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鉄砲コラム:『トミー・ワイズガイ』の独白②【風雲児か異端児か、.30スーパーキャリー弾】

追記:2022/7/16、【.30 SCの性能を考える……弾頭と火薬と圧力と】の項に模式図 3点を挿入する。文章の説明では分かり難かった部分の改善。

 読者諸兄諸姉は、人体抑止力マンストッピングパワーという単語を聞いて何を思うだろうか。

 小火器にある程度の知識がある諸氏であれば、この単語にまつわる数多の議論にほとほとウンザリしており、どうかその話題には触れてくれるなと考える向きもあるだろう。みなまで言うな。そんなことは私にも分かっている。この議題には、安易に口を挟むべきではないことを。

 だが、いやしくも私もまた鉄砲オタクの端くれであるからには、いつかはこの荒れる話題に触れざるを得ない。今回はその導入として、2022年になりアメリカで盛んなCCW……武器隠匿コンシールドキャリーウェポンの業界において、定番商品である小型拳銃ポケットピストルの新たな選択肢として投入された、ある弾薬について検討したい。


【前回】

 というわけで、ハロー諸君。東洋のハリウッド・ブールバードは、梅雨が上がって鈍色の空から淡い光が差し、路傍に咲くアジサイの朽ちかけた花が見せる有終の美に、時の移ろいの残酷さと諸行無常を感じる今日この頃だ。

 今日も今日とて、アパルトマンの3階の突き当たりにある事務所の窓から大通りを見下ろしつつ、トミーの安楽椅子探偵じみた論考をお届けしよう。

 うだるように暑い夏の午後、冷たいカクテルでも飲みつつ、暇潰しにでも読んでいただきたい。酒はテキーラがお勧めだ。ライムジュースと炭酸水で割ったロングドリンクを喉に流し込めば、気分はメキシコのアシエンダだ。

 私は雑然と散らかったデスクに手を伸ばすと、四つ折りのわら半紙を掴み取った。業界紙『ガンズ・アンド・パウダーズ』の紙面には、無数の広告やオカルトじみた提灯記事で溢れている。カネとビズの臭いがする文字列だ。

 その中で私は、ある一つの広告に疑いの目を留め、指でパチンと弾いた。


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画像は https://www.federalpremium.com/ より転載しています。画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

 今日の話題は弾だ。流行に敏い諸兄諸姉は、興味があるかも知れん。

 その弾薬の名は『.30スーパーキャリー』。アメリカの弾薬メーカー大手のフェデラルが、2022年初頭に市場へ投入したばかりのピカピカの1年生だ。

 .30スーパーキャリー(以下 .30 SC)についてお話しする前に、アメリカの弾薬業界におけるフェデラルの立ち位置について、軽く説明しておこう。



【アメリカの弾薬業界の雄、フェデラル社】

 フェデラルの赤箱『アメリカンイーグル』と言えば、レミントンの緑箱やウィンチェスターの白箱と並び、質より量の廉価版として有名な商品だ。

 この3社は、歴史的にもアメリカで最古参の弾薬メーカーと言える。

 フェデラルの創業は1922年。レミントンの弾薬部門に吸収され、廉価版のUMCとして名を遺すユニオン・メタリック・カートリッジは、創業1867年の金属薬莢黎明期から存在する由緒正しき血筋だ。ウィンチェスターで弾薬を製造しているオリンは、その起源を1892年創業のエクイタブル・パウダーとマシソン・アルカリ・ワークスに遡るが、より直接的には1898年に創業したウェスタン・カートリッジがオリンの前身で、UMC同様に弾薬界の重鎮だ。

 スピアーが創業1943年、ホーナディが創業1949年、CCI(キャスケード・カートリッジ・Inc.)が創業1951年ゆえ、レミントンとウィンチェスターとフェデラルの3社が、アメリカ弾薬業界でいかに古株なのか分かるだろう。

 これらの大手3社は、銃器弾薬の業界標準団体であるアメリカのSAAMIやフランスのCIPが規定した、標準規格(日本のJIS規格みたいなもの)に従う普遍的な弾薬を製造するのみならず、新弾薬の自社開発にも積極的である。

・レミントン社が開発に関わった代表的な弾薬
(1954年)10.9×33mm R/.44 レミントン・マグナム
(1962年)5.56×45mm NATO/.223 レミントン
(1978年)6×40mm(仮称)/6mm BR レミントン
(2002年)6.8×43mm/6.8mm レミントン SPC ……etc.

