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刃物:銃刀法とナイフの何やかんや。

よく来たな。おれはslaughtercult、しがない物書きワナビーだ。

【前回】

詳しい経緯は全部ここに書いてある。まだ読んでなくて、刃物に興味のある真の男や女は、読めば面白いかも知れぬ(後半は殆どおれの愚痴だが)。

ところで、おれは深夜テンションで上の記事を投稿して、ある大事なことに気が付いてしまった。

「SHIT……Guns & Swords Restricted Law……銃刀法の話をし忘れた……」

官憲への愚痴に終始すれば片手落ち、これは記事として重大な欠陥である。今一度おれは、このナイフ談義の肝である『銃刀法』に立ち戻ろうと思う。


『銃砲刀剣類所持等規制法』って何だ?

おれは法律のプロではない、ただの一般人だ。そのため、詳細を掘り下げてくどくど説明はしない。興味のあるヤツは、下のリンクから条文を読め。

銃砲刀剣類所持等取締法
(昭和三十三年法律第六号)
施行日: 平成三十一年四月一日
最終更新: 令和二年六月十二日公布(令和二年法律第五十二号)改正 

日本国における銃刀法……正式名称『銃砲刀剣類所持等取締法』というのを大雑把にまとめて説明すると、こうなる。

日本での武器類(銃砲、および刀剣類)の所持を、例外を除いて禁止する。
例外1.職務のための所持(自衛隊、警察ほか特殊な公務員)
例外2.狩猟のための所持(猟師 ※猟銃所持)
例外3.試験・研究のための所持(国・地方公共団体の研究職員のみ)
例外4.技能検定のための所持(射撃指導員、射撃場管理者ほか)
例外5.競技のための所持(競技者 ※競技銃所持)
例外6.製造、委託保管、輸出のための所持(製造者、流通業者)
例外7.人命救助、動物麻酔、と殺又は漁業、建設業ほか産業のための所持
(救命索発射銃、信号銃、麻酔銃、屠殺銃、銛撃ち銃、鋲打ち銃、その他の産業の用途に供するため必要な銃砲。これらの所持には許可が必要だ)
例外8.祭礼、演劇、舞踊その他の芸能の公演のための所持
社会風俗上やむを得ない場合の但し書き付き。自衛隊の祭礼などか?)
例外9.博覧会・博物館の展示物として講習の観覧に供するための所持

銃砲に関する規制の多さが目に付くな。武器というのは、古より射程の長い物が強いという絶対的な原則があるので、刃物より銃砲の規制が厳しいのも頷けよう。今回の話題は刃物ゆえ、銃砲の話はこれ以上は掘り下げない。

ともかく、どこかの『市民が武装する権利を保障した』合衆国とは異なり、日本では一般人が武器を所持することは”基本的に”禁じられている。

この”基本的に”という但し書きが、この法律のミソだ。日本刀はその例外の最たる例だ。正確には『古美術刀』と言うべきだ。PROの鑑定士が鑑定した日本刀は、許可証という首輪を付けられ、一般人が所有することができる。

古美術刀とは婉曲表現であり、法によるお墨付きだ。どう言い訳しても刀は刀であり、殺傷能力を有した立派な武器に違いはない。しかし、我が国には神社の奉納刀はじめ、至る所に刀が存在し、それら全てを一律に武器として認定し、溶鉱炉に投げ込んでしまうのは、歴史的損失になり得るわけだ。

武器が歴史的価値を持ち得るかには議論の余地があるが、少なくとも現代の日本では、我が国で古代に作られた刀剣を、歴史的価値を持つ美術品として保護し、一般人がそれを保有して鑑賞することに法的な許可を与えている。

法の柔軟性というやつか。理論の飛躍を感じられないでもないが、それでも日本中の刀が溶鉱炉送りになるよりはマシだ。知らないヤツも多いだろうが銃砲にも『古式銃』といって、鑑定書が付けられた美術品が存在する。

古式銃はキャップ&ボールという、黒色火薬と弾頭、雷管を別々に装填する銃砲までが、美術品として認められている。因みに古式銃は拳銃であっても所持が可能だ。黒色火薬でも銃であり、人を撃てば死ぬ。当たり前だが。

すまない、話が脱線し過ぎたな。

今回の話題がナイフ……刃物であることについて、念を押しておこう。

目の前に刃物があるとする。おれたちはそれをを手にする時、避けられない一つの問題に直面する。その刃物は銃刀法で規制される刀剣ではないか?

