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H・B・T Mark X -人間戦車10号-

 ミサイル警報の不気味なサイレンが響いた時、少年は空を仰いだ。逃げる間もなく西の空から飛来したミサイル、その飽和攻撃で、日本は死んだ。

 ――十年後。日本連邦民主共和国、首都・中京都の辺境、西部市の酒場。

「ライウィスキーを」
「ライスウィスキーしかねえよ」

 黒いロングコートで顔の半ばまで覆った大男が、長い白髪と黒衣の狭間で獣のように輝く赤眼を窄め、低い声で唸る。

「幾らだ」
「一杯千円」

 大男は黒衣を翻し、カウンターに背を向けた。

「待てよ、五百円だ!」

 大男は席に座り、二つ折りの五百円札を二本指で放った。透明な蒸留酒がコップに並々と注がれ、供される。

「どうも」

 男は一口で半分飲んだ。その場の全員が、一部始終を唖然と見ていた。

「お前は神を信じるか?」
「信じないね」

 店主は素気無かった。男は酒場をぐるりと見渡した。居並ぶ屈強な男共がどよめき、空気が澱んだ。次の瞬間、出入口の引き戸が跳ね開けられた。

「連邦保安局だ! 屑ども、少しでも動いたらその脳味噌ぶちまけるぞ!」

 いがらっぽい叫び声が轟き、無遠慮な足音が近づく。

「連邦保安官の鬼無きなしだ。バーテン、この顔に見覚えは無いか? この野郎は四十万重剛しじまじゅうごう、職業は暴力神父、仇名は人間戦車。懸賞金は五千万え」
「そこに居るよ」
「ヘェッ!?」

 藍色の制服を纏い、燻し銀の煙管を咥えた壮年男が、ざら紙の人相書きを片手に重剛を振り返る。赤眼が、鬼無の野良犬じみた老顔を射抜いた。

「五千万?」
「こいつが?」
「やっちまおうぜ」
「おい待て、お前ら!」

 鬼無の静止に耳を貸さず、無法者たちが次々に腰から拳銃を抜く。

「神よ、私の罪を許したまえ」
「何が神だ! 神様なんぞこの世に……」

 銃声と閃光。十ミリ口径の十字弾が戯言を遮り、無法者の頭を叩き潰す。交差する重剛の両手で銀色の二挺拳銃、STIパーフェクト・テンが輝く。

「汝疑うことなかれ。アーメン」

【続く】


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