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有人機・無人機の人材育成における共通項と学びとはー「空の産業教育」対談

今回は、埜口(のぐち)裕之様、渡邉 昌利様と、スカイピーク代表 高野の対談が実現。航空業界における人材育成に長年携わっているお二人に、新たな「空の産業」といわれる無人航空機の人材育成との共通項や連携の可能性についてお話を伺いました。


戦前から続く航空人材教育


スカイピーク代表 高野(以下高野)本日はお時間をいただきありがとうございます。早速ですが、貴校について教えていただけますか。

学校法人 日本航空学園 理事長補佐 兼 公益財団法人 日本航空教育協会 常務理事 埜口(以下埜口)こんにちは、よろしくお願いします。

学校法人日本航空学園は、1932年に創立された日本国内では最大かつ最古の航空従事者養成の専門校です。航空局からの要請を受け航空飛行士の養成を目的とした乗員養成所として、国からの委託生を受け入れ、約2000名を抱える日本で最大の航空学校としてスタートしました。

現在山梨県に「山梨キャンパス」、北海道に「新千歳空港キャンパス」、石川県に「能登空港キャンパス※」、東京目黒に「東京キャンパス」と4つのキャンパスを持ち、『日本航空大学校 北海道』『日本航空大学校 石川』『日本航空高等学校 山梨』『日本航空高等学校 石川』『日本航空高等学校 北海道』『日本航空高等学校通信制課程』『日本航空高等学校附属中学校』の学校運営を行っています。

※現在令和6年能登半島地震被災後、東京・青梅に機能を一時移転

能登半島地震により本学園の能登空港キャンパスは甚大な被害を受け、救難の前線基地、復興の前線基地として国に施設を提供しております。発災直後から理事長が東奔西走し、本年4月から東京都青梅市の明星大学青梅キャンパス跡地に展開し学びを継続しています。

私たちの学園では、生徒たちの夢を大切にしています。航空機が大空を自由に飛ぶように、生徒たちにも自由に夢を描いてほしいと考えています。一方で、航空の世界では安全が何より大切です。自由に夢を追いかけながらも、安全意識や規律をしっかり身につけてもらうことを重視しています。
国内だけではなく、世界中から留学生が来ていますので、国際的な環境で学べることも、学園の特徴の一つです。

これまでに56,500名を超える卒業生を航空業界に輩出しており、本学園の卒業生が日本の空を支えているといっても過言ではありません。

高野 埜口さんとは、航空業界における人材教育の大先輩として、数年前からのご縁以降、定期的に意見交換をさせていただいています。無人機にも繋がるお話も多くあると思いますので、ぜひご意見をお聞かせください。

空の産業の担い手が不足

埜口 本題に入りますと、率直に言ってパイロットも整備士もグランドハンドリングスタッフも不足している現状があります。以前から「2030年問題」と言われており、大量採用された航空従事者が一斉に引退することで人材が減少します。コロナ禍により、航空業界が一時停滞しましたが、現在はインバウンド需要の高まりとともに人材不足の課題が再燃し、改めて危機感が高まっています。

学校法人 日本航空学園 日本航空大学校 学長補佐 兼 公益財団法人 日本航空教育協会 航空教育事業担当 渡邉(以下渡邉)渡邉です、よろしくお願いします。

人材不足は国内に限った話ではなく、特にパイロット、航空エンジニア、航空整備士、などの人材は国境を超えて取り合っている状態です。キャビンアテンダントは現在も人気がありますが、コロナ禍を経て一部で「不安定な仕事」という印象がついてしまいました。

高野 人材不足のお話は、確かに聞く機会が増えている印象です。航空業界(主に有人機観点)として、どのような取組みをされているかご紹介いただけますか?

埜口 私自身も国が主催する検討会に参加しています。人手不足の課題対策に向けた会合で、直近ではパイロット、航空整備士の人材確保・活用に関する有識者会議がありました。

一方で中高生や先生方へ、空の仕事にいかに興味を持ってもらうかという点で、例えば修学旅行で羽田空港に来るタイミングで空港内の制限エリアやバックオフィスに入り、実際の業務を間近で見られる見学ツアーを数十の高等学校に向けて開催しています。

高野 高校生達が空港のバックヤードを見られる機会は貴重な体験ですね。

埜口 私たちの以前の仕事場でもあり、その頃からの縁のおかげです。そうやって、パイロットやキャビンアテンダント、整備士、グランドスタッフ、グランドハンドリングスタッフなどの職業を紹介しています。グランドハンドリングとは航空機地上支援業務のことで、飛行機の運航に必要不可欠な様々な業務担当の総称です。具体的には、航空機の誘導、機内・機外の清掃、乗客への案内、荷物や貨物の受託・積み下ろし・引き渡し、燃料補給などの多岐にわたる作業を行っています。

また、整備士については特に不足していることから、この職業に触れてもらう機会は大切です。そもそも機械離れと言いますか、若い世代の好みも変化してきていますよね。油にまみれて整備をするような仕事よりもスーツやPCでの作業に関心が高くなっています。その結果、以前のような「メカ好きな学生」が減り、整備士に憧れる人も減少しています。これはまずいと感じ、我々も様々な取り組みを進めています。

もっとも現在の航空整備士は、機体の一部に不具合(故障)が生じた際にも、単に修理・交換をするのではなく、その不具合の発生時期、程度や箇所を基に、他の航空機での不具合発生の有無、および不具合の根本的な原因を特定、分析し、航空機メーカー等に対して、改善の提案を行う。言わば航空機そのものの品質を進化させる技術者としての役割が求められています。