とはいえ、刃物と見れば矢鱈めったら『刀剣』扱いされるわけではないから心配するな。銃刀法では、刀剣の判断基準が厳格に定められている。

銃砲刀剣類所持等取締法 第二条(定義)第一項の2

『この法律において「刀剣類」とは、
1.刃渡り十五センチメートル以上の刀やり及びなぎなた
2.刃渡り五・五センチメートル以上の剣
3.あいくち
並びに
4.四十五度以上に自動的に開刃する装置を有する飛出しナイフ
(刃渡り五・五センチメートル以下の飛出しナイフで、
開刃した刃体をさやと直線に固定させる装置を有せず、
刃先が直線であつてみねの先端部が丸みを帯び、かつ、
みねの上における切先から直線で一センチメートルの点と切先とを結ぶ線が刃先の線に対して六十度以上の角度で交わるものを除く。)
をいう。』

おれの判断による改行、背番号の付加、太文字を除き、本文そのままだ。

法律の性ではあるが、分かり辛いな。R.A.W. な条文だけでは想像が難しいとおれは考えた。今回は、とある狩猟系ブロガーの方に許可を頂き、銃刀法に関する画像を転載させてもらうことにした。著作権は大事だからな。

:SPECIAL THANKS:
狩猟系ブログ『吾輩はプアである。』管理人 spinicker
・大日本猟友会の刃物規制に関する啓発資料、そのスキャン画像 2点
以上の掲載許可を快く賜り、感謝申し上げます。

【資料その1】

画像1

【資料その2】

画像2

上記の画像は https://www.boy-meets-meats.com/ より転載しています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

これは大日本猟友会が発行した文書だという。つまり猟師の為の資料というわけだ。猟師は獲物の止め差しや解体など、刃物を必要とする職種の一つであるため、合法的な刃物携帯を啓発することは理に適っていると言える。

念のために言っておくが、このガイドラインは大日本猟友会の定めた概要に過ぎず、内容が絶対的に正しいことを保証するものではない。自分の刃物が銃刀法で規制されるかどうか心配なヤツは、公安委員会に直で相談しろ。

断りを入れたところで、資料の2枚目・別紙①を見て欲しい。読んだヤツがよほどのあほでなければ、どんな刃物が武器に当たるか理解できよう。


なお、書面はあくまでも概要であって、内容が絶対に正しいことを保証するものではありません。ご自身の所有する刃物が、銃刀法で規制される刀剣に該当するかどうかお悩みの方は、最寄りの公安委員会に相談しましょう。

この記載を読んでいただければ、おれが個人輸入したスローイングナイフを『刀剣』と宣った、某税関担当者の発言がいかに無茶苦茶か分かるはずだ。


刃物を規制する法律、それにまつわる混乱

余談ながら、おれはこの記事を書きながら少し混乱している。それはつまり銃刀法において『銃剣』を規制する条文が存在しなかったことだ。

Chill down……おれは冷静になり、ネットを検索し、そして理解した。

結論を先に言えば、銃刀法としては銃剣を直接規制する条文は無い。刃物の構造上、槍もしくは剣に類する刃物として判断される、とおれは推測する。

銃剣の所持が即ち違法、ということにはならない(銃刀法における刀剣には該当しない範囲においてだが)。しかし銃剣を規制する法律は他にある。

銃剣については『武器等製造法』及び『武器等製造法施行令』という別種の法律によって、製造販売を規制される『武器』と規定されているようだ。

武器等製造法
(昭和二十八年法律第百四十五号)
施行日: 令和元年九月十四日
最終更新: 令和元年六月十四日公布(令和元年法律第三十七号)改正
武器等製造法 第二条(定義)

第二条 この法律において「武器」とは、次に掲げる物をいう。
一 銃砲(略)
二 銃砲弾(略)
三 爆発物(略)
四 爆発物を投下し、又は発射する機械器具であつて、政令で定めるもの
五 前各号に掲げる物に類する機械器具であつて、政令で定めるもの
六 専ら前各号に掲げる物に使用される部品であつて、政令で定めるもの

括弧内の省略、太文字はおれの判断による。第二条第一項第五号の記述では「……に類する機械器具であって、政令で定めるもの」とあるが、そもそも政令って何だ? その答えが、前述の武器等製造法施行令である。

