夢 【前編】

友人たちが続々と社会人になっていく。しかし私はまだ学生生活を続けることにした。

私の小さい頃からの夢、ただ漠然とした夢。「研究者になりたい」

小学校低学年くらいのときはざっくりと自分は将来研究者になるもんだと思っていた。具体的にどんな研究者?なんの研究者?物理屋、化屋、生物屋、地学屋、天体屋、etc. エジソンはすごいとは思うけど発明家になりたいとは思わなかった。化学式と実際の物質を見比べたときに、この化学式の分子の集合体がこの物質なんだよとはとても信じられなかった。石ころを見て、山を見てそこから太古の昔に遡ったり、夜空を眺めて何億光年も先に未知なる生命体がいるかもと想いを馳せることには少しばかりのロマンを感じたけど、生涯かけてやりたいとは思わなかった。だけど、身近にあふれるいろんな生物がどうして生きているのかには興味が持てた。だから中学に入ったあたりで「生物学系の研究者になりたい」と少し夢の範囲を狭めた。

”生物系”と聞いてパッと思いつくのは「動物系?植物系?」という問い。まぁ他にも五界説で言えば原核生物界、原生生物界、菌界もいるのだけど、いきなりそちらに話を切り出すひとも珍しいだろうて。私は小学生のときから中学、高校にかけてフナ、カエル、ブタの眼球、鶏の脳ミソなどの解剖をしてきてそれはそれで楽しかったのと同時に、意思疎通のほとんどとれない生物と対話するのは苦手かもしれないと思っていた。一方植物は、もはや意思疎通どうのというレベルではなかったが、固着性生物でありながら他の生物が生きるのに苦しむような環境下でも生き抜けるのはすごいと思ったし、どうやって生き抜いているのかについても若干の興味があった。まぁ正直大学に入るまで動物系でも植物系でも、どっちに行っても楽しそうだなと思っていた。

そして一年の浪人期間を経て大学に入学した。勉強が足りなかったとしか言いようがないが、農学部入学を目指していたが届かず水産学部に入学した。うちの大学の水産学部には大きく分けて4つの学科があり、大きな生物系、小さな生物系、化学系、物理・経済など系である。大きな生物系と小さな生物系の違いは、決して対象となる生物の個体の大きさというわけではなく、一つの生物を「一個体」以上のスケールで見るか、「一個体」以下のスケールで見るかの違いである。前者は、例えば研究対象がサケだとして「そのサケがいままでどのように成長してきたのか」や「そのサケはどういう群れを作るのか」的なことをやっている (のだと思う、自分の学科じゃないからよくわからない)。後者は「サケが成熟して卵を作るときには、どんなホルモンが働いているのか」、「この遺伝子を不活化したらサケにどのような影響をもたらすのか」など、個体ひいては細胞、遺伝子レベルでの話をしている。前述のとおり私は小さいほうの生物系を選んだ。そして三年生の冬、研究室選択の時期がやってきた。

私はもともと「魚が好きだから水産学部に来た」というタイプではなかったから魚を扱う研究室にどうしても行きたいということはなかった。むしろ魚臭が苦手だったので、魚以外を扱う研究室に行きたかった。そうなると選択肢は①海藻、②微生物、③魚病 の3つしかなかった。しかし③魚病は言っても魚の病気を扱うので、魚を研究対象としていないものの魚は扱わなければならない。そこで二択になった。微生物研は人気があった。私の大学一、二年生の成績はオスプレイ並みの低空飛行、たまに (オスプレイがドアを落下させるように) 落単あり という状況だったので、とても研究室配属で評定平均の殴り合いをして生き残れる見込みがなく、海藻研にした。海藻研も2つ (厳密には3つ) の研究室に分かれており、⑴「ノリのストレス耐性や植物ホルモンに対する応答」を調べる研究室、⑵「ノリの成熟に関する遺伝子発現やアミノ酸処理」について調べる研究室、⑶「コンブを含む茶色の海藻 (褐藻) を扱う研究」を行う研究室。「⑵は⑶の傘下の研究室である」という表現が正しいのかは」知らないが、先生は分かれているが一つの研究室であるため、大きく分けて⑴と、⑵と⑶の研究室の二択となった。その研究室決定の段階で、褐藻にも成熟にも興味が湧かなかったので⑴の研究室にした。



長くなってしまったので、この文章を【前編】として続きは【後編】に回すこととするが、結果的に言うと⑴の研究室にした選択は失敗だったんじゃないかと思う。そして、なんやかんやあった結果、この春から⑶の研究室に移ることとなった。

以上、昔を振り返ったら疲れたので、【後編】へ続く。

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