鹿島戦~緊急事態での勝ち点1

2023年7月8日 サンフレッチェ広島 vs 鹿島アントラーズ エディオンスタジアム広島


 全体練習中止。

 その報が流れたのは前日のことだった。体調不良の選手が続出。それにより大きく入れ替わったメンバーだったが、最も心配なのはCBだった。急造の3バックには右から中野、松本大哉、志知が入る。圧倒的に攻められることが予想される中でこれは致命的でもあった。特にセンターを出場機会のない大哉が入るのは致命的とも思われた。代理監督を務める迫井ヘッドコーチも苦しい選択を強いられただろう。

 嵐のような雨の降り頻る中、流石にこの天候の下で観戦に訪れる客は少なかったものの中止にならなかったのはせめてもの救いだった。いやむしろ中止の方が良かったかもしれない。連敗中のサンフレッチェにとってこの激しい雨と共に辛く惨たらしい試合になるだろうことが想像できたのだった。

 虐殺。それは覚悟してたものの出場機会のない選手にとってはアピールのチャンスでもあった。せっかく巡ってきた出場機会を生かして欲しかった。ルヴァンカップ初戦で監督の信頼を一気に失ってしまったようなことを繰り返せばそれはプロの選手としても厳しい立場に立たされるのだった。

 サンフレッチェボールでのキックオフ。前に大きく蹴りボールが落ち着かない。ただ、ボールが落ち着き地上戦になると鹿島ボールに。そこから一気に攻め込む鹿島に対して守備はたじろいでしまう。2人、3人で囲むがショートパスで叩かれると中野がたまらずファール。右サイドからのFKを与えてしまった。

 ゴール前横一線で構えるサンフレッチェ。FKはそのライン上へと高く落ちる球が入っていくとそこに頭一つ抜けた関川のヘッド。ゴールの角を狙ったヘディングは入った。入ってしまった。失点。開始間もない失点。もうやられた。元々4連敗中のチーム、この試合も勝つことへの期待は大きく薄まってはいたもののここまで早く失点してしまったことに腰の力が抜ける。一体今日は何点取られるんだろう。そんな諦めさえ感じるのだった。

 それでも攻める姿勢だけでも見せてほしい。右サイド越道が密集へ向けての突破を図る。これがシュートに結びつかなかったもののああいう積極的な姿勢は湧き立つ。一時はスタメンの座を取ったかと思えた越道にとって自身との戦いでもあった。ところがその越道、倒れてしまった。立ち上がれない。タンカが入り運び出されてしまう。何があった?おお、越道、もしかしてお前も体調不良の症状が出てしまったのか。その失意の退場に代わり入ったのが茶島。どことなくこれで攻撃への鋭さがなくなっていくような気がしてしまうのだった。

 ナスが前線でプレスにいくものの連動性がなく簡単にかわされる。そしてそれをスイッチに一気に前線へと駆け上がっていく。それでも中盤で食い止めるとエゼキエウに渡る。巧みなフェイクにより前を向くと前方に広大なスペース。ドリブルで駆け上がる。チェックに行く鹿島DF。右サイドに茶島が上がったものの自分で抜いた。更にペナルティエリア前でマークに着かれるもフェイントでかわしシュート。強烈な弾道が走ったもののGK早川に弾かれてしまう。流石にあの位置からのシュートでは防がれてしまう。それなら茶島に出していれば可能性があった気がした。

 ただ、そんなエゼキエウの奮闘もあって1点差のままハーフタイムを迎える。一方的な展開になるかと思いきや意外にも踏みとどまっていた。果たしてこれは鹿島が1点あれば勝てるという判断をしてのことだろうか。一矢報いたい。後半どこを替えていくんだろうと思ったもののメンバー変更なし。確かに悪くはない。実際に危ない場面といったらGK大迫が出したパスを掻っ攫われてクロスを送られた場面くらいのものだった。そして攻撃面では野津田のバーを叩くシュートもあった。ナスがペナルティエリアでシュートを狙う場面もあった。なぜか普段シュートを打ってない選手が打っている。悪くない。確かに明確に代えるべき選手も見当たらないのだった。

 ただ後半は鹿島も点差を広げようとしてくる。ボール支配率ではやはり上回れる。自然とラインが下がる。全体的に重心が重くなる。鈴木優磨へボールが入るとそこから展開されてしまう。サイドを崩そうとオーラーラップ。そこを志知が食い止める。ナスに渡る。前を向きエゼキエウへ。

 最終ラインを向けたエゼキエウ。ドリブル、ドリブル、ドリブル。GKとの1対1。そこで放った。ここでいつものようにゴールの上遥か彼方へ飛んでいってしまうことも覚悟した。が、それはニアをぶち込む抑えの効いたシュートだった。ゴールへ一直線に飛んだボールは文句の言いようもないほど明確にネットに突き刺さったのだった。

 決まった、決まった、決まった。エゼキエウ今シーズン初ゴール。巧みなフェイント、両足使ったドリブル、技巧的なトラップ。どれをとっても一級品なのになぜか結果の出ないエゼキエウがここで決めてくれた。この日のエゼキエウ光り輝いてた。こんな姿、こういうエゼキエウがずっと観たいと思っていたのだった。

 振り出しに戻った。当然鹿島は点を取りにくる。次々にフレッシュな選手を入れてくるもののサンフレッチェは動けない。それでもナスに代わってヴィエイラが入るもまたしてもヴィエイラは空気のようにボールに絡めない。そして野津田に代わって松本泰志が入るも段々と前に出る頻度は少なくなる。そして鹿島は交代で入った藤井が右サイドをドリブルで掻き乱す。縦を抜かれるとスピードでは追いつけない。それ故縦を切るとカットインのドリブルによりミドルシュート。抑えの効いたシュートは枠に飛んでたもののGK大迫セーブ。藤井のドリブルは怖かった。ただ、茶島も意地とプライドに懸けて最後は潰すことに成功したのである。

 勝ちたい。両者同じ想いでアディショナルタイムに突入。ボールが奪えない。ヴィエイラ目掛けてボールを飛ばすも収めてくれない。あの大きな身長がありながらも透けてそうなくらい存在感がないことで攻め手がなくこのままタイムアップの笛を聴いたのはむしろ負けなくて良かったとさえ思ったのだった。

 だが実際にレギュラーと称するメンバーで連敗してた中、少なくとも勝ち点1は奪うことができた。これははっきりと結果を出したと言えるのではなかろうか。どことなく膠着してたチームを打破できたのでは。これによってレギュラーだったメンバーも緊張感が走る。そんなチームの活性化の為にもまたこのメンバーを観てみたい。引き分けなのに勝ちに等しい満足感は得た。だけど今度は本当に勝ちを取ってもらいたい。そして自身の価値を上げてくれればより一層楽しみが増えるはずだ。

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