天皇杯愛媛戦~トルガイの魔法

2024年8月21日 天皇杯ラウンド16 愛媛FC vs サンフレッチェ広島 ニンジニアスタジアム


 天皇杯が残ってるというのは幸せなこと。昨シーズンが早々に敗退した為にそれは痛感するものの過密日程ではある。それだけにターンオーバーをするのかと思いきや3日前のリーグ戦と同じメンバーを組んできた。昨シーズンはメンバーを入れ替えたことでJ2栃木に負けたという苦い経験のせいだろう。

 ところが対戦相手の愛媛は完全なるメンバーの入れ替えをやってきた。そしてその中にはかつてサンフレッチェに所属した森脇良太がいる。初優勝に貢献した選手であり、入団間もなくこの愛媛FCへレンタル移籍して戻ってきた。他にも高萩、近くは川村が同じような経緯を辿りチームの中心となった。そういう意味でありがたいクラブであるが、愛媛にしてみればそれ故に叩きのめしたいというモチベーションがあるのが予想された。

 平日の夜ではあるが5,111人という観客の中試合は始まった。とっかかりこそさんフレッチェはカテゴリーの差を見せつけて愛媛にボールを触らせなかったものの徐々に愛媛の全身全霊を懸けたプレスに自由が効かなくなる。守備時には人数を掛けて5バックを整え奪ってからは速攻を掛けてくる。低い位置からのロングボールはなぜか前線に通るのはそれだけさんフレッチェが前掛かりになってるからだろうか。最終ラインを抜け出した。GK大迫と1対1。絶体絶命と思われたとこでのシュートは枠を外れたことで救われる。そしてこのシュートを打った選手、藤原というらしいがサンフレッチェユース出身ということを知る。この後この藤原が幾度となく危険なプレーに絡んでくるのだった。

 中盤での競り合いではボールを収めチームに前を向かせる。そして中盤からワンタッチで裏へボールが出ると抜け出した。荒木が着いたが広大に空いたシュートコースに打った。が、これも枠に収めることができず安堵のため息が出る。やはりこの試合に対する意気込みは強い。ただそれでもなんとか無失点で抑えてるのは決定力のなさに助けられてる部分はあるのだった。

 対してサンフレッチェにもチャンスは生まれてはいる。中盤で繋がらないと見ると前線へのロングボールにより裏抜けを誘う。が、その悉くを加藤はオフサイドに掛かってしまう。やはりこの辺が生粋のストライカータイプじゃない加藤をワントップに据えてるマイナス面がある。なんとか打開しようとFKのリスタートから川辺が意表をつくミドルシュートを放つも枠外。そして今度はゴール前の混戦で受けた加藤が振り向きざまシュート。が、これはGK徳重に防がれてしまう。うう、入らない。加藤はシュートは打つもののどうもGKに反応されてしまうのだった。

 なんとなく愛媛の方が押してるような雰囲気になってくる。そこには森脇が大声でチームを引っ張る姿があった。J1チームと対戦する貴重な機会だけに愛媛のプレーには執念がある。対してサンフレッチェは連戦からかどうにも動きが重いように見えてきた。やはりこの辺でコンディションの差があるのだろうか。そんな懸念に囚われながら前半を終えたのだった。

 そして後半、塩谷に代え中島が入ってきた。一人代えたくらいじゃどうにもならない。そう考えていたもののここで急にチームのギアが上がったのだった。中島がパスを散らし満田がそれを追う為に走る。それによりチームが押し上げることができ、前線でのボール回しができるようになっていった。前が詰まるとやり直し再び逆サイドから攻めていく。シュートがブロックされてもセカンドボールを収めて2次攻撃、3次攻撃と繋げる。もはや後は決めるだけ。が、この決めるだけがあまりにも遠いのだった。

 あと一押し、この一押しが欲しい。ここで選手交代。川辺、新井に代わってトルガイ、越道である。特にトルガイは違いを見せるプレーをするだけに上手く活かしたい。すると早々に右のボックス近くで加藤が受けた。DF2人がマークにつくもかわしてグラウンダーでゴールへ飛ばす。ゴール前に詰めたトルガイの足元に入る。コースを切るDF。フェイント、フェイントでシュート。このモーションに釣られ2人のDFは倒れシュートはガラ空きのゴールに叩き込まれていったのだった。

 決まった、決まった、決めた!トルガイ入って間もないゴール。まさにそれは魔術師の極みだった。シュートブロックに入った相手を倒すというのはセレッソ戦の再現だった。まるで漫画のようなプレー。『黒子のバスケ』の赤司というキャラクターを思い出させるのだった。

 これで点を取らないといけなくなった愛媛。当然攻撃的に来る意思はあるもののサンフレッチェも運動量を下げずにプレスで防ぐ。そして奪ってからはパスで引き剥がし中盤のトルガイへ。前を向き縦パス。加藤が最前線で受ける。ターンをして2人のDFと対峙するもシュート。相手の股下を縫ったグラウンダーはゴールの隅に走っていきそのままゴールに吸い込まれていったのだった。

 追加点。加藤、加藤が決めた。この試合も何度もオフサイドに掛かりシュートを打ってもGKに阻まれてた加藤がやっと決め切ることができた。努力が報われた。歓喜しつつもそこに安堵していた。が、それを演出したのはトルガイのパスだった。入って早々2点に絡んだトルガイはまさにこのステージでは異質な存在だった。後半の体力の落ちた時間にこの選手を出すのは反則技かもしれない。だがそれができるのも相手を消耗させたチームのパフォーマンスがあってこそだった。

 あと何点取れるか。そんな期待をしつつも試合はこのままのスコアで終わることになった。まあカップ戦なので点差が開いても無意味ではある。無難に試合を閉じることができたのは堅実だった。

 これによりベスト8進出が決まった。リーグ戦もルヴァンカップもACL2もある中で厳しい日程になってくる。そして今回の愛媛FCがそうであったように楽に勝てる相手はどこにもない。ただここを切り抜けることができればクラブとしても一段ステータスを上げることができる。それだけ他にもこのスタメンに割っていける選手が出てくることを願うのだった。

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