川崎戦~9戦ぶりの勝利

2023年8月19日 サンフレッチェ広島 vs 川崎フロンターレ エディオンスタジアム広島


 8戦勝ちなし。

 川崎との対戦成績である。その屈辱的な記録は川崎にサンフレッチェには勝てるという余裕を生ませほぼ一方的な試合になることが多い。川崎には勝ちたい。それはこの数年間の痛烈なる願いだった。その為の駒として満田が怪我から復帰してきた。ピエロスもコンディションが整ってきた。更にストライカーとして加藤陸次樹の加入心躍るとそれで止まらなかった。なんとマリノスからマルコス・ジュニオールが電撃移籍したのだった。アタッカーが不在のチームにあってこれは大いに活量を与えることであった。

 ただ、流石に合流したばかりとあってスタメンにマルコスの名前はなかった。それでもキックオフされると満田を中心に前線からのプレッシャーが嵌まる。ピエロスも最前線でボールへのアタックを繰り返す。そしてシャドーに入ってる加藤もハードワーカーな為に相手を押し込むことに成功する。するとCK。満田がセットしインスイングのボール。ゴール中央へ落ちるとピエロスがボレーで合わせた。ゴールに叩き込まれ先制点となった。

 「ピエロス、ピエロス、ピエロス!」

 数試合前までやはり獲得は失敗だったのではと疑念を抱いてたピエロスは立派に結果を出したのだ。これぞピエロス。セットプレーでのゴールのないサンフレッチェにとってこlれは非常に意味のあるゴールとなるのだった。

 この先制点で押せ押せとなる。更に前線から追い込みを掛けると川崎はテクニックを使ってボールを奪われない。プレスを潜り抜け、潜り抜け、潜り抜けると右サイドへの長い縦パス。スペースに抜けたボールに瀬川が追いつきドリブル。懸命に追う塩谷。しかしペナルティエリア深く切り込まれるとゴールを横切るラストパス。そこに飛び込んだ脇坂。ダイレクトで合わせられ同点を許してしまう。サンフレッチェが力技で決めたのに対して相手の裏を突いたいやらしい得点である。ここでこうやって易々と同点にされてしまうとこにまたかという想いがあった。

 ただ、そうであってもそこに悲観はなかった。振り出しに戻っただけ。そんな割り切った感覚になれたのはサンフレッチェが後ろ向きにならなかったせいである。そしてこのまま後半に入っていくと野津田に代わってマルコス・ジュニオールが入るとボルテージが上がった。実績のある選手だけに期待は大きい。スタジアムも湧き上がった。そして前線でのスペースを見つける動き、マークを着かれても失わない技術、周りを生かす球捌きでチームに再びギアを入れる。マルコスが入って明らかにペースが変わった。東から受けた縦パスをターンしてクロスを入れると加藤が飛び込み。そのシュートは枠には入らなかったもののいきなりの決定機の演出にスタジアムは更にヒートアップする。そして今度は右サイドに流れることで中野への落としを生みクロス。ゴール前でボールがこぼれると加藤が詰める。切り返しから決めれると思ったそのシュートはGKチョン・ソンリョンに止められる。あとちょっとだった。マルコスが入っただけで立て続けにチャンスが演出されるのだった。

 とはいえ最後の最後は締めてくる川崎の守備の手堅さを感じてもいた。この最後の壁をどう突き破るのか。左サイド志智にボールが入った時、追い込まれ行き詰まったかに思えるも東のサポート。そこからマルコスに出すとすぐに囲まれる。ターンしてかわす、かわす、かわす。4人ものチェックを外しそこからどう展開するかと思ったその時打った。速い弾道のボール。ファーサイドへ向かうとゴール片隅に突き刺さった。

 入った、入った、入った。ゴール、ゴール、ゴール。まさかあの状態で打つとは思わなかった。意表をつけたのは高い技術とシュート力である。こういう選手が欲しかった。いい場面はいくらでも観た。だけど決める選手がいなかった。マルコスの元へ集まるサンフレッチェの選手達。揃ってのカメハメ派のパフォーマンスを観た時、ああ、本当にマルコスはサンフレッチェの選手になったんだなと感慨深くなるのだった。

 これで勝ち越した。このまま引き離そう。そんな機運が盛り上がってた中、川崎はジリジリと攻勢を強めてきた。何度か決定的なシュートを放たれながらもGK大迫の好セーブに救われている。ここは踏ん張らないといけない。が、脇坂の逆を突く動きに完全に外されてしまいサイドチェンジをされてしまう。ガラ空きになった左サイド。慌てて左に寄せるもゴール前へ入れられる。そこへのマークは間に合ったもののヒールで落とすと後ろから入った山根のシュート。グラウンダーでゴールの隅にきっちりと流し込んでしまったのだった。

 また追いつかれた。

 なんでこのチームはこういうことをいとも簡単にやってのけるんだろう。ただ、逆サイドでフリーの選手に渡した時点でその危険は感じられた。最初の失点も右サイドの裏へフリーでもたれたところからだった。そういうフリーの選手を作ると必ず仕留めることができる。逆に言うとそういう状況を作ってはいけないのだった。

 それだけに終盤に向けて攻勢に出るサンフレッチェもカウンターだけは気をつけないといけなかった。押し込んでいるようでクリアボールを繋がれると簡単にゴール前まで持って来られる。特にマルシーニョに渡るとスピードで一気にゴール前まで持っていかれる。こういう選手が途中から出てくる川崎はやはり選手層も厚い。ここまできたからには失点だけはしたくない。両者勝ち越しを狙ってはいるものの守備の粘りも強くこう着状態に。いや、むしろ川崎の方がゴールに近づいているような印象すらあり、アディショナルタイム7分の表示にこのままドローで終わるのが無難なような気もした。

 GK大迫からのキックは相手DFにクリアされ繋げられるも途中出場越道が奪う。右サイドから斜めのピッチを切り裂くようなパスの先にはマルコスが。ワンタッチで裏へ出す。そこへ飛び出した満田。DFの追走を受けながらゴール目指して走る、走る、走る。前へ出るGK。距離がありながらも打つ。反応するGK。が、次の瞬間にはファーのネットにボールが収まっているのだった。

 決まった、決まった、決まった。ここで決めた。90分走り回った満田が決めた。そしてこのラストパスを送ったのはマルコス。早速試合を決定づける働きをした。正直なところマリノスでは途中出場が多く過度な期待はすべきじゃないと思ってたとこもあったがそんなことはなかった。素晴らしい、素晴らしき活躍。チームの中では小柄でありながらもその存在は大きく異彩を放つのだった。

 残り時間わずか。相手のロングキックを跳ね返しラインを割るとタイムアップの笛が鳴った。勝った。勝てた。川崎に9戦ぶりの勝利である。満田が戻ってきたことによりチームが前向きになり加藤のような前線で粘りとフィニッシュへの姿勢は活性化された。そこへピエロスがストライカーとしての牙を研ぎ澄ましマルコスが潤滑油となりつつも自らもフィニッシュへ繋げる。凄い、こんなにワクワクしたのはいつ以来だろうか。つい2試合前までの絶望感が嘘のように見違えてしまったのだった。

 早く次の試合が観たい。このチームの活況は中野や越道のような若手にもいい影響を与えるに違いない。今度はそういう選手が活躍するのを観たい。そんないい循環に入っていくことを予感させる勝利なのだった。

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