・ウィンチェスター社がに関わった代表的な弾薬
(1873年)10.8×33mm R(仮称)/.44-40 ウィンチェスター
(1934年)9×33mm R/.357 S&W マグナム
(1952年)7.62×51mm NATO/.308 ウィンチェスター
(1963年)7.62×67mm B/.300 ウィンチェスター・マグナム ……etc.

・フェデラル社が開発に関わった代表的な弾薬
(1994年)9×22mm(仮称)/.357 SIG
(2006年)8.6×51mm(仮称)/.338 フェデラル
(2007年)7.65×30mm R(仮称)/.327 フェデラル・マグナム
(2022年)7.65×21mm(仮称)/.30 スーパーキャリー ←NEW!

 ざっと挙げればこんなところか。レミントンとウィンチェスターの2社は大昔に開発した弾が多く、ここには含まれていない狩猟用ライフルの弾薬も数多く開発しており、ハンター層にも強い商品ラインナップを持つ。日本の狩猟界でも、この2社の弾薬は頻繁に見られる。対するフェデラルは弾薬の自社開発が近年に集中しており、しかも拳銃弾に注力しているため日本では見る機会が少なく、あくまでアメリカの国内市場を注視している印象だ。

 ということで、本題である新型弾薬 .30 SC弾に話を戻すとしよう。

 冒頭に述べた通り、この弾薬は市場参入して間もない出来たてホヤホヤで不明点が多い。どれほど市場競争力があるのか、先ず価格から見てみよう。



【別表1.弾薬の価格表・アメリカンイーグル】

 具体的な話をする前に、googleのスプレッドシート機能を用いて集計したリストをお見せする。この表は読み飛ばしても構わないが、少しでも鉄砲に興味のある方は目を通してもらえると、興味深い事実が読み取れると思う。

 興味の無い方は、【価格で見る .30スーパーキャリー弾の立ち位置】まで一足飛びに、項目を進めてもらいたい。表の内容を簡潔にまとめている。

federal american eagle 価格比較 1発単価順

☝フェデラル社の『アメリカンイーグル』という廉価ブランドの価格番付。ライフル弾ピストル弾リムファイア弾の3種類がある。元情報における詳細なスペックから、一般的なデータのみを抽出、簡略化の上で集計した。

 念押しすると、これはフェデラルの廉価商品の価格順だ。高級品の場合は順序が入れ替わる可能性もあり、番付は絶対ではない。鵜呑みは禁物だ。

 あくまで銃弾の相場観を養うための、大雑把な目安程度に考えてほしい。

凡例:価格はリスト中央。ドル円は$1=¥135のレートで換算している。

   銃身長のV=Vented(穴あり)。リボルバーのシリンダーギャップを
   模して、ガスが漏れる穴空きのテストバレルを使って図った値。
   銃身長のN/A=Non Available(不明)で具体的な長さの記載なし。
  
 20 in ほどの長い銃身を用いて計測した値……と推測するのが妥当。


【別表2.弾薬の価格表・ショットシェル】

 別表1には、ショットガンの弾が入っていない。種類を横断して俯瞰的に弾の金額を把握するため、代表的なショットシェル弾を抽出して集計した。

federal shotshell 価格比較 1発単価順

ショットシェルの比較。番径は12ゲージ・20ゲージ・ .410ボアの3種類、装弾は鳥撃ち散弾バードショットから9号・7.5号・2号、鹿撃ち散弾バックショットから00バック、そしてスラグ弾の合計5種類を選んだ。一般的な用途の弾は網羅できたはずだ。


 これらの表は、

 上記にソース元のデータシートが存在するので、興味のあるヤツは内容を見てみるがいい。並び替えするなどして様々な角度から観察してみてくれ。



【価格で見る .30スーパーキャリー弾の立ち位置】

 別表1と2を踏まえて、弾薬の価格がどんな塩梅なのかを見てみよう。

 最も安い弾は .22ロングライフル弾(50発/5ドル)。1発/10セントというずば抜けた安さで、火薬を用いる装薬銃の弾としては最安クラスである。

【5ドル前後で買える物・比較】
アメリカ全土のレギュラーガソリン平均価格 1ガロン/4.84ドル(7/2現在)
アメリカ全土のビッグマックの平均単価 1個/5.17ドル(7/2現在)
コカ・コーラ 16fl. oz ボトル Amazon販売価格 3本/5.5ドル(24本/44ドル)

フェデラル・AE .338ラプア・マグナム弾 1発/4.9ドル(20発/98ドル)
(参考価格 フェニックス・アームズ HP22A 拳銃 中古価格 1挺/99.99ドル)


