浦和戦~得点力不足を打破した2発

2023年8月13日 サンフレッチェ広島 vs 浦和レッドダイヤモンズ エディオンスタジアム広島


 ピースマッチと銘打たれたこの試合、浦和から多くのサポーターが詰めかけてくれたお陰で2年ぶりの指定席売り切れとなった。そのお陰でスタンドは多くの観客で埋められ白熱した雰囲気を醸し出していた。ただ、その熱量は満田の怪我からの復帰も大きいだろう。たった一人の選手が戻っただけで劇的に変わるような気がしない。むしろこれで依然としてチームが停滞していたらどうしようと不安にもなった。

 いきなりスタメンに入った満田。黙祷の後始まった試合では相手ボールホルダーには果敢にプレスにいった。ああ、怪我をする前のプレーのままだ。そして個での競り合いでボールを奪うプレーが出るとチームがそれに連動される。右サイド中野がいつもよりも積極的に前に行こうという姿勢がみれる。そして何よりもトップに入ったピエロスがターゲットとしてちゃんと機能していた。それにより前を向ける。志知も左サイドを上がっていける。加藤もゴール前に入り込み攻撃に厚みが増す。どうしたんだ。一体どうしたんだ。先週観た試合では夢も希望もないサッカーをやっていたというのにまるで同じチームとは思えないくらい前を向いているのだった。

 ただ、前から嵌めて行こうとするとGK西川やDFが正確なロングボールを蹴ってくる。それでもトップに来たボールは荒木がみんなヘディングで跳ね返してしまう。危険の芽は摘んでいる。後は前が点を取るだけ。それが最も難しい。CKから満田のキックを荒木が合わせたもののあれだけ完全にボールを捉えておきながらまたしても枠に入れることはできなかった。ピエロスもペナルティアリアに入ると自ら打っていってはいるがその度にGK西川が壁となってしまう。浦和は守備の戻りが速い。サンフレッチェも速攻すべき場面でもたついてしまう。やはり染み付いた悪癖は払拭されようもなく浦和の攻撃が続いていくようになるのだった。

 DFの奮闘によってギリギリでクリアするもCK。クリアしてもまたCK。苦しくはあるもののそこは弾き返してくれた。が、浦和の最終ラインであるホイブラーテンへ入った時だった。一番近くにいたピエロスはプレスに行かずに次の展開に備えていた。するとフリーになったホイブラーテン、ロングキックを蹴る。最終ラインで受けたホセカンテ。ターンをするとポッカリマークが外れてシュート。ライナー製のボールがゴール隅に飛ぶ。GK大迫の横跳び。が、触ることもできずゴールに突き刺さってしまった。

 やられた。たった1本のロングキックによって決まってしまった。ホイブラーテンの正確なキック、ホセカンテの一振りで決める決定力とパンチ力。それらは賞賛に値するものだった。が、あの一瞬ぽっかりと守備に穴が空いたのも事実だった。いつもそういうとこを決められる。それは前節と同じ光景だっただけにこのまま追う展開のまま時間だけが過ぎていくような気がしてきた。せっかく上手く入ってると思ってたのに。せめて前半だけでも踏ん張ってほしかった。

 その想いが強くなったのは後半満田がヴィエイラと交代したからだった。チーム得点王でありながらもここ最近はどこか気の抜けたようなプレーの目立つヴィエイラに満田の強度は期待できなかった。そしてもう一人、右サイド中野に代わって越道の投入である。こちらも最近空回りしてる印象があっただけにどことなくギャンブルのような気がした。

 ところがヴィエイラはボールに食らいつく。適当なボールでも収めてしまう。いい時のヴィエイラだった。どうしたんだろう。これはマリノスからマルコス・ジュニオールの加入が決まったことも大きいだろう。そして何よりも前半のチームの攻撃姿勢に触発されたのは間違いない。こんなところでも満田の復帰は大きいと痛感させられたのだった。

 前線でのタメができるので両サイドも上がりやすい。志知が左サイドを駆け上がるとクロスを入れる。中で待ち構えるヴィエイラがシュートまでこじつける。右サイド越道も1対1では果敢に勝負を挑む。負けても再度ボールに食らいつく。そういうプレーの一つ一つが心躍る。ああ、サンフレッチェを応援しててここまで熱くなれたのは何ヶ月ぶりだろうか。まるで今までの停滞した雰囲気が嘘のようだった。

 最後列からの組み立て。そこでいつも中盤への預けどころがないのだが右の塩谷は縦へ長いグラウンダーのボールを走らせた。浦和最終ラインを抜けるスルーパスになり加藤が抜ける。ホイブラーテンが追いつきスライディング。それを切り返し。そしてニアにシュート。コースを切ったGK西川のほんの少しの隙間を射抜いた。ネットが揺れた。入った。決まった。追いついた。

 歓喜が爆発する。得点力不足の中、このゴールは数試合分の厚みがあった。そして新加入の加藤陸次樹が決めたというのが大きかった。アタッカーとして最も求められることができた。これにより新たなヒーローを得たような気になったのだった。

 このゴールはサンフレッチェに火をつけどんどん重心が前掛かりになる。でもそこは浦和の壁も厚い。そこでピエロスに代えナスを投入するも流石にこれはゴールは望めそうになかった。ただ、勝ち点1だけは得られる。連敗続きだった為にそれだけでも成果であったものの塩谷は最終ラインから上がってミドルシュートを打ち込む。やはり勝ちたい。でも時間は過ぎていく。そしてついにアディショナルタイムへと突入した時、浦和も最後の力を振り絞るように攻勢に出てきた。身体を張って食い止める。手堅くクリアする。そこにヴィエイラが待ち構えていたのだった。

 ところが速い寄せで跳ね返されると川村がフォローで収める。逆サイドへ向かうダイアゴナルパス。フリーのナスに渡るとゴールに突き進む。GK西川との1対1。距離はあるものの打った。入った。GKとゴールのわずかあった隙にぶち込んだのだった。

 逆転。決まった、決まった、決まった。あれだけシュートを外しまくってたナスがこの最後のチャンスで決め切った。やはりこの日は何かが違った。興奮した。久しくなかった感情が湧き上がるのだった。

 このまま2-1で終了。7試合ぶりの勝利だった。そして複数得点は2ヶ月ぶりのものであった。長い長いトンネルを抜け出したのだろうか。新加入選手の動向が刺激になったのは間違いないだろう。誰が出ても結果が出ない状態から結果を出さなければ出れない状況へと変わったのである。そして何よりも満田の復帰が大きかった。高い位置からのプレスができることで今まで全く前に出れなかった右サイド中野も出れるようになった。志知も左サイドから何度もクロスを上げることができた。そして何よりも試合を観てて熱くなることができたのだった。

 マルコス・ジュニオールの加入が発表され一層選手層が厚くなる。またチーム内での競争が大きくなる。前節の絶望感が見事に払拭され今度は希望と期待が募っていくのだった。同じチームなのでこうも変わってしまうとは。改めてチーム作りの難しさを知ると共にそれを打破した時の爽快感にいつまでも酔いしれるのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?