Intermission(本日はおやすみ)~虹を虹に還した朝~

その悲しい出来事がどうか起こらないでと願った時虹はその窓の風景に優しく懸かって、だからといってその出来事がなくなりはしなかったーそれは記憶にあるうちで一番悲しい一週間のはじまり―それ以来虹は私には悲しい出来事の前触れだった。今日眼下にひろがる冷え切った町の上いつまでも巻き込み続けている灰色雲に小さな青空が浮かんでは消え―そんな空に、小雨の音が枯葉を打ち始めるなかで滲むようにかかってゆく虹を観ながら、その悲しいことは起きないでほしいと心は云いそして、悲しい出来事のための気持ちの準備もしようと言いたい自分ともまた目が合う。けれど眼は景色を観てーどちらの脚も街のビルの間にある…ああ、教えてあげられたらいいのに、あなたのベランダから虹が生えてるよ、見知らぬだれかさん―と不安に潰されないために空気を取り込もうとする―おきない、おきない、そんなことになっていない…今朝は、嬉しい出来事が待っていた、そんなことになっていないで。そして小さな青空を広がりゆく晴れ間と読んだ私は無断借用の軒下ですら待ち続けることができず結局冷たい雨の中に踏み出した。けれど、それは雨中を歩くに十分な嬉しい出来事が起きた後だったからだ。ならばこれは虹に割り当てた前触れの役を終わりにするよい機会。目の前に架かる虹のたもとへ、だれとの約束も時間も気にせず私は今も駆けだす。間に合ったことは今のところない。そして多分いつでも虹はでているのではないだろうかと近頃思う―誰ー人の目にも映らない瞬間も、だれ一人の眼にも映像を結んでいない時にも。そして瞳に映り込むとその時の哀しいや嬉しいの気持ちをしばらく忘れる…ああ、虹がいてくれたんだった、と。