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quiqui「もう少しの暦」を紐解く 中編

改めて自分で前編を読み返してみて、内容の薄さ、無さに愕然としました。今回この記事を書くのにはかなりの時間と日数をかけているのですが、やはり専門的な知識が無いとただの感想文でしかないなと思いました。

というわけで中編を始めます。


紐解き3 一曲ずつ紐解く

1. あかなくに

アルバムの一曲目を飾るのは、フィールド・レコーディングをザッピングしたものと冷ややかで儚げなギターの旋律が聴く人を「日常」の迷宮に誘う曲です。まるでラジオのチャンネルを切り替えるかのような処理がなされています。最後に女性の「飛んでる時寒くないのかな?」という声だけがはっきり聴こえて、これがまずリスナーの引っかかる部分だと思います。どういう意図でこの言葉をフィーチャーしたのか。

この言葉は女性が飛んでる鳥を見て、鳥はいつも凄いスピードで飛んでるけど寒くないのかな、とふと疑問に思って発したものだと連想しました。あまり疑問に思う人が少ないようなことに着眼しているという点をクローズアップしているのかな、と。

さらに深読みすると、この鳥を"日常を忙しなく過ごしている現代人"として見立て、寒いを"痛覚"と置き換えると、"日常に忙殺されて感覚が麻痺していまっている現代人"の暗喩を込めたものとしても取れるなと思いました。女性の言葉を変換すると「そんなに忙しく日常を過ごしてて(飛んでる時)、つらくないのかな?(寒くないのかな?)」となります。

大切なことを見過ごしてしまう、自分の痛みや他者の痛みに気づいていても気づかないふりをしてしまうことありますよね。まずアルバム一曲目としてそういう現実を提示したのではないかなとも深読みできます。

アルバム発売時に3LAのチャンネルで公開されたビデオチャットの動画を観るとアルバム前半部についてメンバー(居原田氏/ba.vo.、モトキ氏/gt.vo.)自身が語っています。この「あかなくに」というタイトルの意味も語られています。

この動画の内容をほぼ忘れていたのですが、改めて見返してみると、「もう少しの暦」というタイトルについてとか、jazzについて、skramz jazzについてもメンバーの考えが語られていますね。このjazzについてのくだりが物凄く面白いので、アルバム関係なくそこだけでも観ると観る人の音楽観が刺激されるんじゃないかなと思います。居原田氏が「ジャズの聴き方は難しい」的な発言をしていて、「わかる〜ww」って共感する方も多いと思います。

そして、この動画を見返してみてメンバーが曲の意図をそれとなく語っているので、noteで私なりに解釈しようとしていることなど無意味なのかとも思いました。

が、社会性・政治性のある明確なメッセージがある場合を除き、このquiquiのアルバムのように抽象的なメッセージを含む作品の場合は、例え作者に明確な意図があって作品が作られたとしても、受け手が受け取ったものが答えだと思っています。なので、自分なりに作品を解釈する行為は無駄ではないんじゃないかなと思います。

2. Skramz Jazz

2曲目は粛々と刻まれるベース、ドラムのリズムにギターの繊細な爪弾きが乗っているとてもヘヴィーな曲です。曲名は「skramz jazz」と、最大の難問が付けられています。この曲を紐解けば自ずとskramz jazzも紐解けるはずですが、この曲がまた解釈の難しいものになっています。

どう聴いてもskramzにもjazzにも分類される曲ではありません。強いて言えば空気感はskramzなのかな、とは思いますが。

仮に、jazz skramzだったらまだ理解出来るのに、なぜskramz jazzにしているのか。jazzを含んだskramzではなく、skramzを含んだjazz。

この言葉については前編に書いたことと重複しますが、本当にまだ解釈・理解出来ていないので、メンバーにどういうことなのか訊いてしまいたい気持ちもあるのですが、そんな無粋なことはしたくないしので、いずれ自分なりに答えを出したいと思います。

