NHK俳句5月号「春塵」

佳作より気になった句

春塵や屑籠にある詩のかけら 天陽ゆう

中七下五が魅力的。なかなかこういうことをすらっと書くのは難しい。「塵」が「屑籠」、「春」が「詩のかけら」にそれぞれ呼応している。


春塵を駆け出す猫の大乳房 麻木ちゑ

「大乳房」と体の部位をピンポイントにした動き方に惹かれる。「駆け出す」という複合動詞と「大」の字が一句に勢いを与えている。


銭湯の偽の植木や春の塵 村上惠子

銭湯の隅に置いてある観葉植物を初めは本物の植物と思っていたのが、近づいてみるとプラスチック製だと気づく(①)。更にその偽物の葉っぱを触ったときに葉っぱに積もっている塵に気づく(②)、更にそれを「春の塵」と捉える(③)という、三段階の気づきが多重構造になっている。モチーフ自体も親近感、説得力があり眩しい。


犬を拭き犬小屋を拭き春の塵 樋園和仁

まず春塵にまみれた犬を拭き、その後更に春塵の積もった犬小屋を拭く、という一連の行為に動きがあって上手いなぁと思う。


最後に拙句を。

春塵降る虎の咆哮として降る 伊藤映雪

「春塵降る」は上五字余り。これを仮に「春塵は」などとすると、句全体の迫力が削がれてしまうなと自分で思った。「しゅんじん」という漢語の硬い響きと「虎の咆哮」の迫力、それから「降る」のリフレインによる語勢が良かったのだろうなぁと。
「春」という季節そのものが持つ明るさと物憂げさ。春塵の降る天に向かって吼える囚われの虎というのも哀愁を誘っているのかな、と考えてみた。
特選の連絡が来るまでこの句のことを忘れていたので、他人の句のような感じです。
この句をご縁として、4月より南風俳句会に入会しました。この句を越えるような句を作れるだろうか、と少し不安ですが、結社のみなさんからの刺激を受けて何か少しでも掴めるものがあればと思っています。

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