天皇杯甲府戦~またしても敗れた決勝戦

2022年10月16日 天皇杯決勝 ヴァンフォーレ甲府 vs サンフレッチェ広島 日産スタジアム

 2階席から見下ろした光景はピッチが遠かったものの俯瞰的にはよく把握できる位置だった。その為に今一つピッチとの一体感という意味では希薄なものがあったものの5度目の天皇杯決勝にかける想いというものは皆がもっていただろう。過去、決勝では全て完封負け。今度こそは得点を取る、今度こそはカップを掲るという気概で挑むのだった。
 和太鼓の演奏に乗りながら旗振りパフォーマンスが繰り広げられた中を選手が入場する。ピッチには全体を覆い隠すくらいの特大フラッグが敷かれ決勝の舞台を彩る。自然、両ゴール裏の応援にも熱が入る。その中での写真撮影、ピッチに散る選手達。胸は高まるばかりだった。
 そしてキックオフ。開始から高い強度のプレスにより甲府に主導権を渡さない。それによりマイボールの時間はできる。そこからどう崩すか。左サイド柏に入ると中は守備で固められてるので一旦戻しやり直し。そしてボランチの野津田、川村が受けるもここもバックパス。そして右へ出すと茶島はまるで前に勝負することもなくバックパス。ボールは持ってるものの攻めれない。サイドと後ろばかりでボールを回し、相手にとってまるで恐さのない状態になってしまった。
 そんな腰の引けたサンフレッチェの攻撃は中途半端になりカットされると一気に長いボールを出される。それを甲府の攻撃陣は単独で持ち上がってしまう。まるでそこにDFが意に介さないといった有様に次第にサンフレッチェのDFは追い込まれるようになってくるとペースは甲府の方に傾く。そしてスルーパスからのシュート。それを荒木がブロックしたもののCKにされるとそこからショートコーナー。ここから裏抜けで折り返されるとゴール前で合わせられゴール。呆気ない失点をしてしまうのだった。早くも追う展開。そしてこれは甲府の計算通りのパターンなのだった。
 点を取らないといけないサンフレッチェ。その割に攻撃は停滞したままだ。トップのヴィエイラは空気と化し野津田、川村も有効なパスが出せない。そしてシャドーの森島もボールを持てない焦りから無謀なタックルでカードを貰ってしまう。上手くいってない。一体どうしてしまったのか。
 さすがにこの流れの悪さはハーフタイムでの選手の入れ替えを行うに至った。ヴィエイラ、森島に代えナス、エゼキエウが入る。するとエゼキエウのドリブルが甲府の守備に歪を与える。そしてナスが前線でのボールへの絡みを見せる。それにより全体が前に向けるようになる。やっと攻撃への姿勢が整ったのだった。
 ところがせっかく勢いが生まれてきたにも関わらずなぜかこの日はミスが多くそれによってブレーキを掛けられた感じがあった。右サイド茶島は敵にパスをしてしまい、その後ろの塩谷は不用意なボールロストを繰り返す。左サイド柏は相手を抜くことができず佐々木からのスルーパスにも追いつくことができない。そこで更なるテコ入れとして柏、茶島を野上、松本に代える。更に野津田に代えピエロスを入れ前線への強度を強めるも甲府の守備は崩れない。そこへ左からエゼキエウがドリブルで抜ける。DFと相対するとまた抜きスルーパス。そこへ飛び出した川村。角度のないとこから左足を振りぬくと逆サイドのゴールネットに突き刺さったのだった。
 決まった、決まった、決まった。いよいよ残り時間も少なくなっていたこともあり焦りもあったもののこの土壇場で決めてくれた。前半、まるで有効なパスを出すことのできなかった川村には批判の声も多かったが、決めるのは川村。ただそれは左サイドへとポジション移動をした結果でもあり、スキッベ監督の采配の的中でもあった。
 ところがここでそのゴールを演出したエゼキエウが座り込んでしまう。よりにもよってパスを出した時に足を痛めてしまったらしい。もはや交代枠は残されてない。残り時間このメンバーでやり過ごさなければならないのだった。
 もう1点仕留めたい。だが一人いないに等しい状態では守備の方が気にかかる。無理な攻撃はできない。これによって90分での決着がつかず延長戦に持ち込まれるのだった。攻撃を活性化させたエゼキエウに代わって入ったのがDFの住吉。それにより塩谷がトップに入る。その起用は塩谷が足をつったことも理由としてあるようだがその割には適当な浮き球を処理してナスにつないでくれる。更に一方ではピエロスが裏へのボールに対してDFに囲まれながらでもマイボールにするフィジカルの強さを見せる。それによりゴールに近づくことはできる。できるもののシュートまで至らない。
 甲府の守備の硬さ、激しさはを突き破れない。だが、激しいが故にバイタルエリアでピエロスがファールを貰う。FK。キッカーは満田。こういう膠着した試合だからこそセットプレーは貴重だ。そして右足から放たれたキックはGKの反応できないファーサイド。ゴールへと軌道を辿るもガツンとポストにはじき返されてしまうのだった。
 決めれなかった。せめて野津田がいれば左右のキッカーでGKに迷いを与えることができただろうにと悔やまれるのだった。
 延長戦後半が始まりいよいよ時間がなくなった。攻めて攻めて攻めまくるサンフレッチェ。もはや全員攻撃の体制に入りペナルティエリアに近いとこからクロス。甲府DFのブロックに遭うもここで笛が。ハンドの判定。思わぬところでPKの判定が出たのだった。
 絶好のチャンス。だがここで誰が蹴るのか。何とボールを持ってるのは満田だった。後ろでピエロスが自分が蹴りたかったという様子が伺える。だがそのまま満田がセットし主審の合図が入る。ゆっくりしたモーションからグラウンダーシュート。横っ飛びしたGKセーブ。この絶対的なチャンスを決めきることができないのだった。
 そのまま急いでCKを蹴るもゴールをこじ開けることはできない。時間は刻々と進んでいきそのまま延長戦を終えることでPK戦へと突入してしまうのだった。
 PKの上手いヴィエイラはいない。そしてGK大迫は今まで一度もPKを止めたことがない。それでも試合の中であれだけ1対1のセービングをしてしまう大迫はここで初めてのPKストップをやってくれるかもしれないという淡い期待を寄せた。が、結果的に大迫は全てのPKをまるでかすりもすることなく決められサンフレッチェは4人目のキッカー川村がコースの甘いキックに反応され止められてしまい試合は決してしまった。呆気ない、あまりにも呆気ない幕切れとなったのだった。
 結局サンフレッチェは準優勝の称号をまた一つ増やしカップ戦でのシルバーコレクターぶりをここでも発揮してしまった。振り返れば負けた要素は色々あった。エゼキエウの怪我による交代、満田のPK失敗、一度も止められないGK大迫のPKへの対応。だがそれ以上に前半の気のない戦いが全てだった。それにより早い時間で交代枠を使わざるを得ない状況になりそれが延長戦に入った時にあと一歩が突き進めなかったというとこがあるだろう。
 負けるのはしょうがない。でも同じ負けるにしても最初から本気でぶつかっていった潔さが見れたらもっと気分が違っただろう。負けるべくして負けた。優勝トロフィーを掲げる甲府の選手を眺めながらそんな想いが滲み出てしまうのだった。

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