名古屋戦〜采配が的中した逆転勝利

2023年9月30日 サンフレッチェ広島 vs 名古屋グランパス エディオンスタジアム広島

 雨上がりにより濡れたピッチが照明の光の反射を受け、夜空とのコンストラストが神秘的だった。そんな中での選手紹介。名古屋にはサンフレッチェから移籍した稲垣、野上、森島が揃って名前を連ねていた。因縁の対決。だがそれ以上に存在感を放つのが長谷川監督だった。この監督はなぜかサンフレッチェの障害となる。どこのチームに移っても大きな壁として立ちはだかるのだった。
 上位の成績で終わりたい故に勝ち点3がほしい。その為のスタメンは前節と同じ。無得点で終わった前節の借りを返したい。前線のピエロス、マルコスはスタートから高い位置でのプレッシャーを続けるのだった。
 それにより名古屋の押し上げを阻止していた。低い位置でのボール回しにプレッシャーをかけ続ける。が、テクニックのある名古屋の選手は個で裏返すと前線へ一気に当ててくる。が、最終ラインがクリア。相手の攻撃を食い止めることにより再び前を向くことができるのだった。
 そこまでは上手くいってる。が、名古屋のDFはゴール前へ鍵を掛けるのも速い。更にカウンターの場面が訪れるもトップのピエロスのプレーがいつも中途半端になることでフェードアウトしてしまうのだった。打てばいいとこを打たない。前線のポストプレーではボールを収めきれない。そして左サイドから志知がクロスを入れたとしてもターゲットとして機能してない。ああ、ピエロス。絶対的エースになると思ってた期待はもはや幻想なのだろうか。だがそんな嘆きを感じてた時、サイドを抜け出しシュート。逆サイドへ入れる。飛び上がるサポーター。が、オフサイドの旗が上がってしまう。ああ、惜しい。だがオフサイドとはいえシュートまで辿り着いたのは希望でもあった。
 そしてシュートシーンはもう一度訪れる。最終ラインでターンしてシュート。決まった。今度こそ決まったと思いきやこれもオフサイド。それならばと川村が遠目からのミドル。が、これもバーをぶち当て跳ね返る。あともう少しのとこで決めきれない。だが今度はこぼれ球をミドル。直線的なボールがゴールに突き刺さる。決まった。これは文句ない。と思ってたらまたしても副審の旗が上がってる。オフサイド。どうやらピエロスが出てたようだ。ああ、ピエロス。せめて味かたのシュートは邪魔しないでくれと嘆くのだった。
 一進一退。どちらも譲り合わない展開でありながらもどちらかというとサンフレッチェの方に有利に傾いてる。その為か、ハーフタイムを挟んでもメンバー交代はなかった。その一方名古屋は代えてきた。前田、森島に代えて永井、内田である。永井、これが厄介だった。スピードを使って一気に窮地に追い込んでくる。攻めれば攻める程守備を固め奪ってからのカウンターが効きやすい。嫌な予感がした。そしてその嫌な予感は具現化されるのだった。
 固く閉ざされた守備ブロックに絡め取られるとロングボールで一発を狙われる。だが競合いでは荒木が全てクリアしてしまう。ところが生半可足元に入ったボールだったが為に一瞬処理が乱れた。それを見逃さなかったユンカー。ボールを掻っ攫うとそのままゴールまで一直線。荒木が追走するも身体を入れられた。GK大迫が飛び出す。するとそれを見越したループシュート。ふわりと浮いたボールがゴールへと落ちていく。実にゆっくりとした弾道。それを無情にも眺めるしかできないのだった。
 失点。なんと落ち着いた対応。ユンカー。またしてもユンカーである。この選手にはいつもやられる。どんなにマークについてようが一瞬の動きできめてしまうことに気が遠くなってしまうのだった。
 もはやこの試合は決まったかもしれない。同点にすべく前がかりに出るものの完全に名古屋にとって都合のいい展開になっている。そこを打開すべくメンバー交代。ピエロス、マルコスに代わってヴィエイラ、エゼキエウである。ピエロスはともかくマルコスは受けて捌いてのプレーができる為勿体無い気がした。が、エゼキエウは単独でボールを持ち上がるプレーを見せ、ヴィエイラはポストプレーで前線を活性化する。それにより名古屋の守備の城壁が揺らぎ始めた。ただそれでも決壊さすまでにいかない。そこで交代を告げたのは中野、志知の両ウィングだった。
 確かに両翼が突破できなくなっていた。クロスが上がらなくなっていた。それでも守備で破綻させることはなかっただけに安定はしていた。代わって入った越道と東、これは博打的でもあるのだった。
 すると早速右サイド越道にボールが入る。マークに着かれる。凍りついたような間があった。が、一瞬にしてギアを上げ抜け切る前にクロス。ゴール前へ勢いのあるボールがスワーブ。そこへ飛び込んだのが加藤。脚を伸ばして当てるとゴールネットに刺さった。今度こそオフサイドもない。
 決まった、決まった、決まった。同点。越道ファーストタッチでアシスト決めてしまった。そしてそこに合わせた加藤。正に電光石火のような鋭さだった。
 盛り上がりスタジアム。応援のコールが一層熱を帯びる。この機に畳み掛けたい。名古屋も点をとりに来た。その分スペースが空きオープンな展開になる。左サイドでのショートパスがこ気味よく回る。それによりヴィエイラが抜け出した。完全に打てる。その時倒れた。後ろから捕まれてしまったのだった。
「ファールだろ!」
 誰もがそう叫んだ次の瞬間主審からPKのサイン。そこに色めき立つ。蹴るのはヴィエイラ。いつも左に蹴るがGKランゲラックは読んでるだろうか。そしてスタートのホイッスル。間を置いた助走。蹴った瞬間ランゲラックは左に飛んだ。が、ボールが飛んだのは右。見事逆を突いて逆転に成功したのだった。
 ドワーッと揺れるスタジアム。ヴィエイラのチャントが鳴り響く。勝てる、勝てる。あとは耐えればいい。だがダメ押し点を決めたい。そして勝ちを確固たるものとしたい。そんな熱気に包まれ勢いはますますヒートアップするのだった。
 右サイドにボールが渡る。迷うことなく縦へ抜けクロスを上げた越道。ゴール前を横切るボール。逆サイドから加藤が打つもブロック。ルーズボールが飛ぶとエゼキエウの頭。GLランゲラックも間に合わず入ったのだった。
 追加点。2点差。勝利に向かって大きく大きく前進。左右に振れた中で最後のフィニッフュは正に稲妻だった。技術がありながらどこか結果が残せないでいたエゼキエウ。ここで決めた追加点は非常に貴重なゴールでもあるのだった。
 交代による采配が全部当たった。だがそれはスターティングメンバーがそこまでの布石を打っていたものでもあった。長谷川監督の上を行けた。それは岩壁を突き破ったかのような爽快感がある。このまま試合を終え3-1での逆転勝利。前半オフサイドにより何度もゴールを取り消され味方のミスによる失点。そこから盛り返したこの勝利。それぞれの選手が持ち味を出しそれぞれが結果を出す。そんないい循環をシーズンを通して観たかったもののせめて残り試合だけでも爪痕を残して欲しい。少しでも上の順位。曖昧な目標ながらもそこに想いを馳せながらも幸福感に酔いしれるのだった。

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