 安さ2位は、12ゲージ 70mm 7.5号散弾(25発/10ドル)、1発/40セント。安さ3位が、12ゲージ 70mm 9号散弾と、20ゲージ 70mm 7.5号・9号散弾(25発/12ドル)、1発/48セント。クレー射撃に使う小粒の鳥撃ち散弾バードショットだ。

【狩猟に使う大粒の鹿撃ち散弾バックショット・スラグ弾との価格比較】
12ゲージ・20ゲージ 70mm ライフルドスラグ弾(5発/8ドル)1発/1.6ドル
.410ボア 64mm ライフルドスラグ弾(5発/10ドル)1発/2.0ドル
12ゲージ 70mm 00バック散弾(5発/10ドル)1発/2.0ドル
小粒散弾の1/5の入数で値段は同じ=実質的に小粒散弾の5倍の価格。


 安さ4位は9×19mm弾(50発/25ドル)、1発/50セント。.22LR弾の5倍かつ小粒散弾とほぼ同等で、センターファイアの拳銃弾に限れば実質的に1位。安さ5位の .380オート弾.30 SC弾(50発/34ドル)、1発/68セントと比べ50発/9ドルも安く、優れたコスパでライバルの弾たちと差をつけている。

6位は .40 S&W弾(50発/35ドル)、1発/70セント。
7位は12ゲージ 76mm 2号散弾(25発/19ドル)、1発/76セント。
8位タイは .410ボア 64mm 7.5号・9号散弾(25発/20ドル)、
並びに .45オート弾(50発/40ドル)、1発/80セント。
9位が .38スペシャル弾(50発/41ドル)、1発/82セント。
10位には .25オート弾(50発/42ドル)、1発/84セント。

11位タイで12ゲージ 70mm 2号散弾(25発/23ドル)、
並びに .32オート弾 .357マグナム弾(50発/46ドル)、1発/92セント。
12位の10mmオート弾(50発/47ドル)、1発/94セント。
13位の .38スーパー弾(50発/49ドル)、1発/98セント。
14位の5.56×45mm弾(20発/20ドル)、1発/1ドル。
15位タイは20ゲージ 76mm 2号散弾(25発/26ドル)、
並びに5.7×28mm弾.327フェデラル弾(50発/52ドル)、1発/1.02ドル。

 9×19mm弾が1発/0.5ドル、5.56×45mm弾は1発/1ドル。それぞれ拳銃弾やライフル弾の代表格だ。他のメジャーな拳銃弾はその中間の価格と言える。

 拳銃弾で50発/20ドル台なのは9×19mmただ1種類、50発/30ドル台の弾は .380オートと .30 SCと .40 S&Wの3種類、残る7種類の弾は50発/40ドル台で一気に価格が跳ね上がる( .410ボアも拳銃弾に含めれば8種類になる)。

 .40 S&W(50発/35ドル)か .45オート(50発/40ドル)が、一般消費者の妥協できるギリギリの値段ではないか。それ以下はコスパが悪く感じる。

 10mmオート(50発/47ドル)や .38スーパー(50発/49ドル)は、元々は 割と強い弾だが、アメリカンイーグルでは9×19mm~ .40 S&W並みの弱さに性能が抑えられており、金額以上にコスパが悪化しているのも見逃せない。

 こうして見ると、.30 SC弾の安さランク5位というのは、弾のスペックを比べると相対的な割安感があり、市場競争力がある……とは言えまいか?

 あくまで、安いFMJ弾においては……という但し書きが付くのだが。



【弾のコスパについて考えてみよう】

 まあ弾が安いからといって、必ず売れるワケではないが、現実問題として高い弾は、特に市場の大勢を占める『エンジョイ勢』に敬遠されがちだ。

 .30 SCの値段が9×19mmを僅かに上回り、.380オートとタメを張る位置に設定されたのは、実に巧みな戦略だと思われる。これらの弾は、アメリカでコンシールドキャリー(隠し持つ拳銃)に選ばれ易く、特に銃に詳しくない一般人にも選ばれ易いよう、安めの価格帯にワザと設定したはずである。

 1世紀前にこの手の用途で一般的だった、.38スペシャル(50発/41ドル)や .25オート(50発/42ドル)、 .32オート(50発/46ドル)などの弾は、かなり割高だ。.32オートは、4倍以上のエネルギーを持つ .357マグナムと同価格で財布に厳しく、.30 SC(50発/34ドル)と比べて数を撃つのに向いていない。