武器等製造法施行令
(昭和二十八年政令第百九十八号)
施行日: 令和元年十二月十六日
最終更新: 令和元年十二月十三日公布(令和元年政令第百八十三号)改正
第二条 法(ここで言う法は、武器等製造法)第二条第一項第五号の政令で定める機械器具は、左の通りとする。
一 銃剣
二 火”えん”発射機
三 銃砲を”とう”載する構造を有する装甲車両であつて、無限軌道装置により走行するもの

括弧書きの注釈、” ”の強調表示(条文では傍点での強調)、太文字はおれの判断による。この法律で武器と見做された物は、初めに言ったように製造と販売が規制される。それを行うために特別な許可が必要というわけだな。

製造はともかく、販売はもう少し詳しく掘り下げよう。ここで言う販売とは売る側だけの話ではない。買う、場合によっては外国から、つまり輸入する行為であっても、武器扱いされれば武器等製造法で規制されるわけだ。

武器等製造法の各種許可申請を担うのは、経済産業大臣だ。武器の輸入には申請書が必須であり、それを提出し、審査するのは経済産業省である。

おれが危うくお世話になりかけたフォーマットだ。これを管理運営している団体が『経済産業省 貿易経済協力局 貿易管理部 貿易審査課』である。

このやけに冗長な様式は、税関が指定する輸入統計品目表実行関税率表と呼ばれるもので、単に『関税率表』ともいう。武器類は第19部第93類として単一の分類で分離独立していて、関税率表の中でも異彩を放っている。

いいか。ここで言う武器は、戦車やミサイルといった、お前たちが想像するいかにもな物ばかりではない。外国から合法的に輸入する銃砲(言うまでも無いが、日本で流通する銃の大多数は外国産だ)、銛撃ち銃や麻酔銃などの産業用銃器やその部品、そして今回の話題である刃物(刀剣類)である。

補足すると、経済産業大臣は『外国為替及び外国貿易法』第五十四条で、

経済産業大臣は、政令で定めるところにより、その所掌に属する貨物の輸出又は輸入に関し、税関長を指揮監督する。

と規定されている。因みに税関のボスは財務省であり、ここで経済産業省と省庁を横断する繋がりが発生している。現場で動くのは税関、その税関長を監督し許可申請の業務を担当するのは経済産業省、こういう住み分けだ。

ここまで説明してきて、ようやく冒頭の、おれ個人の体験談に戻るわけだ。


刃物を国外から輸入しようとした場合、どうなる?

面倒くさいから、大雑把にまとめて書くとする。

1.刃物が武器に該当するか判断するのは、公安委員会。
2.輸出入の現場で、武器に該当するか判断するのは、税関。
3.武器に該当する刃物の書類手続きを行うのは、経済産業省。
(1の根拠法は銃刀法、2と3は銃刀法+武器等製造法)

おれたちは、国外から輸入する物品が国内法に違反していないか、精査して持ち込むわけだ。ここでいう国内法は銃刀法と武器等製造法だ。

おれのスローイングナイフは、全長24cmで刃体の長さ2.5cm(実測値)。

銃刀法における剣とは『刃体の長さ5.5cm以上』で左右均等な形かつ諸刃の刃物であるから、おれのスローイングナイフは剣には該当しないはずだ。

ここまで辛抱強く本文を読んだ、真の男と女には改めて言うまでも無い。
スローイングナイフそのものを規制する法律はどこにも存在しないのだ。
銃刀法にも、武器等製造法にも、ついでに言えば外為法にも。

おれは真の男なので、こうして法の条文に照らし合わせ、違法な刀剣でないことを確認して輸入したはずなのに……税関で物言いをつけられたわけだ。

敢えて言うなら、おれにも落ち度はある。公安委員会と税関に、事前に確認しなかったことだ。経済産業省にも確認できれば完璧だが、そもそもおれはこの厄介事に巻き込まれるまで、経済産業省が税関業務に絡んでいるということ自体を知らなかった。思わぬことが勉強に繋がるものだな。

おれたちの法解釈と、役所の法解釈は必ずしも一致しない。基本的に役所の法解釈が、強引であっても優先されるのが通例だが、おれが遭遇したような明らかに役所の職権濫用が著しい場合、役所側の判断が覆ることもある。

はっきり言ってダメ元の抵抗だったので、おれは本当に運が良かった。
それと同時に、税関の匙加減でどうにでもなるという怖さも実感したが。

輸入を請け負った輸送業者が、税関のありがたいお言葉を伝えてくれた。
「経済産業省の合法判断により、今回は特例として通関を許可します……」
負け惜しみにしては随分と偉そうだが、役所というのはこういうものか。


どんな刃物が違法になり得るのか?

