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柏戦~ギリギリな中での劇的勝利

2022年8月14日 柏レイソル vs サンフレッチェ広島 三協フロンテア柏スタジアム


 眩しい日差しは肌を焼きこがすかのような強力さでアウェイゴール裏に立ってるのは苦痛だった。それでも日が落ちるに従ってその威力は衰えたもののまとわりつくような暑さは弱まることはなかった。中3日のサンフレッチェと1週間空きのあった柏。コンディションの面ではキツいことが想像できたが、ウォーミングアップで選手が現れるとそんなことは忘れてしまった。シュート練習では得点力のないナスがズバッと決める。もしかして覚醒してきたのだろうか。ぼくらはそんな期待を胸に気分を盛り上げていくのだった。

 日が沈んだ頃になって照明が落とされた。スタンドでは柏サポーターがペンライトにより光を点在させる中、選手が入場する。その中には左サイドとして出場の川村が含まれていた。前節途中出場ながらもゴールを決めたことが評価されたのだろう。

 そして柏のキックオフにより試合は始まった。前線から猛烈なプレスを仕掛ける。スタミナのことなどまるで念頭にないかのような追い回しでパスで移動するボールに食らいつく。その迫力は柏に前を向かすことを困難にし、高い位置でのボール奪取に繋げる。そして森島が右サイドでキープすると後ろから倒されFKを得るのだった。

 位置的に直接も狙えなくもない。キッカーに野津田という左足のスペシャリストがいるとこれだけで期待感が高まる。ゴール前で一列にラインを整える両チームの選手。そして野津田の左足が振り抜かれた。ゴール前へ飛び込む選手達。そして次の瞬間にはゴールに叩き込まれていた。一瞬、まさに一瞬の出来事だった。

 先制点。ぼくらはあまりにも早い得点に狂喜乱舞するも遠いサイドのゴールだけに誰が決めたのかわからなかった。アナウンスによりそれがナスだと気づくと2試合連続のゴールに驚愕する。やはりナスは覚醒したのかもしれないと喜び合うのだった。

 その幸先のいいゴールにより活気づいたサンフレッチェは尚もアグレッシブな姿勢を崩さない。川村も高い位置での攻撃参加に積極的に加わり左サイドからの崩しを試みる。だがそうそう隙を与えてくれない柏レイソルの守備に段々と精度が落ちていくと不用意なバックパスが相手へのパスとなってしまう。手薄になったサンフレッチェ陣内へ持ち上がる。それを荒木や佐々木の賢明な戻りによって防ぐのだがこれを機に柏レイソルの勢いが増してしまうのだった。

 そして引水タイムで試合が中断した時川村が倒れ込んでしまった。起き上がる様子がなくスタッフによる続行不能のサイン。何があったのか分からなかったもののこれにより交代、藤井が右サイドで入り柏が左に回るのだった。爆発的なスピードを持つ藤井であるがどうも守備に難があってこういう押し込まれる展開の時には不安であった。そして選手交代をした後は尚のこと防戦一方になり早く前半終わることを祈る。前に出してもちっともボールを繋ぐことができなくなりチームとしても後ろ向きにならざるを得ないのだった。

 ピッチの半分だけでボールが回ってる。柏レイソルのボックスに入る動きが多くなる。その都度GK大迫のセーブやDFのぎりぎりのプレイによって助けられるが際どい場面が続く。そして左から上げられたクロスが大きすぎたことで藤井が拾うことができた。すかさず逆サイドにクリア。が、これが相手の足元に入り結果的にパスになってしまい2次攻撃を生んでしまう。守備の間を通され前を向かれる。追いかけつつ2人で挟み込もうとするとペナルティエリア前で横パス。すかさず武藤のシュート。ゴールの脇に叩き込まれる。せっかくの早い先制点はあっさりと振り出しに戻されてしまったのだった。

 ハーフタイムに入りナスに代わってヴィエイラが入ってきた。せっかく先制ゴールを決めたナスも前線でちっともボールを収めることができなかったことが不利に作用したとも言える。これで前線にターゲットができただけに柏レイソルに混乱をきたすことも期待できた。