 ここから分かるように、銃弾のサイズや性能と価格は必ずしも比例せず、市場の売れ行きの良さ=普及度・浸透度・占有率の高さ(弾が売れることはそれを撃つ銃もまた売れるということ)が直に響いてくる、という事実だ。

 廉価なアメリカン・イーグルで、価格12位の .327フェデラル・マグナム弾(50発/52ドル)と、20位の .357 SIG弾(50発/80ドル)。共にフェデラルが設計した弾だが、共に高価格で性能もニッチ狙いであるために、お世辞にも市場に浸透しているとは言い難い。特に .357 SIGなど、9×19mmの3倍以上で .45オートの2倍の高値であり……売る気が無いのかと勘ぐりたくなるほどだ。


 それでも、今年の新商品である .30 SC弾は違う。安売りが激化する競争の最前線で市場を牽引する、9×19mmや .380オートとガチンコで殴り合える強気の安値を掲げた。この点を見ても、フェデラルが .30 SCにかけた期待の大きさが想像できるだろう。今回は割とガチで市場を『獲り』に来ている。

 鉄砲が売れなきゃ弾も売れない。しかし弾が高くて売れなきゃそれを撃つ鉄砲にも買い手がつかない。差し詰め『鶏が先か、卵が先か』の問答じみた市場原理だが、フェデラルは暫く開発費を回収できず、赤字を我慢してでも新商品を安値で売り捌き、新規客を取り込む博奕に打って出たようだ。



【.30 SC弾を使う銃器の現行ラインナップ】

 .30 SC弾の市場投入からおよそ半年が経ち、賭けの成果は出ただろうか。答えは残念ながらノーだ。現状、各メーカーは日和見を決め込んでいる。

 そもそもこの新型弾薬を使える銃自体が、S&W(スミス&ウェッソン)ナイトホーク・カスタムの2社しか存在しない。弾薬のリム形状が細いため9×19mm弾や .40S&W弾、.45オート弾などとブリーチを共有不可で、既存の銃と互換性を持たせるのが非常に難しい(スライドごと全取っ替えしないと .30 SC弾を撃てない)構造が、普及の足枷になっているのだと推察される。

 厳密には、今後の展開次第で9×19mm口径からのスライド部品一式交換と弾倉の交換とで、簡単に撃てるようになるものとは予想されるが、この弾の人気が盛り上がってこないと、そういう改修も積極的に行われないだろう。

 大人の事情はさておき、2社の拳銃をそれぞれ具体的に見ていこう。


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画像は https://www.smith-wesson.com/ より転載しています。画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

S&W M&P シールド・プラス。グロッククローンのポリマーフレームで、変則ダブルアクションのストライカー撃発。姉妹商品のM&Pシールド EZはシングルアクションの内臓ハンマー撃発とグリップセフティを組み合わせ、操作性の異なる2挺の銃に、サムセフティの有無というオプションを設けて合計4種類のバリエーション展開をしているようだ。いずれも小型拳銃。

M&P シールド・プラス OR(オプティクスレディ)30スーパーキャリー
装弾数 13+1、16+1(延長弾倉)、重量 19.3oz(547g)
全長 6.1 in(155mm)、全幅 1.1 in(28mm)、全高 4.6 in(117mm)
メーカー希望小売価格 $595.00(80,325円)
備考:光学照準器レール、トリガーセフティ、外装セフティオプション

M&P シールド EZ 30スーパーキャリー
装弾数 10+1、重量 21.6oz(612g)
全長 6.8 in(172mm)、全幅 1.46 in(37mm)、全高 5.2 in(132mm)
メーカー希望小売価格 $521.00(70,335円)
備考:アクセサリーレール、グリップセフティ、外装セフティオプション

 超小型で光学照準器もつけられるシールド・プラスか、少し大きくなって装弾数も減るが、レーザーやライトがつけられるシールド EZか。どちらとも価格5~600ドルという、近頃のアメリカ市場の売れ線を強く意識している。


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ナイトホーク・カスタム GRP(左)とプレジデント(右)。フルサイズの5インチ銃身とスライドを持ち、シングルアクションの外装ハンマー撃発でフレーム左側のみに手動セフティを持つ(流行りの両利き対応ではない)、正統派の1911クローン。但し、職人の手作業でスライドと銃身の固定精度を始めとする、全体の工作・組み立て精度を突き詰めた超高級カスタム拳銃。