むつかしい話はこの辺にして、分かりやすい実例で例えていきたいと思う。冒頭に掲載した画像、別紙①『刃物に関する規制について』の内容に沿って話をしていこう。槍とか薙刀とか、明らかに武器である刃物は省くぞ。


例1.昭和軍刀(武器扱い)

日本刀は言うまでも無いので詳述しないが、念のため『昭和軍刀』のことは補足しよう。昭和軍刀は大日本帝国時代、軍刀として製造された刀剣だ。

昭和軍刀は伝統的な日本刀の製法によらない、現代的かつ効率的な製造法によって製作されており、この辺の経緯は調べてみると中々興味深いぞ。

昭和軍刀は、現代の伝統的刀鍛冶職人からは恥辱の眼差しで見られている。おれは刀剣史自体に興味があるため、昭和軍刀も面白いと考えているが。

私見を言えば、現代の日本刀界の『折り返し鍛造至上主義』はカルトじみているし、古代の日本刀の『無垢鍛え』は、もっと見直されてもいいと思う。

ともかく昭和軍刀は銃刀法で『刀剣』と見做され、所持は禁止されている。

もっと厳密に言うなら、戦後間もない時期の昭和軍刀は、一代限りで所持が認められた特例もあるようだが、現代のおれたちには無関係な話だ。

そんなワケで、現代的な製法で製造された刀(日本刀含む)は、問答無用で武器の仲間入りというわけだ。日本国内での話ではあるが。


例2.タントー(物による)

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画像は https://www.coldsteel.com/ より転載しています。
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Cold SteelRECON TANTO』。刃渡り7インチ(17.8センチ)。刃の先端が僅かに反っているのが分かるだろうか。これは刀と言えるだろうか?

銃刀法における刀の判断基準は、刃渡り15センチ以上の片刃の刃物である。刃体が15センチ以上の長さであれば即ち刀……とはならないが、その場合は刃物がどういう形状、見た目をしているかが大事なポイントになってくる。

おれは上記のタントーが、刀と見做される可能性はあると思う。姉妹商品の『MAGNUM TANTO』などは独立した鍔を持ち、見た目が脇差そのものだ。

おれは、タントー即ち刀=規制される武器という短絡的な話はしていない。

これはタントーに限った話ではないが、刃体が反っている……鎌や鉈みたく刃先(内側)にではなく、刀みたく峰(外側)に切っ先が反っているような刃物は気を付けた方がいい。刃体が真っ直ぐの刃物を買うのが無難だ。

タントー……刃体が一直線……ストラ……イティラウ……何でもない、忘れろ。

確たるソースのある話では無いが、どうやら刀と認定される刃物は、刃体の反りが関係しているという話を見たことがある。切っ先の反りが突いた時の殺傷力を挙げるのだとか、併記されていた眉唾理論は鵜呑みにはできんが。

刀の反りが、引き切る構造の追求であることは言うまでもない。サーベルやシャムシールなどを見てみろ。あんな湾曲した切っ先で突けるか? 波刃の短剣や長剣、クリスやフランベルジュは突きの殺傷力増加を明確に意識しているが、ああいうのだって切っ先(ポイント)は鋭く尖っているものだ。


例3.ボウイナイフ/ランボーナイフ(物による)

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Randall Made KnivesModel 12 - Smithsonian Bowie』。刃渡り11インチ(27.9センチ)。昔懐かしい風情のボウイナイフ。これはどうだろう?

少なくとも刃体は反っておらず、柄から切っ先まで一直線の構造だ。しかしこのナイフの構造的問題はそこではない。刃の反対側、峰や背と呼ぶ部位が刃付けされ(… The top cutting edge is sharpened …)半両刃になっている。

タントーの項目でも指摘したが、これはボウイナイフ(やその類型、或いはランボーナイフのレプリカ)が即ち違法という話ではない。短絡的に結論を出したがるあほは、茶でも一杯飲んで深呼吸しろ。頭を使って考えろ。

いいか。半両刃構造のナイフは、刃体の両刃となっている部分が、銃刀法で規制される長さ(5.5センチ)未満であれば、問題はない。だがこのナイフは峰の刃が4.75インチ(約12センチ)ゆえ、剣と見做される可能性は高い。

刃付けされてなければ問題ない、なる主張も一部あるが、おれはその論調を支持しない。刃がついているかどうかが問題なのではなく、容易に刃付けが出来るかそれ自体が問題だという情報もあり、おれをそちらを支持する。

