鹿島戦~劇的逆転

2023年4月1日 鹿島アントラーズ vs サンフレッチェ広島 鹿島サッカースタジアム


 降り注ぐ日差しを屋根は遮ってくれることなく、アウェイゴール裏では直射日光を浴びる羽目になるのだった。ただしこの陽光は桜の開花に寄与したらしくスタジアム周辺は満開の桜が鮮やかに彩っているのだった。

 時折なびくそよ風は心地よい空気を運んでくれる。それが太陽の熱を緩和してくれるものの体感温度はやはり高い。それが運動量の多いサンフレッチェに影響を与えるかもしれない。そんな懸念を抱いたものの鹿島のメンバー発表により火が灯った。藤井が入ってる。昨シーズンまで在籍した右ウイングバック。そこはやられたくない。相対するのは志知。ここを止められるかどうかは志知自身にとっても大きなポイントになるのだった。

 試合が近づくにつれ段々と埋まってくるアウェイゴール裏。気づいたらほぼ空席が見当たらないくらいになっていた。そんな中で選手入場。白のセカンドユニフォームをまとったサンフレッチェの選手、顔ぶれは前節と一緒で個々の選手へのコールが起こる。中でも志知に対しては多くのコールが上がったのは皆思うところは一緒だったみたいだった。

 そんな中で始まったキックオフ。両者プレスを効かすことで高い運動量を誇った。サンフレッチェがボールを持つとバイタルエリアに入る前に跳ね返される。鹿島が攻撃に入ると3バックが壁となる。そんな展開が続いたものの鈴木優磨をターゲットとする鹿島はそこにボールを放り込むことでセカンドボールを拾い、はたまた鈴木が自らボールを収めることで徐々に鹿島は攻撃へと重心を高めることができるのだった。マークした荒木は競り合いでことごとく劣勢を強いられる。通常荒木が競り合いで負けることがないだけに鈴木の身体能力の高さは驚異的であるのだった。

 ゴリゴリと押し上げる鹿島。守備の時間が多くなり奪ってからはパスで打開しようとするサンフレッチェだったがそれが引っかかる。それにより再び守備を強いられる。パスワークをしたいサンフレッチェに対し肉弾戦に持ち込む鹿島。それによりサンフレッチェの攻撃の芽は悉く摘まれていくのだった。

 その流れに乗って藤井がサイドで仕掛ける。だがこれを志知は食い止める。スピードに乗る前に対処されるものなので今度は縦のスペースへ飛び込む。するとこれは佐々木がフィジカルで弾き飛ばす。藤井の特徴がわかってるだけにほぼ全て食い込めることができた。が、それに安心してると鈴木優磨が現れてボールをキープする。追い込んだと思ったらターンしてボックスに侵入する。クロスをGK大迫キャッチするも危ない。どこにでも顔を出し強引にねじ込む。やはり脅威であった。

 対するサンフレッチェのトップに立つナスは前線のターゲットとはなるもののボールが収まらない。一旦は収めるものの数人でマークされるせいもありトラップ側を攫われる。どうにもこの状況を打破できる見通しが立たない。それでもスキッベ監督は後半もメンバーを代えなかった。手詰まり感しかないのに動かない。一体どうしたんだろう。

 すると先に動いたのは鹿島。土居に代え垣田。なんとなく嫌な選手が出てきた。するとそれに呼応するかのようにナスに代えヴィエイラを投入するのだった。

 それでも鹿島は速い展開から前線のスペースへ走る。その速攻を後追いで止めたもののファールの判定。FKを与えてしまう。だがゴールまでは遠い。ゴール前へ一直線に並ぶ両選手。そこへサイド浅い位置から放ったFKは鹿島の選手が捉えゴールに飛ぶ。GK大迫も飛ぶ。が、セーブすることはできずゴールに入ってしまう。決めたのは知念。ああ、また知念である。この選手にはなぜか決められる。チームが変わろうとサンフレッチェには点を決めると言う厄介な選手なのだった。

 もはや打つ手なし。この全く望みのない状況に志知、野津田を下げ中野とエゼキエウを入れる。それにより中野が右サイドに入り満田が中に移動するという攻撃へのメッセージを与える。すると前線での2度追い、3度追いの場面が多く見られるようになった。そしてターゲットとしてのヴィエイラも機能してくる。サイドからのクロスが入る。ヴィエイラが飛び込んだもののもつれ合い倒されるもノーファール。それでもCKも増えチャンスの数は多くなった。

 でもこじ開けられない。サンフレッチェは1点を守るチームに弱い。その打開の為に森島に代わって鮎川が入る。それで何が変わるのか疑問があったもののここから更に攻撃のギアが上がる。エゼキエウがボールを持つ場面が増える。ヴィエイラの抜け出しが冴え渡る。そこで得たCKは東がターゲットとなるも弾かれる。が、クリアボールは中途半端でボックス内に落下。佐々木が拾い密集を避けドリブル。が、ここで倒れた。間髪なく笛が鳴る。踵を押さえる佐々木。どうやら後ろから引っ掛けられたようだった。

 PK。その瞬間アウェイゴール裏は総立ちになるもまだ決まった訳ではない。キッカーに注目されたがセットしたのはヴィエイラだった。固唾を飲んで見守る中スタートのホイッスル。ゆっくりとした助走から長身の長い足がステップを踏む。GKを見ながらタイミングを測りながらボールへと近づきキック。コースは読まれた。だがそれでもGKの手をすり抜けゴール隅に流し込んでいったのだった。

 同点。立ち上がるアウェイゴール裏。今度こそ本当に喜んでいい瞬間だった。だがそんなサポーターの喜びの中でヴィエイラはすぐにボールを取り戻しキックオフを急ぐ。同点で満足してない。まだ勝つ時間があると。

 するとお互い点の欲しい状態からオープンな展開に。鹿島の攻撃を食い止めるとワンタッチパスが通る。エゼキエウが縦へスルーパス。そこへ抜け出したヴィエイラ。斜め45度からのシュート。ポストに当たる。DFにクリアされるかと思った次の瞬間、リフレクションのボールはゴールのサイドネットに跳ね返っていたのだった。

 決まった、決まった、決まった。ヴィエイラ2ゴール。神がかっていた。このゴールに狂喜乱舞するアウェイゴール裏。吠えるヴィエイラ。先制されたことでもはやこれまでと諦めてただけにこのゴールは僥倖以外の何者でもなかった。

 残り時間はもうわずか。アディショナルに入り5分。ここを凌ぐために全員が守備に徹する。が、相手のバックパスについては前線の選手がなおもプレッシャーを掛ける為に追い回す。追って追って追い回す。奪えはしないもののパスの出しどころに制限が掛けられる。それにより有効なパスを送ることができずタイムアップ。見事逆転勝利を収めることができたのだった。

 勝った、勝った、勝った。どこをどう見ても勝てる展開ではなかった。まるでこれは天から垂らされた一本の糸を掴み取ったような感覚だった。決めるとこで決めるヴィエイラ。そしてそのゴールを導き出したエゼキエウ。昨シーズンも終了間際にダメ押しとなるゴールを決め、このスタジアムと相性がいい。劇的、あまりにも劇的な展開なのだった。

 やはりFWが点を取れると盛り上がる。かといって毎年怪我をしてしまうヴィエイラは酷使できない。ここをコントロールできるだろうか。勝利を讃えるチャントを繰り広げながらもふとそんな冷静さが頭を過ってしまうのだった。

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