GRP(口径 9mm/.45 ACP ⇒ .30 SC の部品コンバージョン)
装弾数 12+1(延長弾倉)、重量 36.9oz(1,046g)
全長 8.65 in(220mm)、全幅 1.40 in(36mm)、全高 5.4 in(137mm)
メーカー希望小売価格 $3,499.00(472,365円)
備考:右利きサムセフティ、グリップセフティ、フロント蛍光サイト

プレジデント(口径 9mm/.45 ACP ⇒ .30 SC の部品コンバージョン)
装弾数 12+1、重量 38.2oz(1,083g)
全長 8.58 in(218mm)、全幅 1.25 in(32mm)、全高 5.75 in(146mm)
メーカー希望小売価格 $4,599.00(620,865円)
備考:右利きサムセフティ、グリップセフティ、スライド肉抜きカット

 非装填重量で1kgを超えるあたり、流石は鋼鉄製1911といったところか。フルサイズなので、とにかくデカくて重い。その代わり、職人の手が入ったSAOトリガーのキレは良く、狙い易く撃ち易くて当て易い銃であるハズだ。恐らくはS&W M&Pシールドのような持ち運びを想定しない、レンジ専用の娯楽銃だと思われる。護身用に携帯させるなら、3.25~4インチクラス程度のもっと小型の1911拳銃にコンバージョンを用意するのが妥当だからだ。

 価格が高いのは、まあ、ナイトホークだからな……500ドル台の安い拳銃を欲しがる貧乏人など、眼中にも入っていないというのが正直な所だろう。


 現状、.30 SC弾に対応する銃のラインナップは以上である。正直に言って対応機種は少なすぎ、機種の傾向もCCW・コンシールドキャリー向きである小型拳銃か、超高級フルサイズのブティック・ガンのみと究極の選択じみて尖った選択肢しかないため、エンドユーザーも様子見が多いと思われる。



【.30 SCの工場装弾ファクトリーロードの現行ラインナップ】

 銃の選択肢の少なさに比べて、弾の選択肢は思った以上に多く用意された印象である。製造メーカーは .30 SCを設計したフェデラルを筆頭に、CCIスピアーレミントン、それにホーナディの5社から弾が供給されている。

 フェデラルとレミントンがそれぞれ2種類(FMJとJHP)、CCIとスピアーとホーナディがそれぞれ1種ずつ(CCIはFMJ、スピアーとホーナディはJHP)の合計で7種の .30 SC弾が、現時点で存在する。下にリストでまとめてみた。

.30スーパーキャリー 価格比較 1発単価順

  ホーナディのみMSRPの記載がメーカーサイトにないため、販売サイトの実売価格から平均を割り出し、価格を代入している。実売価格はMSRPより高いことも安いこともあるため、余りアテにはできないが。サイトによって明らかに平均より高すぎる価格があったため、それは計算から除外した。

 JHP弾は、高価なスピアー・ゴールドドットとフェデラル・HST、中価格のレミントン・HTPにホーナディ・FTXと、綺麗に二分される結果となった。

 スピアー・ゴールドドットは『法執行機関で最も選ばれる弾』と広告文に謳う通り、JHP弾の中では性能が高く人気だ。フェデラル・HSTは旧型商品のハイドラショックと比べ、強化された拡張性能が弾道ゼラチン射撃試験でも確認されている。上記2つより安いレミントン・HTPやホーナディ・FTXは、特筆した性能があるとは言えないが、20発/10ドルも安い点で差をつける。

 反面、安価なFMJ弾は3種類ともどんぐりの背比べで、どの弾も大差ない。

 レミントンの最高級ブランド・ゴールデンセイバーに、.30 SC弾の設定が現状で存在しない点は注目に値する。高級品を各社から乱発すると、需要を食い合って売上が落ちるために、現時点では様子見していると推測できる。


 さて、こうして見ると、新製品がスタートダッシュするために充分過ぎるラインナップが出揃っている。一見すると数多くの企業が、この弾に期待を寄せている……そんな印象を受けるが、残念ながらこれには裏に種がある。

 順を追って説明する。先ず、CCIとスピアーは関連企業だ。CCIの創業者はリチャード・スピアー、スピアーの創業者はヴァーノン・スピアー、2人は兄弟だ。弟のヴァーノン氏が先にスピアー社を創業し、兄のリチャード氏がスピアー社に関わった後で独立し、CCI社を創業したという経緯がある。