要は切れなきゃいいんだから、峰に鋸刃はいいのでは? それは悪くないとおれも思う。峰を先細りさせて、刃のように尖らせてなければな。とはいえ公安委員会が同じ判断をするかは別だ。迷ったらプロに聞くのが一番だ。


例4.あいくち/匕首(武器扱い)

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Katanas For Sale1060 Carbon Steel Pocket Bamboo wood Tanto』。
刃渡り13センチ。清々しいまでに匕首……規制される刀剣だ。匕首と言えばヤの付く自由業の方々のアイコン、銃刀法では問答無用で武器扱いだ。

古美術刀なら匕首があるのか? と思い検索をかけたら、数は少ないものの匕首拵えの短刀も僅かばかり存在するようだ。やはり古美術刀は、銃刀法のサンクチュアリと言えるかも知れぬ。金持ちでなきゃ『養えない』がな。


例5.切り出し小刀/切り出しナイフ(規制なし)

義春刃物株式会社 ペナント切り出しナイフ(朴材二層鋼・先鋭)

画像は http://yoshiharu-h.xsrv.jp/ より転載されています。
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義春刃物株式会社ペナント切出ナイフ(朴材二層鋼)』。刃渡り不明。
匕首みたいな見た目と言うことで、切り出しナイフをピックアップした。
勿論、ジョークだぞ。この手の小刀は完全に合法で所持に何ら問題はない。

おれたちの世代までは学校の木工セットにこんな小刀が入っていた。こんな上等な白木の鞘じゃなく、緑の安っぽいプラスチッキーな拵えだったがな。

日本における切り出し、或いは包丁(日本的なキッチンナイフ)を語る場合ややこしいのは、この手の刃物が『片刃』かつ『片刃』ということだ。

どういう意味か分かるか。片刃と両刃(諸刃)の間には、違う二つの意味が混在している。刃物というのは、極端に薄い直方体の、最も薄い辺を研いで刃をつける。片刃と両刃は、普通この直方体の、長辺の『左右』のどちらか片方、或いは両方に刃付けする……という考え方だ。刀と剣の違いだな。

素浪汰 狩人 片刃両刃解説1

それとは別に、刃付けする薄い辺を挟んだ前後の面を表裏と定義し、表裏の片面のみに刃を付ける研ぎ方が存在する。これが片刃で、両刃は無論のこと表裏の両面に刃を付ける研ぎ方だ。この類の刃物は必ず峰を持っている。

素浪汰 狩人 片刃両刃解説2

包丁や切り出しで言う『片刃』は、この後者の『片刃』だぞ。斧や鉈などは『両刃』ではないか。鉋や鑿などは片刃の印象があるな。因みにだが、鋸は変則的な両刃と言えるだろう。鋸の刃の構造は理に適っていて面白いぞ。

西洋は包丁や小刀から刀剣に至るまで、後者の『両刃』がメインだと聞く。それは当然、話題のナイフ、おれのスローイングナイフも例外ではない。

つまるところ、おれが言うところの『片刃で片刃』は、本来は直方体である刃物の鋼材を俯瞰し、長方形と仮定した場合、四つの角の一つだけ研がれた刃物ということだ。『片刃の両刃』なら四つ角の二つ、『両刃の両刃』なら四つ角の全てが研がれた刃物、と言えるだろう。わかるよな。

ところで、おれは刃物の専門家ではないので、片刃と両刃(後者の意味)がなぜそうなっているかの解説まではしない。日本では『片刃&片刃』がなぜこれほど広まっているかは、歴史的な経緯など色々とあるようだ。

切り出しナイフの話に戻ると、鉋や鑿と同様の片刃構造であるが、刃付けが鋼材の前後でなく上下に、並行ではなく斜めに刃付けされた、実に特徴的な姿をしている。海外でも珍しい構造なのか『Katana』や『Shuriken』同様に『Kiridashi』と呼ばれ、翻訳不能な独特の刃物として扱われているようだ。


例6.バヨネット/銃剣(武器扱い)

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IMBELFacas de Campanha AMZ (FC-AMZ)』。刃渡り24.7センチ。名称はキャンペーン(戦闘用)ナイフであり、切っ先の両刃構造も殆ど無視できる長さだ。明らかに剣ではないし、通常のナイフを逸脱する外見でもない。

