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いつの日か、逃げて逢おうね。

突然だが、私はReoNaという歌手が大好きだ。
「ハロー、アンハッピー」をスローガンに掲げる彼女は、「絶望系アニソンシンガー」としても名を知られている。SAO(ソードアート・オンライン)の劇中歌や多数のアニメ主題歌を担当しているので、もしかしたら知っている人も多いかもしれない。

彼女を知るきっかけになったのは、今から約3年前にリリースされた「ANIMA」という楽曲。

" 魂の色は 何色ですかー。"

力強いのに透明感が上乗せされたような繊細な歌声。ロックでアップテンポな曲からは想像できない可愛らしいルックス。本当に魂が揺さぶられるようだった。そこから発せられるハスキー掛かった声がいい意味でギャップを引き、PVから目が離せなかった。世界観が好みだったのもあって、その日から彼女の曲を少しずつ聴くようになった。

聴いていくうちに、曲調や優しい歌詞、寄り添うような歌い方、彼女が紡ぐ言葉、その全てが大好きになっていた。

そこで私はあることに気付く。彼女の曲は、生きることの辛さ、人生で絶望した瞬間、痛みへの共感、人間の弱さなど、まるで孤独を抱えている誰かに向けて歌っているような歌詞が多かった。そしてそれが私にはすごく刺さった。痛かったよね、辛かったよね、と背中を擦ってくれるような温もりで、貴方はそのままでいいんだよ、と包み込んでくれるようだった。こんな歌を届けてくれる歌手が居るんだと、どうしようもなく泣きたくなった。もちろんそうじゃない曲もたくさんある。ただこれは想像に過ぎないが、彼女にも今まで生きてきてそんな瞬間があったんだろうかと思わせるほど、どこまでも優しい声で隣に居てくれた。いつの間にかReoNaという歌手が私にとって「救い」の存在になっていた。


昨年初めて彼女のライブを一人で観に行った。まだコロナ禍が落ち着いていない時期だったので、座っての観賞だった。今思えば逆にそれが良かったのかもしれない。スマホから流れてくる音源そのまま、もしくはそれ以上の歌声と落ち着いた雰囲気で、優しく、力強く、圧倒的に歌う彼女のステージに終始魅了された。思っていたよりも小柄な印象で、2階席の観客まで一人ひとりに届けようと歌う姿が誇らしかった。たくさんの人に愛される理由がその全部に詰まっていた。曲紹介で自分の想いや過去の経験を添えながら話す彼女は、貴方の居場所はここに在るよと言ってくれているようだった。

「辛いことがあったら逃げてもいい。私もそうやって生きてきました。だから、逃げて、逃げて、いつかその先でまた逢おうね。」

彼女がライブの最後に言ってくれた言葉だ。これを聞いた時、自分の中で何かが報われた気がした。逃げる=悪だと思っていた過去が、間違っていなかったのかもしれないと思わせてくれた。逃げた先に彼女が、あの場を共有できた誰かが居てくれるなら、もう少し歩んでみようと。生きてきてよかったと思えた夜だった。


このライブを通して知った「Someday」という曲がある。

今では大好きな曲の一つだが、最初に聴いた時は衝撃だった。まるで過去の自分のことを歌っているかのような歌詞と、その暗さとは真逆な明るい曲調。ある女の子を通して語られる物語に、幼い頃に絶望したあの感覚が蘇る。次々と脳裏に浮かんでくる映像が一瞬フラッシュバックしたようだった。

" 悩みも辛さも誰にも話せないまま
 一人で死んでくんだって思ったの "

" なけなしの希望を握りしめて
 打ち明けた暴力と理不尽に
 大人から返ってきた言葉は
 「それも愛情なのよ」"

ただただ痛かった。緩やかなリズムで刻まれる重たい歌詞が、鉛のように心に響いた。同時に、何でこの辛さを知っているんだろうと思った。現状から逃げてたくて、だけど何処にも行くあてがない。助けてとも言えず、誰でもいいから誰かにわかってほしかった。だからひたすらに祈った。そうして僅かな希望に縋って打ち明けた大人から返ってきた言葉に、幼いながらに絶望したあの日。

それでも、だ。それでも、この曲の最後にはこんなフレーズがある。

" Someday 逃げて逢おうね "

いつの日か、逃げて逢おうね。
ライブでも彼女が言ってくれたこの言葉。逃げた先では、きっと独りじゃないよ。そんな風に聞こえた。この一言を聴くたびに、私は救われる。いつまでも自分が被害者ヅラしたい訳じゃないし、過去の傷が癒えることもない。ただ幼かった頃の自分に、お歌という形で寄り添って、わかってくれる人がきっと居るよ、と伝えたい。


彼女の曲は、無理に前を向かず、手を差し伸べず、そっと隣に居てくれるような安心感がある。それがきっと彼女の優しさであり、私はそれがとても心地良い。

人の痛みに寄り添うのは、並大抵のことじゃない筈だ。それでもこうして彼女が歌を届けてくれることで、「ReoNa」という存在が居てくれることで、これからも私は生きて行けるんだと思う。
大袈裟じゃなく、本当に。

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