 その次に重要な事実が、フェデラル・CCI・スピアー・レミントンの4社が現在はビスタ・アウトドアという共通の親会社の傘下に入っていることだ。レミントンの弾薬部門(現在のレミントン・アミュニション)は、親会社のレミントン・アウトドアが2020年に経営破綻した時、ビスタ・アウトドアに弾薬部門だけ切り売りされた経緯がある(火器部門は不要だったようだ)。


 つまり、4社の .30 SC弾薬の発売は、何も知らない人には各社の独立した動きに見えるものの、実のところ親会社と見えない糸で繋がった兄弟会社の手を借りることで、様々なブランドを介して多くの顧客に新型弾薬を広める試みとも読めてしまう……一連の大きな流れなのだと考えられるワケだ。

 ここで直接的な利害関係に乏しいのは、恐らくホーナディぐらいだろう。

 これが誇大妄想狂の根拠なき与太話でないことは、2022年3月報道である「ビスタ・アウトドア傘下のフェデラル・CCI・スピアー・レミントンらが共同で、U国に100万発の弾薬を寄付すると共に、レミントンとフェデラルがU国難民向けの寄付金を募るため、WebでTシャツを売ることにした」というニュースにある通り。親会社の命令で、連携プレーも行うことは明らかだ。

 しかし現時点で「.30 SC弾薬の4社共同発売に親会社も関わっている説はあくまで、筆者トミーの想像・妄想・憶測であり」確たるソースに基づいた話ではない。読者諸兄諸姉は「そんな説もあるか」程度に聞いてほしい。



【.30 SCの性能を考える……弾頭と火薬と圧力と】

 さて、メーカーが公開する情報から所見を述べると、先ず気が付く事実はFMJ弾が圧倒的に安く、JHP弾はFMJ弾の倍以上は高価であり割高感が強い。

 これは正直ラインナップのJHP弾が標的用でなく、対人殺傷用を企図した高級な弾薬ばかりなので、.30 SCのJHP弾が高いのは仕方のない話ではある。


 スペック的には、どのメーカーもほぼ大差なし。全てのメーカー・弾薬でフラットノーズ弾頭を使用しており、CCIとスピアーの2社を除き、弾頭重量100gr(≒6.48g)かつ、銃口初速1,250fps(≒380mps)といったところ。

 現代のセミオート拳銃弾として標準的な9×19mmと比べれば、弾頭が少し軽くて、弾速が少し早い。7.65×21mmという寸法は、9×19mmの元になった古の7.65×21mm パラベラム(.30ルガー)弾を思い出す。古の .30ルガーはボトルネック薬莢で、ネックより下の径が太くなるために、9×19mmと同じ弾倉を使い回せ、銃身を換えれば9×19mm弾も撃てるメリットがあった。

弾薬と圧力②

 翻って、.30 SC弾はストレート薬莢であり、.30ルガー弾よりベース直径で1.2mmほど細い。ゆえに、.30ルガーが9×19mmと同じ装弾数であったのに対して、.30 SCでは9mm弾10発あたり+2発の12発が装填可能で、空間効率を最適化している。性能も .30ルガー(弾頭重量 93gr × 銃口初速 1,200fps)と同等どころか少し強力であり、1世紀ごしの技術の進歩が見られる。しかし .30ルガーの最大圧力は34,084 psiで、.30 SCの圧力の 2/3 程度に過ぎない。


 余談だが、現代のボトルネック薬莢の拳銃弾(正確にはPDWだが)である5.7×28mmの最大圧力は50,038 psiと非常に高く、.30 SCと同等の高圧ぶり。ボトルネック薬莢では口が絞り込まれるため、ストレート薬莢と比べて圧を高め易いのだろう。しかし、同じボトルネック拳銃弾でも、設計がより古い7.62×25mmトカレフでは36,259psiと、上述の .30ルガーと2,000psiほどしか差が無いため、新しい弾ほどより高圧な設計を求める、と言えなくもない。

 トカレフ弾は .30 SC弾より圧力が低いのに、なぜ .30 SCよりエネルギーが大きいかと言うと、トカレフ弾はボトルネック薬莢だし、薬莢長も25mmと .30 SCより4mmも長いため、大量に詰めた火薬で弾頭を加速できるためだ。

近代セミオートマチック弾薬の歴史

 .30 SC弾では太いボトルネック薬莢を嫌って細いストレート薬莢を選び、薬莢内の火薬を詰める容積・圧力向上による速度増加・使える弾頭の重さを天秤にかけ、ギリギリで釣り合いが取れる7.65mm口径を選んだのだろう。