3. exp

3曲目にしてようやくskramz(激情ハードコア)になりヴォーカルが入ってきますが、何度聴いてもこの出だしのモトキ氏のシャウトの凄まじさに鳥肌が立ちます。

この曲の歌詞は英語詞で自分なりに意訳したものを載せようかとも思いましたが、quiquiの歌詞は英語詞、日本語詞どちらでもほぼ独立した短文の羅列なので、意味は聴く人がそれぞれで解釈して感じとればいいものだと思います。無闇に方向づけしてしまうのは冒涜だと思うので載せるのはやめておきます。

この曲は紐解くというより、もうただただかっこ良さにやられます。この3ピースとは思えない音圧とバンド・アンサンブル。それぞれの楽器のアレンジも独特だしこの3人でしか鳴らし得ない音になっています。どうしたらこんなドラムアレンジを思いつくのか。曲のラストのシャウトの掛け合いは精神を持っていかれますね。音源でも凄まじいのですが、ライブではまたライブ特有の凄みが加わって、聴く人を喰らい尽くします。quiquiのライブはまじでヤバいです。エグいしエグられます。

4. ※(la quiete cover)

4曲目はイタリアの激情ハードコアバンド、ラ・クイエテのカヴァー。普通アルバムにカヴァーを入れるとしたら7曲目か8曲目に持ってきそうなものですが、4曲目に入っています。ただアルバムを通して聴いていると何の違和感もなく、むしろここに入れるしか考えられないくらいハマっています。曲の印象もアルバム全体の雰囲気を全く損なっていないし、むしろアクセントになっていますね。

このアルバムは本当に曲順がこれ以外考えられないくらい練りに練られています。シャッフル再生で聴くなど以ての外で、アルバム通して一曲と言ってもいいくらい纏まっている作品です。

5. mckc

9割日本語詞の5曲目。ただ、ほぼ叫ばれているので歌詞を聴き取るのはなかなか難しいと思います。個人的にこの冒頭部のウネりのあるギターの音はどうやって出しているんだろうということが凄く気になってます。

短い曲ですが、この曲の展開、構成が本当に美しくて大好きな曲です。どうでもいいことですが、私のLINEのBGMはずっとこの曲にしています。

タイトルのmckcとはどういう意味なのだろうとずっと考えていたのですが、ふと気づきました。「ああ、もうmckc」のmckcなのか、と。

6. Remind & 7. D

6曲目と続く7曲目がこのアルバムの重要な要素の一つを担っているのではないかなと感じます。もともと一つの曲だったかのように、流して聴いていると一曲に聴こえますね。このremindはタイトル通り「警告する」、続くDが何の頭文字かはわからないのですが、2曲並べて「警告する、Dがやってくるぞ」と言っているように感じます。

この「D」を何とするかが重要ですが、個人的にはRadioheadの「Hail to the Thief(盗人万歳)」のThiefのようなものだと解釈しました。

トムが当時インタビューで、「Hail to the Thief」の"シーフ"とは、村上春樹の小説「ねじまき鳥クロニクル」における人々の心を奪うエアーポケット(これの説明は難しいです。人を予期せぬ方向へ陥らせてしまうモノ。モノと言っても物質ではなく、その現象を指します。「神のこどもたちはみな踊る」のテーマにもなってますね。)を"シーフ"と擬人化して例えた、というようなことを言っていました。Radioheadファンなら誰もが知っていることですが、トムは捻くれているので、その悪い"シーフ"を万歳と讃えて「Hail to the Thief」というタイトルをつけたらしいです。

「人々の心を奪うもの」と物凄く簡単な言葉で説明しましたが、実際にはもっと複雑な人間から生まれてくる感情、人間を陥れてしまうモノを総体的に「D」と表現しているのではないかなと思いました。

なので、この6曲目と7曲目は「警告する、お前の心の隙を奪うものがやってくるぞ」と言っているように感じます。

中編の終わり​

またまたまたまたあまりにも長くなってしまったので、前・中・後の3部編成に変更しようと思います。素晴らしい作品を語るにはやはりそれなりの長さが必要だなと感じました。というか、語り足りません。他人のただただ長い感想を誰が読みたいと思うのかは分かりませんが、仮に他にこのようにquiquiについて書いている人がいるならば個人的には是非読みたいです。ということで、また書きます。お読み頂きありがとうございました。



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