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トラウマと跳ね返り精神

 ズームでの研修が続いています。
先日、トラウマを抱える子どもや家族を、幼児教育現場でどのようにサポートすることができるかという研修に参加しました。人間の脳の働きについて、片手を使った説明がとてもわかりやすかったので、みなさんと共有してみよう、と思いました。


 ヒトの脳は、それぞれの部位がお互いに複雑に連絡を取りあって機能しています。ここで紹介する図は、あくまでもトラウマと脳の働きを理解するために簡素化したものです。

大脳皮質のはたらき

 外界からの刺激は、通常、視床(脳の中間部分にある)で察知され、情報処理をする高度で複雑な機能を持つ大脳皮質(脳の外側)で、刺激に対する反応を決定します。大脳皮質は、五感、言語、記憶などを駆使して、脳の他の部位(海馬や偏桃体)とも複雑に連絡を取りあいます。

 トラウマが子どもの成長に影響を及ぼすのは、この大脳皮質への連絡路が、機能しなくなる場合があるからです。

偏桃体へ直行

 幼少時に不快な刺激、怒り、淋しさ、哀しさ、落胆などの感情をくり返し経験すると、その感情は、言語化やその他の処理が大脳皮質でなされないまま、不安や怒りなどとして、偏桃体という部位と直結して、太くて安定した神経回路を構築します。 

 偏桃体は、高等脊椎動物(主に哺乳類など)の脳にあるアーモンド形の神経回路の集まり。基本的(あるいは原始的)感情と直接つながっていて、生きのこるための価値判断をします。たとえば、原っぱを駆けまわっているリスがドングリを見つける。「お、どんぐり見つけた。おいしそう。冬に備えて食べよう」(食欲)と、ほっぺたを膨らまして食べる。そこへ、遠くから人の足音が聞こえる。「うわ、やべえ、人間が来る!」と、一目散に逃げて隠れる(敵か味方か?)こんな感じでしょうか。

 偏桃体への直行ルートが太く安定してしまうと、大脳皮質へのルート(四本の指がパカッと開く)をえらばず、直感的な判断をする偏桃体へ直行します。不安や怒り、落胆、淋しさを刺激されると、脳は直行ルートを選び「生き残れ!」と叫ぶのです。

 ここで、直行ルートについて講師が言いました。

「雪の積もった日には、わざわざ雪をかきわけて進むより、何度も踏みならされた雪道をたどるほうが便利でしょ」

確かに。

 子どもたちの言葉にならないシグナルはさまざまです。トラウマによって頑なになった感情から生きのこるために、何も言わずおとなしくしている子、生きのこるために周りの友だちや兄弟姉妹に乱暴をはたらく子、眠りの浅い子、身体に症状のでる子、盗み癖を身につける子、嘘をついてしまう子……  

 子どもと接する仕事に就いて、かれこれ20年ほど経ちますが、どれほど辛い状況にあっても、どの子どもたちも、例外なく、平等に、”Resilience”「跳ね返り精神」をもって生まれてきている。この跳ね返り精神をわたしはずっと信じたい。

 それは、彼らの好奇心に根づいているものだと思います。子どもたちと接する仕事に就く人間にできることは、その好奇心が目をだす瞬間を、しっかりとつかむこと。

 君の感じている「これ不思議!」「うわ、すげえ!」「おもしろ~!」には、計り知れない価値があるんだよ

ということを伝える仕事。それはすなわち、君は存在しているだけで価値があるんだよ、というメッセージを送ること。

 それは、彼らが、この先もっと広範囲な社会に出ていくときに、辛いことがあっても、”LIFE IS GOOD" という基本を保つことのできる種のようなものだと信じている。

おまけ

 昔々、幼児期発達科の児童心理学の論文で、愛着障がいを課題に選んだときにも、脳の働きについてそれなりに学んだのですが、何年もたって、誰かに説明しようとしても、言葉で的確に説明できない。理解したつもりでもしていなかったのか、英語で学んだので、脳みそに定着しなかったのか…(ということは、私の脳みそは、海馬の記憶装置と大脳皮質がうまく連携をとっていないということじゃないか?!)。今回は、図と活字にして、みなさんと共有することで、しっかり脳みそに定着しますように。

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