 ここに、弾頭を加速するために火薬を増やす(≒ボトルネック化)という旧いアプローチから、圧力を高める方向へのアプローチの転換が見られる。


 弾薬の圧力で言うなら、もっと示唆に富む情報がある。

 CCIと言えば、安いアルミ薬莢の印象が強い(弾にもよるが真鍮薬莢より50発/2~3ドルは安いようだ)が、流石に .30 SC弾では、普通の真鍮薬莢を使うようだ。私の推測だが、.30 SC弾が余りに高圧過ぎて、アルミ薬莢では強度に不安があったのではないか? 強力な10mmオートや .357マグナム、 .44マグナムにもアルミ薬莢の設定はあるが、SAAMIの規定で常装弾の圧力が35,000(.357)~36,000(.44)~37,500 psi(10mm)程度であり、.30 SCの52,000 psiとかいうイカれた超高圧にもアルミが耐えられるとは思えない。

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画像は https://saami.org/wp-content/uploads/2022/07/Public-Introduction-30-Super-Carry-2022-06-30.pdf より転載しています。画像の転載は、転載元の転載規約に従って行ってください。

☝SAAMIのPDFを転写した画像。上に最大圧力 52,000 psiと記載があるが、これはあくまで安全性を保てる最大値であり、メーカー製の工場装弾ならば圧力限界のギリギリを攻めず、安全マージンを取って少し弱くするはずだ。 .30 SCが出回り始めた初めの頃では、圧力は 50,000 psi前後と言っていたので工場装弾では 50,000を切る程度の圧力に調整しているのではないかと予想。

 弾薬は基本的に、同じ口径で同じ重量の弾頭を使うなら、圧力を上げれば速度も上がる。同じ口径でより重い弾頭を使い、軽い弾頭と同じ速度を出す場合は(それだけ火薬を充填する隙間があればの話だが)圧力は上がる。

 正確に言えば、重い弾頭は軽い弾頭より物理的に長く、組立部品としての弾薬の全長を同一に保つためには、より長い弾頭を、より深く、薬莢の中に押し込む必要がある。弾頭と薬莢内壁の接触面がより多くなるため、弾頭がガス圧で押し出される時の抵抗がより強くなり……圧力が上がるのである。

弾薬と圧力①


 .30 SCで注目すべき点は、使用する弾頭の100~115grという重さだ。

 そもそも .32オートの弾頭が71gr、7.62×25mmで85gr、.30ルガーで93gr、 .32 S&W ロングや .32 H&R マグナムで85~100grほどの重量が普通であり、このクラスで100~115grの弾頭はかなり重い( .30カービン弾の弾頭重量が110grである)。重く長い弾頭を拳銃弾サイズに押し込めることで、危険と引き換えにより薬莢内の圧を上げられ、挑戦的な高初速を得られるワケだ。

 また、フェデラルが作ったリボルバー用の .327 フェデラル・マグナムに使用する弾頭も、.30 SCと同じ100~115grの重さを使っており、この弾薬で培ったノウハウが後の .30 SCの設計に活かされたと考えるのが妥当だ。


 高圧=効率向上と考えを飛躍させるのは、些か短絡的な発想と言える。

 弾薬は薬莢の中で火薬を燃やしているため、圧力が高すぎれば構造強度の限界を超えて「破裂」する。破裂すると、当然だが薬莢がブッ飛ぶだけでは済まず、銃身が割けたりスライドが千切れたり、弾倉の中身がグリップ下へ吹き抜けたりするし、銃を握った手が高圧ガスで切り裂かれたりもする。

 吹っ飛んだ拳銃の実例は、” glock blow up ” とかで検索すれば見られる。

 初めから高圧の弾はそれだけ安全マージンを切り詰めているため、扱いを間違えると銃を吹き飛ばす怖さがある。そういう意味で、.30 SC弾の設計はピーキーと言える。これから出ることが予想される、リロード器具を用いた .30 SC弾を自家製造する時は特に、安全に細心の注意を必要とするだろう。

 ストレート薬莢は「リロードしてください」と言ってるようなものだし。


【なぜローンチ商品がS&Wから供給されたか?】

(この項には、特に筆者の想像・妄想・憶測が強く反映されている。読者の諸兄諸姉は話半分の眉唾と考えていただき、真に受けぬよう注意されたい)

 .30 SCは名称にもある通り、仮にも携帯用のポケットピストル市場向けに作られた弾であり、小型銃の得意なメーカーが参入するのは分かる。しかしナイトホークが興味を示した理由は良く分からんな。まあ、高圧弾薬という特性を鑑みれば、ポリマーフレームより金属フレームの銃で撃っておくのが無難な選択であるのは間違いない。とはいえ、S&Wはポリマーフレーム銃で現状では問題なく撃てているので(銃身炸裂などリコールは様子を見ないと結論は出ないにせよ)、やはり単に売れるか否かを日和見しているのか。

 しかし、普及品の第一号が、S&Wから発売されたのはなぜなのか?