 ところが柏レイソルの前半の勢いは依然として続き圧力を持って襲いかかってくる。守備がバタついてしまう。右から入られたシュートに対して荒木がクリア。が、これが味方に当たり跳ね返ってくる。無理な姿勢のまま再びクリア。が、この方向が悪くゴールに吸い込まれてしまう。オウンゴール。何とも呆気ない逆転なのだった。

 暗澹なる気分だった。もうこれで終わってしまった。よりによってホームでやった時と同じスコアの推移で負けてしまうのか。ここから巻き返せるとはとても思えない。そんな諦めを感じさせてしまう程柏レイソルの攻撃は鋭い上に力強さがあるのだった。

 それでも気丈に手拍子を叩き続けるアウェイゴール裏に気を取り直す。前線のヴィエイラがターゲットとなりボールを収める。それによって押し上げがはかれるようになると今度は柏レイソルが守りに入るようになった。それを逆手に藤井が右サイドを駆け上がるようになる。相手のファールも増えFK、CKも得られる。それなのに中途半端なプレーを繰り返してしまう。藤井は勝負を避けバックパスばかり。野津田はFKを直接狙わず味方に合わせることばかりする。勝負しろ、勝負しろ。思わずそんな声が口から漏れてしまうのだった。

 前が詰まって後ろに下げてやり直し。ボールを奪われないのはいいがこれでは点が取れない。そう思った時、速いテンポで前線まで繋がったボールに柏のボックス内飛び出し。折り返しするもレイソルDFのマークに遭いコントロールできずもヴィエイラが後ろへ落とす。するとそこへ入ってきた松本。グラウンダーのシュートを放つとファーサイドに矢のように突き刺さったのだった。

 決まった、決まった、決まった。松本が決めた。相手守備網を縫うシュートはほんの一瞬の隙でもありそこしかない一点のコースだった。リーグ戦初ゴール。やっと、やっと決めたゴールは貴重な同点ゴールなのだった。

 そんな松本のゴールに感化されたのか、藤井が右サイドを勝負するようになってきた。クロスを上げても相手にブロックされてしまうこともある。それでもCKが取れる。そんな藤井のプレイに益々熱を上げるアウェイゴール裏。すると今度は縦ではなく中へカットイン。そのままアーリークロスはゴール前飛び込んだヴィエイラには合わず。素通りしてしまったもののボールはゴールに吸い込まれた。入った。入ったのである。藤井のゴールなのだった。

 逆転。思わぬ形のゴールに一瞬間を置いた後で再び狂喜乱舞するのだった。決して狙った形ではなかっただろう。でも勝負をするというゴールを姿勢が招いた。やはり勝負をしていかないと道は開けない。それを知らしめたゴールなのだった。

 再び追いつくべく攻撃へと舵を切ってきた柏レイソル。さっきまで防戦一方だったのが嘘みたいに圧力を強める。身体を張ったディフェンス。クリアするだけでなく前線に出たボールは満田が残る体力を振り絞って追いかけ回す。それによって時間が掛かることにより守備への安定度が増す。更には森島に代わって入った柴崎が巧みなドリブルで囲まれながらもボールをキープするのが時間の経過を促した。そして長い長いアディショナルタイムを凌ぎ切り勝利の内に試合を終わらすことができたのだった。

 勝った、勝った、勝った。何度も危険な区域にまで侵入されいつ決められてもおかしくなかった。よく粘りよく戦いよく走った。熱い熱いものが込み上げてきそうだった。だがこれは対戦相手の柏レイソルが真正面からぶつかってくる攻撃スタイルにも起因していた。

 強い相手だった。だけど試合を通してみると勝ち越しをした方が守りに入ったことによりその都度逆転された。心理的要素が大きく関わりまさに紙一重で決まったような試合だった。

 これで次は週末まで試合がないことで束の間の休養が得られる。怪我人も多くなってきた上に連戦による疲労を抱えてる選手もいるのでありがたい。

 柏駅までの長い道のり。その足取りは軽く幸福感に満ちていた。そしてぼくらはこれから合流するであろう新加入選手の話などで盛り上がった。更なる戦力の上積みは心強い。もしかしてナスが急に点を取るようになったのもそんな危機感の表れだろうかなどと話しながら雑踏の中を歩いていったのだった。

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