第五夜 『燃焼体質』 / 満月連載 夢日記
ある満月の夜の、夢日記。
薄暗い工場の中、二人の男。
タバコに火をつけると、舌打ちを小さくして、男が口を開く。
「おい、ホムラ先輩のかっこよかったとこ、言い合おうぜ」
「はは、なんだよそりゃ。いつまでもここに居たってしょうがねえよ、もう帰ろうぜ」
「良いだろ、今日くらい。ホムラ先輩との別れの日なんだからさ」
「、、、まあな」
日が沈み、少しだけ肌寒くなった工場内は、所々に錆が目立つ。此処は彼らの溜まり場だった。
過去形になったのは、ホムラがこの世を去ったからではなく、それ以前のある事件がきっかけだ。
「やっぱあの1対20人以上の大乱闘騒ぎだよな。最高だったよ。たった一人でノしちまうんだもん。一瞬で落城。工場ゲットよ」
「確かにあれは痺れたなー。踊ってるようにしか見えなかったもんな」
「それに伝説の黒い炎だよなんと言っても。あんなの実際に使えるやつホムラ先輩しかいねえ。なんて熱量だって、足ぶるっちまってたわ。俺実はさ、全然先輩の動き見えなくてよ、ずっと2重に見えてたんだよ」
「はっそれを言うなら俺は3重に見えたぜ」
「ちげーねーわ」
男は、溜まった灰ごとタバコを放り投げると、小さな破裂音と共に焼けてなくなるのだった。
それをきっかけに、淀んだ沈黙が鳴る。
咲いたはずの花が急速に枯れていく。
この沈黙から逃げる為の、会話の花。
「、、、。ほんとに、こんなとこで終わって良いはずの人じゃなかったんだよ、絶対に」
「、、、。わかるよ。わかる。だけど、それは俺たちの勝手な希望だろ?結局それすらもホムラ先輩の選んだ道だったんだから」
属性社会。それは誰もがこの世界で縛られ続ける鎖だった。全ては産まれた属性で、労働環境、居住地、交際相手まで限定されてしまう、物理的な制約と言っても過言ではないものだった。
そう言った社会の中で、あのホムラの言い放った言葉は’事件’だった。
「しょうがねえだろ、惚れちまったもんは惚れちまったんだから」
その事件をきっかけにホムラをリーダーとして機能していた炎属性のグループは、あっけなく散り散りになった。
「まさかよ、よりによって水属性のやつなんか好きにならなくても、、、他の女なんかいくらでもいるじゃねえかホムラさんの炎量だったらいくら突っ張っててもまだまだ生きれたはずなんだ、太く長くって誰もが望む生き方を」
遺影となった写真に火をつけ、瓦礫に投げる。ぬらぬらと写真を炎が包んでいく。後輩からの弔いの灯り。
「いつかホムラ先輩の生き方を肯定できるようになるのかな」
「俺たちとは生きるスピードが違ったんだよ、何に命を燃やすか、その対象が違っただけだ」
遺影は瞬く間に灰になった。
満月連載 「夢日記」
夢は無縫
夢は奇怪
月が満ちる度紡がれる、奇妙な物語
写真 / 映像 / 音楽 / 美術 / メイク / 短編小説
様々なファクターが絡みあう、全SNS連動型連載
Twitter:https://twitter.com/ta_streetgothic
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YouTube:https://youtu.be/aLkCSECBl8Y
DOP / Editor:須藤しぐま
Hairmake : 小夏
Music : Toki(akubi Inc.)
Opening Movie : 大瀬良 匠(THINGS.)
Creative Director / Story:武瑠(akubi Inc.)
Produce : akubi Inc.
https://akubiinc.tokyo/
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