名古屋戦~熱き勝利

2024年8月17日 名古屋グランパス vs サンフレッチェ広島 トヨタスタジアム


 台風一過の影響か、尋常じゃない暑さに汗が滴り落ちる。豊田市駅からの道はひたすら真っ直ぐなものの直射日光が拷問のように照りつける。そしてスタジアムは見えてきたのに歩いても歩いても近づかない。まるでそれは月のように近づくにつれ遠ざかってるかのようだった。

 その為、スタジアムに辿り着くとホッとした。周囲には田畑が広がり長閑な風景。このロケーションで、どこから人が湧いて来るのか不可解であった。そしてスタンドに入ると屋根があるお陰で日差しから逃れることができたのはありがたく、体感温度がスッと下がったような感覚があった。

 選手のアップが終わり日が落ちてくると両ゴール裏は満席に近い状態となった。4万人の収容人数を誇るこのスタジアムがほぼ埋め尽くされてるのは圧巻だった。

 そこに照明が落とされる。瞬間スタンドのペンライトが煌めく。そんな中でのメンバー紹介。音響がこだます中、野上、稲垣、森島、パトリックと元サンフレッチェの名前が呼ばれると盛り上がってしまう。そしてゴール裏のチャントが繰り出されると選手は入場した。サンフレッチェは前節と同じメンバーだった。

 森島によるキックオフ。ロングボールの応酬にボールが宙を行き交っていたものの落ち着きを見せると名古屋は引いて守るのだった。結果後ろでボールは握れるものの前に進めない。前方にパスの出しどころがないのだった。最終ラインで左右に揺らしていくものの食いついて来ない。そこに業を煮やし縦パスを入れる。バクっと食いつくようにカットされカウンター。懸命な戻りで何とか食い止めたものの嫌らしい。油断がならない。ああ、長谷川監督はいつもこうやって悩ます。サンフレッチェにとっての障壁。どこのチームで指揮をしてもやり難い戦いをしてくるのだった。

 後ろで回す分には取りに来ない。そこで不用意なバックパスをGKに出すとそこを狙ってプレスを掛けてくる。なので中盤を飛ばしロングボールを放つ。これに満田が抜け出しシュートレンジに入る。DFによるスライディング。これをかわしてぎゃくを突きシュート。が、これが枠を大きく外してしまう。切り返しをしたまでは良かったものの枠に入らない。そこにぼくらは天を仰ぐのだった。

 ところがこの日の満田はいつも以上にシュートの意識が高く遠目からでもミドルシュートを放つ。強力な弾道でCKを誘発する。前目のポジションで出場してるだけに得点へのこだわりを見せている。そしてGKへのバックパスには誰よりも猛烈なプレスを掛けにいく。それによりキックにブレが生じさせることで相手ボールになるのを防ぐのだった。

 ただ、そんな満田の奮闘も空しく前半はスコアレスのまま終わる。そこそこ有利に進めてい流ものの何処となく決定的な崩しがない。後半から交代によりギアを上げるかと思いきやそのままだったのはバランスを優先したんだろう。ワントップの加藤も頑張ってはいるがなかなかそこを起点としての形ができなかった。それだけにCKを得た時にはそれを生かしたかった。名古屋の守備が崩れないだけにこのチャンスをものにしたい。

 しかし、新井からのキックは味方に渡ることはなかくこぼれた。ただその瞬間を見逃さず荒木がシュート。が、壁に当たりリフレクション。それを拾い右への展開から新井のクロス。左に流れ再び中野が入れるとゴール前のゴチャゴチャした中を荒木が脚を振る。当たり損ね。が、これが相手の間隙を縫うシュートとなりゴールに吸い込まれたのだった。

 ドワーッと立ち上がるアウェイゴール裏。激昂した荒木がスタンドへ駆け寄る。DFである荒木のゴールなどそう滅多に観れるものではない。それがこの緊迫した試合で風穴を開けたことに狂喜乱舞するのだった。

 先制の勢いは続き相手への自由を奪う。特にワントップのパトリックは荒木がガッチリとマークして収めさせない。ただワントップの比較で言えばサンフレッチェも加藤陸次樹のとこで起点になりきってない。加藤も奮闘はしている。裏抜けを狙ったり強烈な弾道のボールをトラップで収めたり。だがストライカーとしての存在感が薄いのは否めないのだった。

 現実に先制点を奪ったのはDFの荒木。そこにボールを入れたのもDFの中野。やはり本職のワントップに入るべき選手がみんな怪我をしてるのでこういうとこで点を取らないといけない必然を感じてしまった。

 そしてそんなDFの貢献はそれで終わらなかった。パス回しの中で右サイドから中野が同サイドの新井に出すことで前を向く。最終ラインに張ってた満田に出すと背後のDFから逃げるドリブルから松本泰志へ預ける。ワンタッチで叩いたのは右サイドのスペース。ここに中野がオーバーラップしていた。GKランゲラックと1対1。だがコースがないとゴール前を横切るパス。ここに詰めたのが加藤。転がりながらもゴールに叩き込むのだった。

 決まった、決まった、決まった。加藤が決めた。中野の守備から攻撃への切り替えも凄かったがこれまで献身的にワントップをやっていた加藤にゴールが生まれたことにアウェイゴール裏は喜びを爆発されるのだった。

 繰り出される陸次樹コール。もはやこれで決まった。むしろここからもっと記録を伸ばすべく点をとっていきたい。そんな気運に押され加藤、川辺を下げ井上愛簾、トルガイを入れるのだった。

 すると名古屋はパトリックに代えユンカーを出してきた。動くにしては遅い気がした。ここから2点差は追いつけるはずがない。そんな感覚に囚われていた時、押し込まれたことでブロックを敷いてゴール前を固めると左サイドからの展開。稲垣に入りゴール前へクロス。最終ラインの隙間を捉えるとそこに入ってきたユンカー。頭に当て決めた。ほんの一瞬のプレーだった。そこを突いてきた。それを決めるのがユンカーなのだった。

 いつもいつもユンカーには決められる。1点差になったことで余裕がなくなった。もはや点差を開くという野望よりも堅実な勝ち点3が優先されるようになった。前線へ出るとボールキープに固執する愛簾。だが若さ故か簡単に力負けしてしまう。勢いのある時はいいがこういう時に相手の嫌がるプレーというのができない。なので無難にクリアする場面が増えてくる。アディショナルタイム5分が掲示されタイムアップの笛を待ち焦がれる。相手ボールがラインを割ると一層大きな歓声がアウェイゴール裏から発せられる。ユンカーのマークは荒木が離さない。全体的に下り目になるのは致し方ない。もはや守りに徹することでついに鳴った。終了のホイッスルが鳴り響くとピッチに崩れ倒れたのはサンフレッチェの選手なのだった。

 勝ち点3。最後はユンカーの脅威に曝されつつも10年ぶりにこのスタジアムで勝った。そんなに長く勝ってなかったことに気が遠くなっていたものの一定の区切りがついたことに安堵する。そしてこの勝利に沸騰するようなコールがアウェイゴール裏から繰り出される。

 この結果により2位に浮上した。まだまだ苦しい戦いは続く。怪我人の多いFWの中で加藤にゴールがあったのは明るい材料であるが流石に加藤一人では負担が大き過ぎる。そんな不安要素を抱えながらもとりあえずはこの勝利を喜ぶ。暑い暑い名古屋での一戦はより熱く次戦への希望を繋いでいくのだった。


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