラを回しながら、先頭を歩く桜がレポートを行う。

--小屋の入り口が近づいてきました。
鉄製の鎖と複数の南京錠で施錠されていたようですが、古くなって壊れてしまっています。これなら侵入可能です。

3人は朽ち果てた南京錠が残るドアの前に立つ。

「それじゃあ、れっつごー」

姫奈が明るい声でドアに手をかけると、その手を彩にぱちんと叩かれる。

「こら!安全が確保できてない調査対象に入るときは固まって行動するのは危ないって研修で習ったでしょ。」

「わかってるって。」

ぶーぶーと声に出しながら姫奈が言う。まずはカメラを持つ桜が小屋の内部を確認することにする。
安全のために、彩と姫奈は一歩下がって様子を確認する。

扉の前まで来てみるが、何か生物がいるような物音は聞こえない。
そのまま警戒しつつ、ゆっくりと扉を開ける。日の光が入らない小屋の内部は昼間といえどかなり薄暗い。

ヘッドライトの電源を入れ、カメラ越しに小屋内部を確認する。
部屋の内部は外見同様の広さで、何か異常な空間が広がっている気配はない。周囲の安全を確認しながら一歩ずつ奥に進んでいく。

--中にすごく古い井戸が見えます。かなり古い時代に作られたと思われます。
中には・・・何もいません。事前報告では「何か」見たということでしたが、少なくとも攻撃的な生物などは見当たりません。

--中は井戸があるだけです。どうやら井戸小屋として使われていたみたいです。

以前はこのあたりにも人が住んでいたのだろうか。
少なくとも今ではこのあたりに人家はないし、打ち捨てられて相当な時間が経っているだろう。

--・・・井戸の内部を確認します。・・・かなり深いです。
視認できる範囲では底は見えません。改めて探査機で確認する必要がありそうです。

井戸にはふたなどはついておらず、ただただ無限に感じる暗闇がまっすぐに下につながっているだけだ。
探査用のヘッドライトの明かりではとてもそこが見通せそうにないので、ドローンを活用して内部を確認することにする。

「姫奈、探査機持ってきて。」

外で待つ姫奈に声をかけると、改めて小屋内部を確認する。
特に生き物が存在した痕跡や特殊なものはなく、ただただぽっかりと暗闇に続く井戸が口を開けているだけだ。

「はいよ~持ってくね。」

外から姫奈の能天気な声が聞こえてくる。

ちょっとおバカなところもあるけど、こういう時に姫奈の明るさは助かるな、と思う。

井戸の外からガサゴソと音がして、探査機を取り出したらしい姫奈の足音が近づいてくる。そして、ドアに手をかけた瞬間・・・

「きゃああああああああ!!!」

入口付近から、姫奈の激しく動揺した叫び声が響く。
あまりの叫び声にカメラを落としかける。桜は慌ててカメラを入口方向に向けると、ドアから一目散に逃げだす姫奈の後ろ姿と驚いた彩の顔が見える。

--アクシデントです、いったん脱出します!

できる限り冷静でいれるように努めて小屋から脱出すると、小屋から少し離れたところで頭を抱えてうずくまる姫奈の姿が見える。

慌てて姫奈のもとに駆け寄ると、激しく動揺している彼女を抱き寄せて声をかける。

「姫奈!?どうしたの!?」

幸い怪我などは負っていないようだが、動揺が激しい。呼吸が荒く、声は絶え絶えだ。

「な、なかに・・・」

姫奈はぶるぶると震えながら、声を振り絞る。
心配そうに顔をのぞき込む二人の顔も見ず、姫奈が言う。

「なかに、ねこが居た」

続く


【クリエイティブライセンスに基づく表示】
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元ネタ:SCP-040-JP by Ikr_4185
ソース:http://ja.scp-wiki.net/scp-040-jp

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