しかし、このナイフは着剣装置(鍔の円形の固定穴、柄の尾部の固定具)を有する銃剣である時点で問題外と言える。日本では問答無用で武器なのだ。

この銃剣はブラジル軍の現用品だが、市場には軍放出品の旧型の銃剣たちがお値打ち価格で取引されている。現代よりも銃刀法や武器等製造法の規制が緩かったであろう数十年前に、その手の物を買えたヤツも居るかも知れぬ。

銃剣の法規制の問題点としては、銃刀法で(武器と見做されない構造である限りは)銃剣の単純所持が禁じられていない点だ。何らかの方法で入手して所有を既成事実化した銃剣を、銃刀法違反で没収できるかは微妙である。

とはいえ、入手する『何らかの方法』とは、一般的に売買や譲渡を意味する行為であり、入手ルートがバレれば武器等製造法違反となりTHE ENDだ。

お前が賢明な真の男・女であれば、ここまで説明して銃剣を個人輸入しようなどと考えはしないだろうが、もし考えているならば絶対にやめておけ。


例7.剣鉈/ナガサ(規制なし)

西根打刃物製作所 叉鬼山刀

画像は https://matagi-nagasa.jp/ より転載しています。
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西根打刃物製作所叉鬼山刀』。”叉鬼山刀”と”フクロナガサ”はこの会社が登録した商標らしい。秋田の鍛冶屋が、島根の安来鋼で鍛造した剣鉈だ。
刃渡りは4寸5分~9寸5分(13.6センチ~28.8センチ)と、長短が色々ある。

構造的にも、片刃で峰には刃を持たず、山刀と名前にはあるが、実際的には鉈であり、銃刀法で規制される要素は何ら持っていない。銃剣からの流れでナガサになっただけだ。この鉈というのは銃刀法の聖域の一つと言える。

叉鬼山刀の特徴としては、単純に剣鉈として用いる他に、袋状に成型された金属の柄に、木の棒を差し込んで目釘を打ち、槍としても使えることだ。

余談だが、この柄に棒を差し込む構造、ブリテンのL85系ライフルで用いるL3A1銃剣に滅茶苦茶よく似ている。現代の銃剣というのは、柄や鍔の外縁の着剣装置を銃身に通すが、L3A1は柄に銃口ごと差し込む変わった構造だ。

脱線してすまない。こうして槍としたナガサは、熊など猛獣と出会った時の緊急回避に用いたり、罠にかかったり半矢(致命傷でない手負い)となった動物を介錯する、いわゆる『止め差し』を安全に行うために用いるようだ。


例8.マチェット(規制なし)

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画像は https://ontarioknife.com/ より転載しています。
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Ontario Knife Co.1-18" Sawback』。刃渡り18インチ(約46センチ)。
みんな大好きマチェットだな。これはアメリカ軍の官給品の同型品。刀剣と言えなくもない形だが、マチェットもまた山刀、鉈の一種であり、刃渡りが15センチを超えるからと言って、一律に刀と見做されるわけではない。

マチェットは(いやマチェット”も”)物によって鋼材の厚みがピンキリだ。ペラペラにしなるマチェットを、動画で見たことがあるヤツもいるだろう。

草刈り鎌の代用にするヤツなどは、分厚く重くても日常作業がしんどいので薄刃に仕上げてあるのだろう。逆にココナッツを割るようなヤツはある程度分厚く頑丈でなきゃダメだ。山で藪漕ぎするヤツが、マチェットを買ってもペラペラで枝打ちもできないとなればお笑い種だ。物を良く見定めよう。

余談だが、マチェットは箱出しで刃付けされていない物がまま見受けられるようだ。作業用で買うヤツは気を付けた方がいいぞ。或いは自分で研ぐか。


例9.ククリ(規制なし)

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画像は https://www.thekhukurihouse.com/ より転載しています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

khukuri houseBSI Service No.1』。刃渡り10.5インチ(約27センチ)。
ククリだ。魔法陣グルグルではないぞ。ブリテン軍のグルカ人連隊が用いる官給ナイフの同型品らしい。BSIとは『British Standard Issue』の略称。

ククリは何と言っても、その命を刈り取る形……鎌のように内側に湾曲した刃体が特徴的だ。鋼材は鉈じみて分厚く、肉切り包丁のように骨付きの肉を切断する用途に向いている。はっきり言って凶悪な形状だが、日本では鉈の一種と見做され、ナガサやマチェット同様に、規制はされていない。

日本における刀、アメリカにおけるボウイナイフと同様、ネパールにおけるククリは、民俗性も内包した刃物と言える。インドネシアのクリスのように呪術や信仰の要素もある。刃物の呪いは未だに世界的に残っているものだ。