高野 そういった中で、有人機の整備士については、例えば引退された自衛官の再雇用や外国人材の活用、ドローンをはじめとした新技術を活用した省人化など、これまでより少ない人材で業務に対応していく方向性になっているわけですね。

ドローンも、一種・二種といった型式認証がはじまった中で、今後機体整備の必要性が高まることを想定して動いている企業も出てきています。次第に、以前より航空業界で活躍されている皆さまと、お互いが見える距離感に近づいてきているような印象もありますね。

埜口 実は本校でも今後、入学した学生達にドローンの国家ライセンス(二等無人航空機操縦者技能証明、以下二等資格)を取得してもらう取り組みも始まりますよ。

高野 学生全員にですか!それはすごいですね。

埜口 はい。ドローンの二等資格の勉強を通じて、全ての学科の学生たちがベーシックな空の知識を得ることができるという利点があります。本校を卒業することでドローンについての国家資格も取得できるのは魅力の一つといえますよね。

過去の苦い経験や教訓から積み上げ作られた空のルール

高野  「安全」というテーマについて、少しお話を聞かせていただけますか?

埜口   安全は、二つの重要な要素で成り立っていると考えられます。一つは確かな仕組み、もう一つはそれに関わる人々の責任ある行動です。

確かな仕組みは、ルールのことです。航空業界では、安全を確保するためのルールが細かく定められています。これが安全の土台となるわけです。

しかし、ルールがあるだけでは十分ではありません。そのルールを守る人がいて初めて意味を持ちます。ルールを守らない人が一人でもいると、安全のバトンを次の人に渡すことができなくなり、安全の連鎖が途切れてしまいます。

埜口 私たちの学校では、安全に対する意識や責任感を育む教育に力を入れています。特に航空分野は、過去の先人たちの苦い経験や、時には尊い犠牲があってこそ今の安全があるといえます。

これまでの経験や教訓が、さまざまな安全の仕組みとして形になっています。その仕組みに新しい技術を取り入れたり、世界的な基準を反映させたりしながら、常に進化させています。

結果として、現在の航空安全のルールは、過去の教訓と最新の技術、そして世界標準が融合したものになっています。これらのルールを学び、守ることが、航空業界で働く私たちの重要な役割です。

渡邉 どんなに素晴らしいルールがあっても、そこで働く一人一人が安全への意識を持って仕事に臨まなければ、本当の安全は保てません。航空の安全は、ルールと人の意識、両方が揃って初めて実現するものです。

埜口 ドローンも同じかと思います。高野さんとはこの点でよく意気投合するのですが、ドローンの世界ではまだ歴史が浅く、様々な経験が積みあがっていない現状なのかもしれません。

有人機同様にドローンも管制の必要性もあるでしょうが、有人機に比べて桁違いの台数が空を飛び回る時代がきますよね。人による管理は難しいだろうと想像します。

高野 おっしゃる通りです。令和6年3月末までに38万機以上の無人機が登録されています。余りに数が多いので、有人機と完全に同じやり方で管理するのは現実的に難しいかもしれません。

こういった背景も鑑みると、共通の部分は当然にありますが、無人機の現状に合わせたルールや仕組みを最適化していく必要性がありますね。安全をいかに担保し維持していくかが重要です。無人機も今後の教育(人材育成)の中身においても、これまでの事故事例やヒヤリハットなど過去の経験を活かし学ぶことが、より必要になってきていると感じます。また実際に弊社もお客様から、安全運用に向けた相談も増えてきています。

埜口 そうですね。航空事故の場合は自動車事故と違って、世界中で情報が共有されます。例えば、日本の運輸安全委員会という事故調査機関の報告書は、全世界で共有されます。目的は同じ事故を繰り返さないためです。この仕組みが航空安全を支えているんですよ。

高野 大切ですね。この考え方は、無人機に関わっている私たちも改めて認識しておく必要性を感じます。

人の想いを運び、人の命を預かるやりがいある仕事

埜口 航空に関わる仕事は、ただ人や物を運んでいるわけではなく、お客様の命を預かり、人々の想いを運んでいます。この働きがいややりがいをわかってほしいですね。

決して易しい仕事ではないですが、責任が重く、やりがいと働きがいがある仕事です。皆さんには果敢にチャレンジして欲しいです。ややもすると、給料いいのかとか休めるのかといった条件面に目がいきがちですが、当たり前ですがみんな真面目に取り組んでいて、本当に一人も不真面目な人がいない魅力ある職場なんですよ。

渡邉 そうですね。先ほど言ったように、この仕事は細心の注意が必要です。例えば、飛行機のドアの開閉も社内資格が必要です。また預かる手荷物に危険物が入っていないかを確認することも大切です。普段の何気ない行動の中にも、安全を確保するための重要な作業がたくさん含まれています。

仕事の責任は重いです、それ故とてもやりがいのある仕事だと思います。

埜口 この責任の重さを理解して仕事に取り組むことができれば、本当にやりがいのある素晴らしい仕事だと心から感じられると思います。

最後は私たちの想いになってしまいましたね(笑)

高野 素敵な想いを聞かせていただきありがとうございます。お二方は航空業界の大先輩ですので、引き続き意見交換をさせてください。空の産業を盛り上げるために、私たちは無人機に関わる教育や人材育成の観点から貢献できるよう尽力していきます。本日はどうもありがとうございました。


航空業界で長くご活躍されている二人にお話を伺い、共通項や学びが多くありました。埜口様、渡邉様、ご協力ありがとうございました。

次回もお楽しみに!