 別に難癖付けたいワケじゃないが、.30 SCの銃を最初にリリースしたのがグロックでも良かったはず。 .380オート、10mmオート、.357 SIG、.22LRとどんな弾でも拒まない淫乱種壷野郎ことグロックからではなく、.30 SC銃がS&Wからリリースされたという事実が、何とも示唆に満ちてはいまいか?

 グロックは .45 GAPで新型弾薬にもう懲りた可能性もあるが(笑) あの弾も着眼点は悪くなかったのだが、いかんせん中途半端な性能だったしな……。

 まあ多分、商売できると理解できた段階で、グロックは新しいナンバーの拳銃を作ると予想される。他には、ルガー辺りの商売が上手でかつフッ軽なメーカーならば、1年ぐらい様子を見てから適合銃を作るかも知れない。

 ルガーは、LCRリボルバーに .327フェデラル・マグナムを採用しており、フェデラルと繋がりがあるはずだが、そう考えるとスタートアップ時点からルガーが絡まなかった点も不思議である。グロックすら手を出さない、あの5.7×28mm弾が撃てる拳銃を、本家のFNに続いて発売したルガーがだぞ? 

 そして弾薬の価格リストにも書いたことだが、FN以外で5.7×28mm弾薬を製造販売している企業も、大手は現状でフェデラルぐらいしか無いのよな。

 まあ、確たるソースに基づかない邪推はこの辺で止めておくとしよう。


【総括】

 これらを見て、諸兄諸姉はどういう感想を覚えただろうか。いつもと同じ鳴り物入りの新商品……だが時が経てば陳腐化し、そのうち話題性は薄れ……そのくせ弾の値段は高止まりで、一向に普及する兆しは見られない……。

 ハッキリ言って「選択肢」は市場に溢れ返っている。過去の自社製品とも何なら競合しかねない。その中で敢えて荒波に漕ぎ出す自信の強さは大したものだが、過当市場で後発商品が売れて地位を得るのは相当難しいだろう。

 別に鉄砲業界だけの話ではない。市場で陳腐化した技術に、小さな発想の転換を加えて大々的に有用性の広告を打つ、いつもの資本主義社会だ。

 .30SC弾は、市場で大勢を得るエポック・メーカーとして凱旋するために生まれたわけではない。指摘すべき興味深いことは、.30SC弾の設計思想が一頃の自動車業界で流行した『ダウンサイジングターボ』そっくりな点だ。

 馬力はあるが燃費の悪い旧来のデカブツと、小回りが利いて燃費は良いが馬力の無いコンパクトカー。小さなエンジンにターボチャージャーを付けて高圧から馬力を引き出す概念が、大きい×ハイパワーと小さい×ローパワーの間を取り、両者を良いとこ取りする使い心地の良い性能を創出したように。

 例えば9×19mmが、排気量2,500~3,000ccのN/A(自然吸気)エンジンと仮定するなら、.30 SCは1,500~2,000ccのターボエンジンと言える。小排気量エンジンで250~300馬力を出力する、昨今のスポーツカーのようなものだ。

 9×19mmを高効率化したような存在が、元の9×19mmを取って代わるかというと、これまで語ってきた数多の要素から、厳しいと言わざるを得ない。

 現状では、世界各国の軍・警察用ハンドガンの標準弾薬は9×19mmで殆ど占められており、置き換えコストの問題からも、公的機関による .30 SC弾の採用で人気が爆発する……とも中々考え辛い。この弾はあくまで、民間人が携帯するセミオートの威力と装弾数をバランスする、今一つの選択肢として細々と選ばれることだろう。少なくとも .45 GAPよりは希望があるはずだ。

 まあ、来年の事を言えば鬼が笑う、と諺にあるので、今後を注視したい。

 ということで、今回の論考はこの辺で終えるとしようか。

 ここまで読んでくれて感謝する。


【鉄砲コラム:『トミー・ワイズガイ』の独白②】
【風雲児か異端児か、.30スーパーキャリー弾 おわり】
【To Be Continued ……?】

From: 素浪汰 狩人 slaughtercult
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