例10.ダガーナイフ/短剣(武器扱い)

冒頭の資料画像、別紙①より 剣とは
刃渡り5.5センチメートル以上、先端部が著しく鋭い。
柄をつけて用いる左右均等の形状をした刃物」

〆は一番の問題児で、投げナイフは剣の規制に影響する。刃渡りの規制値は
昔は刀と同等の15センチだったと推察されるが、秋葉原通り魔事件によってダガーナイフ規制(刃渡り5.5センチ以上は武器扱い)が敷かれ、今に至る。

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画像は https://www.lovelessknives.com/ より転載しています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

R. W. LOVELESS KNIVESBig Bear』。刃渡り8.5インチ(21.6センチ)。
泣く子も黙るラブレスナイフ。風雅さと実用性を兼ね備えた形状で、名声と希少価値を欲しいままとする伝説のカスタムナイフ、それがラブレスだ。

ボウイナイフの項目で紹介したランドールも高級品だが、ラブレスの値段は常軌を逸している、天文学的な高額さである。メーカーの開祖で、日本とも縁のある鍛冶職人ロバート・ラブレス氏の死後、生前から高価であった物にプレミアが付加され、想像を絶する値段まで吊り上がったようだ。

ラブレスの戦闘用ナイフやブーツナイフ(後で詳述する)は、ダガーじみた両刃の形状が基本であり、我が国では100点満点で規制される刀剣である。

改正銃刀法の施行で、平成の刀狩りが行われて大量の規制刀剣が供出されたわけだが、生贄の羊となって溶鉱炉に行ったラブレスは居るのか(戦慄)


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画像は http://www.sheffieldknives.co.uk/ から転載されています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

Sheffield Knives(J. Nowill & Sons)『Fairbairn-Sykes Commando Knife』。刃渡り7インチ(17.8センチ)。人間工学的な形状の柄と、柳葉めいた細身の刃が刺突に効果的で、ラブレスより軍事色・殺人用の印象が強いナイフだ。

上記のナイフは『3rd Pattern』と称され、フェアバーン・サイクスの中でも一世代前のモデルである。ブリテン軍の現用型は『4th Pattern』で、写真はネットの掲載ページがパスワードで保護され、軍関係者しか見られない。


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画像は https://store.smith-wesson.com/ より転載しています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

Smith & WessonH.R.T.』。刃渡り4.75インチ(12.1センチ)。小型軽量に作られた、いわゆるブーツナイフ。秋葉原通り魔事件で殺傷に使われた物と同型品であり、日本のダガー規制の嚆矢となった因縁深い刃物でもある。

漫画『シグルイ』の語録に「三寸切り込めば人は死ぬ」とある。この三寸は約9センチ、刃渡り4.75インチの刃物なら3/4ほど突き刺せば、人に致命傷を与え得るというわけだ。ダガーに限らず、刃物でも傘でも何でも同じだ。


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画像は https://www.extremaratio.com/ より転載しています。
画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

EXTREMA RATIOS.E.R.E. 1』。刃渡り15センチ。プッシュダガーと称する刃物で、T字ハンドル状の柄を握り、ジャマダハルのように突き出して使う護身用のナイフ。残念ながら、日本では護身用の刃物携帯は認めらないが。

このナイフはプッシュダガーの中ではかなり大型だ。半両刃となった部分を写真から計測すると、推定8.2センチ前後でダガー規制を越えてしまう。
(刃渡り15センチ、長辺5.5センチ:短辺3センチ、15÷5.5×3 ≒ 8.1818……)


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Flying SteelArrow』。スポーツ競技用の投げナイフ。全長10.3インチから算出した刃渡りは約3.9インチ(9.9センチ)。やはりダガー規制を超える。
(全長10.3in、全長14.5cm:刃渡り5.5cm、10.3÷14.5×5.5×2.54 ≒ 9.92……)

手裏剣やクナイを模した投げナイフのほか、上記のような歴とした競技用のスローイングナイフですら、日本の銃刀法に引っ掛かるナイフが往々にして散見されるのが現状だ。5.5センチの壁はそれほど高く(低く)、厳しい。


例11.飛び出しナイフ(物による)

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A.G.A. CAMPOLIN"CLASSIC LINE" STILETTO』。刃渡り12.5センチ。先の両刃部分を計測すると、約6.3センチでやはりダガー規制を上回るナイフだ。
(刃渡り12.5センチ、長辺7センチ:短辺3.5センチ、12.5÷7×3.5 ≒ 6.25

このタイプの刃物はイタリアン・スティレット、或いは単にスティレットと呼ばれる、いわゆる飛び出しナイフで、銃刀法では基本的に武器とされる。

一見すると、刃が柄に固定されたシースナイフのような見た目で、なにゆえ飛び出しナイフなのかと思うだろうが、これは実は折り畳みナイフなのだ。

ナイフ中央の、鍔のように見える十字の部品は可動式で、折り畳んだ状態の刃をロックする役割を持つ。柄の中にはバネが仕込まれており、十字の鍔を動かすと、バネの力でダガーが自動的に起き上がる、という仕組みだ。


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MICROTECHEXOCET』。刃渡り1.98インチ(5センチ)。ダガーの刃渡り5.5センチ規制を奇跡的に下回る、日本でも合法に所持できる両刃のナイフ。(あくまで可能性だ。おれは断言はしない。税関で揉める可能性は高いぞ)

このナイフの特徴は刃渡りではない。グリップと刃の境目に、スイッチ状の突起が見えるだろうか。この手のナイフはO.T.F.(Out-The-Front)と呼ばれ鞘から刃体が前に飛び出す、飛び出しナイフの一種だ。なお厳密に言うならスライディング・ナイフという、手動・自動を問わない分類にも含まれる。

日本の飛び出しナイフ規制は、鞘から45度以上に自動で開く物と、あくまで回転方向の自動開閉に対する規制であり、O.T.F.はグレーゾーンの範疇だ。

それにしても、O.T.F.ナイフの構造はおっかなくて仕方ない。これを持ち歩くヤツは平気なのか。ついうっかり刃先を飛び出させ、怪我をしそうだが。


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ORIGINAL EICKHORN SOLINGENRT-I-TAC』。刃渡り8.5センチ。冗長な刃物談義のトリを飾るのは、スライディング・ナイフの一種で、重力により刃体を振り出す『グラビティ・ナイフ』である。元々は空挺降下する兵士がパラシュートを切るために使う、『パラトルーパー・ナイフ』であった。

グラビティ・ナイフの使用方法は極めて単純だ。柄の前方に突いたレバーを指で押しつつ、柄の穴を下に向ければ、内蔵する刃が滑り落ちる。レバーを戻せば刃がロックされて、ナイフとして使えるようになるというわけだ。

これの旧型は、切っ先が通常のナイフ同様にドロップポイントであったが、流石に飛び出した時が危険だということか、この新しい機種では、切っ先が鉤爪状に丸められ、切る対象に絡みやすくなっている上、事故防止も兼ねた一石二鳥の改良が加えられている。今でも空挺部隊では使っているのか。


総括

随分長々と語ってきてしまった。ここまで忍耐強く読んでくれたお前たちに感謝するぞ。おれは刃物を語り出すとつい熱くなってしまう。ここで語った刃物たち以外にも、世の中には歴史ある刃物や技巧を凝らした刃物、美しい刃物や奇天烈な刃物など、色々な刃物が存在する。刃物は正しく使う限りは便利な道具であり、使い道を誤ればあっという間に凶器・武器へと堕する。

おれたちの住む日本国において、おれたちが趣味・実用において選択できるナイフの数は決して多くない(ダガー規制で、カキ養殖業者が貝開き用途のカキナイフを取り上げられたように)。この手の理不尽な規制は、世界中の様々な国において、様々な形で存在しているだと考え、耐えるほかない。

前提として、おれたちが法治国家の住人である限り、おれたちはルールたる法に従う必要こそあれど、おれたちは法の執行者に使える奴隷ではない。

恣意的な解釈の可能性を残した法律の条文、或いは現に恣意的に解釈されて濫用されている法律、こういうのとは市民の権利として戦わねばならない。

自由というのはつまり、世の中にはクソの役にも立たない、誰に顧みられることも無い、そういう物をこそ守るということだ。安易な規制は拡大解釈を惹起し、その先には暗黒管理ディストピアが待ち受ける。おれたちは骨身に染みてそれを理解せねばならない。自由を守り、自由のために法を守れ。

おれは刃物を愛し、下らない刃物を愛し、スローイングナイフという社会の役に立たない刃物を愛し続けることだろう。無論、法の許す範囲内でな。

今回は、一先ずこの辺でお開きしようと思う。長丁場、お付き合い感謝だ。


【刃物:銃刀法とナイフの何やかんや。  終わり】

From: slaughtercult
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